猫の虐待を認める新村容疑者(しっぽのこころ提供)

「あの男、最初はシラを切ったんです。“そんな猫は知らない”とか“エサをあげて逃がした”などと言って。でも、モコオを連れ去った車のナンバーは間違いなく男のもの。動物保護団体に同席してもらい時間をかけて問い詰めると、ようやく“殺した”と小さな声で認めたんです。“連れ去った4日後に死んで、用水路に捨てた”って

少なくても50匹以上は殺害した

 富山県西部に住む上田義之さん(仮名)家族は、愛猫が遺棄されたとみられる幅約1メートルの用水路脇でそっと手を合わせた。モコオ(3歳オス)は家族の一員。死骸はまだ見つかっていない。

アメリカンカールのモコオ君。以前はきかん坊だったが最近はすっかり人懐っこくなっていた(飼い主家族提供)

 上田さんが勇気を振り絞って“直接対決”して自供に追い込んだことで、この地域の猫が大量に連れ去られた事件は明るみに出た─。

 モコオを上田さん宅から連れ去ったとして富山県警射水署は13日、富山市在住の無職・新村健治容疑者(52)を窃盗の疑いで逮捕した。

「約1年前から飼い猫など10数匹を連れ去って殺害したと供述し、容疑を認めている。容疑者宅からは猫が1、2匹入るサイズの金属製のオリや、猫を突ついたとみられる園芸用の金属棒などを押収した」(捜査関係者)

 富山県警には昨年157件、今年89件にのぼる猫の「遺失物届」があり、そのすべてが新村容疑者の仕業ではないにせよ、相当数の猫を虐殺した可能性が浮上している。

 前出の上田さんの話。

新村容疑者に殺害した猫の数を尋ねると、50匹以上で100匹まではいかないということでした。明確な数を覚えていないのか罪の意識もなくめんどくさそうにウンウンとうなずき“あしたの朝、仕事で早いから”と追い返そうとするんです」

 同席した動物愛護団体「しっぽのこころ」の宇多利美代表らによると、新村容疑者は連れ去ってきた猫に熱湯をかけたり、水しか与えず餓死させたり、殴る蹴るなどの暴行を加えたと認め、犯行動機についてこう打ち明けた。

「仕事のストレス発散。ひとり暮らしで誰も相手してくれなかったから。(猫を殺して)正直、興奮した。苦労して捕まえてきたのにすぐ死んでしまったら面白くないから……ニャアニャア鳴いているのを聞いて楽しんでいた。死骸は用水路や漁港に投げ捨てた」

 おどおどした口調ながら、悪びれる様子はいっさいなかったという。

 虐待場所は「猫が恐怖を感じたときにお尻から放つにおいが残っていた」(宇多代表)ため、浴室とみられる。

 事件が報道されると、県内各地から「もしかしたら、いなくなったうちの猫も……」と被害を懸念する声が相次いでいる。

猫好きを装い「悪いことする人おるね」

 中古車販売業を営む坂本肇さん(仮名)もそのひとりだ。

 昨年の夏ごろから事務所で飼っていた11匹のうち5匹が行方不明になったまま。今年5月には事務所近くで背骨が見えるほど背中を切られた黒猫を見つけ、動物病院に連れて行ったこともある。

「猫がいなくなる前、新村容疑者に似た不審な男を目撃していたんです。数日後、その男が店頭に並べた中古車の下を覗き込んでいたので声をかけたら“猫ちゃんが好きなんです”と言っていました。私が“最近、猫がいなくなる”と話すと、“悪いことする人おるね”って。猫好きに悪い人はいないと思っていたのに……」(坂本さん)

写真のうち2匹が行方不明の坂本さん宅の猫(飼い主家族提供)

 坂本さんはこの男を何度か目撃しており、女性と一緒だったこともあるほか、男性2人と連れ立っていたこともあったという。

 新村容疑者は富山市に生まれた。近隣住民によると、両親は容疑者が生まれた直後に離婚し、しつけに厳しい父親とやさしい祖母に育てられたという。地元の私立高校を卒業後、ガソリンスタンドや警備会社などの職を転々とし、約12年前に祖母が亡くなり、約6年前に父親が他界してからは実家の戸建て住宅でひとり暮らしだった。

「おとなしいけれど、ちょっと変わっているので友達はいない」(近所の住民)

 孤独ゆえか新村容疑者は親しい人への依存を深めていったようだ。2年前まで親交のあった元同僚の男性が明かす。

「人の好き嫌いが極端。嫌いな人は無視し、好きな人にはしつこい。私の携帯には新村から休みのたびに10件以上の着信が残り、“いま家の前にいる”と電話がくることもあった。いい加減うんざりして関係を絶ちました」

 ところが事件発覚の10日前、急に電話がきたという。

「用件があって電話してきたわけではなさそうなので、近況を尋ねると“猫カフェによく行っている。猫ちゃん飼いたい”と言っていました。無駄遣いをしない性格なのでちょっと驚いた」(同男性)

仏壇の近くにセーラー服

 新村容疑者がこの男性に通っていると話した猫カフェを取材すると、

「確かに男性のひとり客はいましたが、新村容疑者かどうかはわからない」と担当者。この猫カフェの周辺でも猫が行方不明になっている。

 さらに、新村容疑者には変わった趣味があった。前出の上田さんらが直接対決のため容疑者宅を訪問した際、仏壇の近くに白い半袖のセーラー服の上下が飾られていた。独身の50代男が何に使うのか不思議に思って質問すると、「これは趣味。インターネットで購入した」と入手ルートまで説明したという。

容疑者のスマートフォンのユーチューブの検索履歴。猫の虐待に関するものばかり(しっぽのこころ提供)

 新村容疑者には、本当に友達と呼べる存在はいなかったのだろうか。中古車店で目撃されたのが本人に間違いないとすれば、一緒にいた女性や2人の男性との関係は何か。事件発覚から3週間、まだまだ謎に包まれた部分が多い中、愛猫が帰ってこない人たちの胸中が晴れることはない。

 前出・上田さんは目を赤く腫らして憤る。

もう、3週間も仕事できとらんちゃ。特に妻が悲しんでいる。モコオは寝ている妻の胸の上にドーンと乗ってきたり、甘えていましたから。こんな男に大切な家族を、と思うと怒りより悲しみのほうが強い。モコオは実は誰かに拾われて幸せに暮らしとる、帰ってくるんじゃって期待してしまって……」

 前出・坂本さんも、「いなくなった猫の動画を見ると涙が……。容疑者は理解できません。厳罰を望みます」と言うのが精いっぱいだった。

 犯人は逮捕されても被害猫たちは見つからないまま。家族らの怒りと悲しみは、行き場を失っている。