高橋容疑者と父親が住んでいた公営アパートの部屋の玄関

「6月21日の午前中に訪問しましたが不在だったので、午後に再度行きました。宅配便の不在通知がドアに貼ってあったため、まだ戻っていないのかと思いドアのポストを外から開けてみると異臭がしたんです。これはおかしい、と直感したので110番通報しました」(東京・国立市役所の職員)

父親の年金をあてにした生活

 駆けつけた警察官が公営アパートの中に入り、住人とみられる80代の男性の遺体を発見した。同居していた息子の姿はなかったが、同23日午後、警視庁立川署に出頭した。

 事件発覚当時の様子を目撃していた男性は、

「私はスーパーへ買い物に向かっていました。午後2時に帰宅したのですが、警察官が20人くらい来ていて、規制線も張られ、物々しい雰囲気でした。ただ、警察官に何があったのか尋ねても何も答えてくれなかったので、近隣住民は何が起こったのかわからず、憶測やウワサが飛び交っている状態でした」

 警察官だけではなく、消防車や救急車も駆けつけ、住民たちは不安そうな顔で様子を見守っていたという。

「6月8日の夜に父親が亡くなっていることを確認したが、同21日までの間、死体を同所に放置した」(捜査関係者)

 という死体遺棄の疑いで逮捕されたのは、高橋直良容疑者。49歳で「30歳ぐらいまではIT関係の仕事をしていたようです」と話す近隣住民もいたが、現在は無職。生活費は同居する80代の父親の年金をあてにしていたという。

 80代の親が50代前後の子どもの面倒をみる“8050問題”の当事者で、

「これから起きることを考えたくなかったと供述しているようですから、父親が亡くなることで年金がストップし、自分の生活が立ちゆかなくなる不安を考えたのでは」

 と、全国紙社会部記者は指摘する。

 前出・市職員は、

「2年ほど前から、高橋さん親子に関わっています。収入はお父さんの年金とシルバー人材センターで月4~6日働いた給料しかなく、息子さんが仕事に就いていない経済的な不安を訴え、相談していました。いずれ(息子への)就労支援を、と考えていましたが、まだ途中の段階でした」

 亡くなった父親はシルバー人材センターに登録し、広報紙(市報)の配布を今年3月までやっていたが、それ以降は稼働していない。

「お父さんが登録して、それを息子さんが手伝っていたと聞きました」

 と自治体関係者。同じ公営アパートに住む男性は、

「広報紙の入った段ボールを片づけている(容疑者の)姿を6月8日に見かけたのが最後だと思う」

 と振り返る一方、親子仲について、

「口ゲンカはしていましたね。内容はよくわかりませんけど、玄関前でしょっちゅう親子で言い争いをしている声が聞こえてきました」

 と言及した。

容疑者宅のベランダには荷物が散乱していて……

 約1か月前に容疑者と話したという女性住人に話が聞けた。

『仮面女子』ファン

「自治会費の支払いについてお手紙を投函しました。それで息子さんが2か月分持って来てくれて、そのとき初めてちゃんと顔を見ました。私は20年近く住んでいますが、ほとんど見かけたことがないんです」

 さらに容疑者の印象について、次のように続ける。

「ひきこもっている印象はまったくなくて、“父はいるんですけど、外には出ないんですよ。なので僕が支払いに来ました”って言っていました。コミュニケーションはちゃんととれていましたけどね」

 完全なひきこもりではなく、他者との会話もできて、近所のスーパーに買い物も行き、趣味のコンサートにも行っていたという高橋容疑者。

「そうそう、確か『仮面女子』だったと思うよ。アイドルのコンサートには行っていたらしいですね」

 前出・自治会関係者はそう証言する。

「息子のほうは、よく自転車に乗って出かける姿は見かけましたけど」(前出・男性住人)

 その一方で、

「お宅を訪問しても、なかなか会えない状態が続いていました。就労に向けたセミナーへの参加を働きかけましたが、応えてもらえませんでした」(前出・市職員)

 と勤労意欲はまったく見せず、親の年金頼みの暮らし。

国立市役所は4月以降、容疑者父子と電話や訪問で接触がとれなかった

 自治会費の度重なる未払いはなく、ご近所トラブルもないが、妙なことを言われたことがあるんですよ、と前出の男性住人が記憶していた。

「私が引っ越してきたときの話です。洗濯用洗剤を買って、自治会長と両隣に挨拶を兼ねてうかがったんです。そのときにたまたま、息子(=容疑者)に会ったんですが“全部の階の人に挨拶しないとな?”と言われたんです。5階建ての集合住宅の全戸に挨拶する人はいませんよ。初対面なのに、ちょっと変なことを言う人だなと思いました。常識が、ちょっとずれているかもしれませんね」

 遺体に外傷はなく、病死の線が濃厚。罪を償う容疑者を待つのは、社会復帰だ。

「国立市に居住されることが前提になりますけど、必要な支援をやっていきたいと思っています。お父さまの年金もストップしてしまうのですから、ますます困窮されるでしょうね。相談があれば、生活保護も含めて対応し就労支援もやっていきたいと考えております」(前出・市職員)

 “8050問題”の当事者は、いずれ頼りの親を亡くす現実に直面する。早めに手を打たないと、同様の事件の再発は防げない。

取材・文/フリーライター山嵜信明と週刊女性取材班


山嵜信明(やまさき・のぶあき)フリーライター 1959年、佐賀県生まれ。大学卒業後、業界新聞社、編集プロダクションなどを経て、'94年からフリーライター。事件・事故取材を中心にスポーツ、芸能、動物虐待などさまざまな分野で執筆している