雨上がり決死隊の宮迫博之と、ロンドンブーツ1号2号の田村亮

 6月24日、吉本興業が反社会的勢力の主催パーティーで闇営業を行っていたことを理由に、雨上がり決死隊・宮迫博之さん、ロンドンブーツ1号2号・田村亮さん、レイザーラモンHGさん、ガリットチュウ・福島善成さん、くまだまさしさんら11人を謹慎処分にしたと発表しました。

 さらにワタナベエンターテインメントも、ほぼ同じ理由でザブングルの松尾陽介さんと加藤歩さん2人の謹慎処分を発表し、多くの番組で出演シーンがカットされるなどの混乱を招いています。

 事の発端となった『フライデー』(講談社)が発売されたのは今月7日。当時、吉本興業は反社会的勢力との仲介人だったカラテカ・入江慎也さんを契約解除した一方、その他の芸人たちは謝罪コメントのみに留めました。今回の対応は、処分や会見がないことに不満の声があがり、NHKが出演番組の放送を見合わせ、番組スポンサーが提供を自粛するなど、騒動は沈静化するどころか大きくなったことを受けたものと見られています。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 第1報から半月以上が過ぎた吉本興業の対応は、人々の心に「『入江だけが悪い』という結論にしようとしている」「『5年前のこと』と軽く見ている」「『反社会的勢力と知らなかったから仕方ない』とみなしている」「『これまでもある程度の闇営業は看過してきた』と思っている」などの不信感を植え付けました。さらに芸人たちによる「金銭の授受はしていない」というコメントがウソだったことが、その不信感を強めています。

 では、吉本興業と芸人たちは、どんな対応を採ればよかったのでしょうか? また、第1報時のミスだけでなく、今回あらためて発表した宮迫さんや亮さんらのコメントには、まだまだ問題が見えるのです。

「隠蔽したのでは?」という疑念

 吉本興業の問題点は、初動対応に対する認識の甘さ。第1報に、「知っている情報をすべて開示する」というクライシス・コミュニケーション(危機管理広報)の原則を守らなかったことで、より大きなダメージを招いてしまいました。

 クライシス・コミュニケーションで大切なのは、「これくらいの情報でいいのではないか」「これは出すけど、あれはやめよう」ではなく、「まだ出せる情報はないか?」「これもあれも出そう」という姿勢。そんな「誠実さを世間の人々に感じ取ってもらうこと」がダメージを最小限に留め、信頼回復への第1歩につながるものです。

 しかし、具体的な情報を一切出さなかったことで世間の人々は、「どうせ『明らかな証拠が出るまでは、悪いことをしても認める必要がない』と思っていたのだろう」「『今までのようにもみ消せる』とみていたのだろう」「『入江でとかげのしっぽ切りをしたつもり』なのだろう」などの疑念を抱くことになりました。

 7日の時点では「闇営業という悪しき商慣習」と「反社会的勢力との交流」だけだったものが、今回の処分発表で「それを組織ぐるみで隠蔽したのではないか」というイメージが人々の頭に追加されてしまったのです。“組織の隠蔽”に対する人々のアレルギーは“個人のウソ”以上に大きく、芸人たちの謹慎に伴う金銭的なダメージよりも深刻。

 しかも、吉本興業の「当面の間、活動を停止し」というコメントに、「ウソをついていたのに謹慎では甘い」「どうせほとぼりが冷めたら復帰させるつもりなのだろう」などの批判が飛び交うという事態を招いてしまいました。

 さらなるダメージを避けるためには、関係者だけでなく企業トップクラスが出席した会見が必要ではないでしょうか。そこでは、どの段階で何を知っていたのか? 誰がどのような聞き取り調査をしたのか? なぜ処分決定に約半月もかかったのか? 闇営業に対する見解はどうなのか? 今後どんな対策をしていくのか? などのコメントが求められます。

 第1報後に動画が流出して、次々に証言者が現れたように、小手先の策では逃げ切れない時代になりました。芸能事務所に限らず、政党や官公庁、各種法人などの巨大組織に対する疑念が高まっている国民感情も含め、「自分たちの策で、事の大小をコントロールしよう」という対応では、追及の手は厳しくなる一方なのです。

