国立がん研究センターの統計によると、'16年に新たに胃がんと診断された男女は13万4650人。表のとおり、昨年に発表された罹患数予測では12万8700人だった。日本人にとって、いまだに胃がんはリスクの高いがんと言える。
幼児期に感染したらずっと続く
驚くべきは、胃がん発症者の99%がピロリ菌に感染しているという事実。つまり、ピロリ菌に感染しているか否かを調べることが、胃がんを回避するうえで重要なリスクヘッジとなる。
「ピロリ菌に感染するのは小児期です。だいたい1~2歳、遅くとも5歳以内に感染します」と教えてくれたのは、日本医科大学消化器内科学特任教授の貝瀬満さん。大人になってからは感染しないが、幼児期に感染してしまうと感染状態がずっと続くという。
「感染ルートとして考えられるのは離乳食を口うつしで与えられた際に、親の口の中に何らかの原因でピロリ菌がいることでうつしてしまうケースや、休眠状態のピロリ菌を含む糞便が入った水や食べ物を子どもが口にしてしまうケースです。
とはいえ、現在は感染リスクを過度に意識する必要はありません。ピロリ菌は衛生環境が整うにつれ、劇的に感染率が減少しています」(貝瀬さん、以下同)
そのうえで、「気をつけることがあるとすれば……」と貝瀬さんは注釈を加える。
「例えば、きちんと洗浄していない胃カメラを挿入したことで感染してしまう医原的なルートも存在する。内視鏡の洗浄・消毒はガイドラインで定められているので、感染管理術を徹底している病院やクリニックを選ぶようにしてください」
現在、人間ドック受診者の最新調査では、40代の感染率は20%台まで減っていて、20代は10%、10代になるとわずか2%ほど。貝瀬さんが言うように、衛生環境の向上とともに感染率は急減している。幼少期に不衛生な場所で過ごすといった特殊な経験がない限り、感染することはまずない。
必ず定期的に検査を
その一方、衛生面が発展途上の時代を生きてきた70代の感染率は50~60%という数字が示すように、高齢者ほど注意が必要であることがわかる。
「ピロリ菌はある日突然、胃がんや十二指腸潰瘍として発症します。感染後、何十年も身体の中に潜伏しているにもかかわらず痛みを感じません。ところが痛みを伴うときには胃がんが重度のステージに移行しているケースも珍しくない」
知らないまま何十年も身体の中で眠らせているのと早期にピロリ菌を発見し除菌するのとでは、その後の罹患リスクは異なる。では、感染を発見する検査方法はどうすればいいのか?
「誰でも簡便にできるのは人間ドック時の採血による検査。ピロリ菌の検査をオプションとして申し込むことができる病院は多い。陽性反応が出た場合、薬を7日間飲むだけで80%~90%の人が除菌に成功します」
除菌できたか否かを調べるために、必ず呼気テストによる除菌判定を受ける必要があるという。
人間ドックのピロリ菌検査は保険適用外だが、胃がんのもととなるピロリ菌の有無を確認することを考えれば安いものだろう。胃カメラかバリウム検査で慢性胃炎と診断されれば健康保険で行うことができる。除菌成功が確認できれば成人が再感染する可能性は0・2%ほどとのこと。しかし「完全に胃がんのリスクを回避したわけではない」と、貝瀬さんは釘をさす。
「除菌後、必ず定期的に内視鏡検査(胃カメラ)を受けてください。ピロリ菌の除去によって、胃がんの発生リスクを下げることはできますが、発生率がゼロになるわけではありません。実際、除菌から数年後に胃がんを発症した人もいます。早期発見のためにも、除菌後も内視鏡検査は欠かせません」
佐賀県など、全国の自治体で中学生や高校生を対象に、ピロリ菌の感染検査と除菌の費用を公費で負担する動きも目立ち始めている。
《PROFILE》
貝瀬満さん ◎日本医科大学消化器内科学特任教授、内視鏡センター室長。消化器疾患を専門分野とし、内視鏡診断・治療の国内の第一人者として活躍中