 吉本興業は2009年から年に2回ほどコンプライアンスに関するセミナーを行い、冊子も配ってきただけに、担当者たちにとっては痛恨の極みでしょう。今回の対応ミスによって、せっかくの努力が「どうせ形だけのものだろう」とみられかねないのです。

芸能事務所のトップに求められるもの

 今回の件は吉本興業やワタナベエンターテインメントだけの問題ではなく、芸能界全体で考えていかなければならないことに違いありません。

 たとえば、アーティストが個人的なパーティーに出て報酬をもらったり、タレントが「お車代」などと称して多額の金銭をもらったり、アイドルがファンから金銭的なものなどを援助してもらうなどの行為は少なからず存在し、芸能事務所としても個人の管理が難しいところがあるからです。

 だからこそ各芸能事務所にはこの機会に、「ウチは闇営業を絶対に認めない」「反社会的勢力との交流は絶対に認めない」という毅然とした姿勢を世間に発信することが求められます。

 また、金銭の授受に関わる報告・連絡・相談を契約に盛り込む。最低限の生活ができる月収を保証するか、健全な副業を斡旋する組織再編。管理と月収の保証ができる範囲しか雇用しないなどの具体的な対策をしたうえで、これらも世間に向けて公開することが望まれます。

 しっかり対策さえしておけば、所属タレントの闇営業や反社会的勢力との交流が発覚しても、芸能事務所を責める声は少ないでしょう。今回の初動時では、吉本興業が入江さんに非を求め、「自社も芸人たちも被害者」とにおわせる対応をしたことが、世間の反発を招いてしまいました。日ごろから世間に情報公開しておけば、自らにおわせなくても被害者とみなしてもらえるものです。

 芸能界全体に求められているのは、「個人的な問題」「対岸の火事」とみるのではなく、業界としての見解を表明すること。たとえば、大手芸能事務所のトップたちが率先して声をあげるくらいの危機感を見せられれば、闇営業の減少や反社会的勢力の排除にもつながるでしょう。

 いまだもって「きれいごとでは済まない世界」「昔から芸能界はそうだった」などの言い訳をしているようでは、芸能人に憧れる人は減り、興行収入やセールスは下がりかねません。少なくとも、「真面目に頑張っている芸能人が損をする業界ではない」ことは早々にアピールする必要があるはずです。

宮迫と亮の謝罪フレーズに残る違和感

 一連の報道を見ていて、芸能事務所と同様に気がかりだったのは、芸人たちの対応ミス。初動時の謝罪コメントに続いて、今回も「まだそんなことを言っているの?」と首をひねらざるをえないフレーズが多かったのです。以下に謝罪コメントとして問題のあるフレーズをピックアップしていきましょう。

 宮迫さんのコメントには、「間接的ではありますが、金銭を受領していたことを深く反省しております」「相手が反社会勢力だったということは、今回の報道で初めて知ったことであり、断じて繋がっていたという事実はないことはご理解いただきたいです」「どれぐらいの期間になるか分かりませんが、謹慎という期間を無駄にせず、皆さんのお役に立てる人間になれるよう精進したいと思います」というフレーズがありました。

「間接的ではありますが」「初めて知ったこと」「断じて~事実はない」はすべて身の潔白を証明するためのフレーズであり、言い訳とみなされるなど逆効果。また、「ご理解いただきたい」「どのくらいの期間になるか分かりませんが」「皆さんのお役に立てる」は復帰前提の先走った気持ちの表れであり、何より「いただきたい」と人々に呼びかけるフレーズは謝罪にふさわしくありません。

 田村さんのコメントには、「私を信用してくれていた世間の方々、番組スタッフ、関係者、吉本興業、先輩方、そして淳を裏切ってしまった事は謝っても謝り切れないです」「ただ、特殊詐欺グループとは本当に知りませんでした。そこだけは信じて頂きたいです」というフレーズがありました。

 謝罪しているのは自分に近しい人ばかりで、世間の人々や詐欺を受けた人に対するものがなく、利己的な印象を与えています。また、宮迫さんと同様に「信じて頂きたいです」という呼びかけは反省とは真逆の行為であり、避けたほうがいいのです。

「自分は被害者」が言い訳につながる

 福島さんのコメントには、「5年前とはいえ、反社会勢力と知らず」「そのお金が悪いことをして集められたお金とは知らず」「生活費にあてました」「報道のような高額ではありませんが」というフレーズがありました。

「とはいえ」「知らず」「ありませんが」という言い訳のようなフレーズが続きました。さらに、「生活費にあてた」と遊びに使ったのではないことのアピールも、人々の心証を害する結果になった感は否めません。

 ザブングルのコメントには、「お世話になっている他事務所の先輩の急なお誘いとはいえ」「相手先が反社会勢力の団体と知らずとはいえ」というフレーズがありました。こちらも同様に、ダメージを軽減したいという気持ちが見え隠れしています。

 基本的に不祥事による釈明は、「言い訳」という印象を与えないために、自らがするのではなく、周囲や世間の人々にしてもらうもの。ましてや、謝罪コメントですることではありません。

 上記の5人は、「自分は被害者なのに」という思いが消えないから、このようなフレーズを使ってしまうのはないでしょうか。しかし、被害者か加害者かを決めるのは本人だけではないのです。

 一方、レイザーラモンHGさん、くまだまさしさん、ザ・パンチ・パンチ浜崎さん、天津・木村卓寛さん、ムーディ勝山さん、2700・八十島宏行さんと常道裕史さん、ストロベビー・ディエゴさんのコメントは、シンプルな謝罪に徹して、言い訳のような釈明はなく、保身を感じさせるところもありませんでした。

 ただ、だからと言って、疑いの目が晴れないのが、謝罪コメントの難しいところ。その理由は、ほとんどの人が「反社会的勢力とは知らなかった」「認識の甘さ」「確認不足」などの共通したフレーズを使っているからです。

 13人もいれば、「どこかあやしいと感じていた」「のちに逮捕されたことを聞いていた」などとコメントする人がいてもいいはずであり、ここまでそろうと「口裏を合わせたのでは?」と思われてしまって当然。彼らが言葉を扱うプロフェッショナルであるのなら、もう少し自分の言葉で謝罪の気持ちを示してもよかったのではないでしょうか。

最大の問題は「今後、彼らを見て笑えるか?」

 13人の芸人にとって処分の重さ以上に深刻なのは、人々が彼らを見て笑いにくくなってしまうこと。おそらく彼らは、謹慎期間を生かすべく、ネタ作りなどの努力を重ねるでしょう。

 しかし、どんなに面白いトークやギャグを用意しても、彼らの顔を見たとたん視聴者のテンションは下がり、テレビ番組であればチャンネルを替えられ、劇場であれば席を立たれてしまうという危険性があります。

 芸人による笑いに限らず、すべてのコミュニケーションの前提になるのは、受け取る側の姿勢。芸人たちはスタジオや劇場で「今日の客は重い(あまり笑わない)」などと言いますが、不祥事を見た人々の重さは想像に難くありません。彼らを見る人々が「受け入れよう」という姿勢を持たない限り、笑わせることは至難の業なのです。

 だからこそ会見を開かず、文字のみの謝罪に留めている現在の対応は、「その後もジワジワとイメージが下がり続ける」という意味でリスク大。もともと芸人は、声を出してしゃべるのが仕事なだけに、「悪いことをしたうえに、いったんウソをつき、さらにダンマリを決め込んだ」と思われてしまうと、ますます復帰後の活躍は難しくなるでしょう。

 今回の13人に、もし芸人という職業へのプライドがあるのなら、やはり自らの声を発して謝罪の気持ちを伝えるのが望ましいのです。そして、反省のときを経て復帰した際には、堂々とした姿で磨き直した芸を見せて、笑いを取ってほしいところです。


木村 隆志(きむら たかし)丸コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。