2019年10月に引き上げが迫る消費税は大きな選挙争点。10%への負担増を公約に明記した自民党に対し、野党は増税凍結でおおむね一致。山本太郎代表が率いる政治団体「れいわ新選組」にいたっては、消費税廃止を訴え、旗揚げから約2か月で2億円もの寄付を集めて参院選の「台風の目」となっている。
'14年、'16年と2度延期された消費増税は今度こそ「3度目の正直」となるのか? あるいは、凍結や廃止が可能なのか? 経済アナリストの森永卓郎さんが解説する。
富裕層は実質的に消費税を払っていない
「口実ができたら消費増税の再延期もありえると思います。現に、政府にとって好都合な条件がそろいつつある」
政府は「リーマン・ショック級の出来事がない限り増税する方針」というが、すでにそれ以上の危機にあると指摘。
「リーマン・ショックで低迷が続いたころの世界経済は3・3%の成長率でした。ところが、国際通貨基金(IMF)が出した今年の世界経済見通しでは3・3%、米中貿易戦争の影響から、もう0・3%下がるかもしれないと言われています。世界銀行の見立ては2・6%です。世界的に見ればリーマン後より経済状態が悪化しているのです。
加えて、五輪バブルがもうすぐはじけます。東京オリンピックの施設整備が終わり、建設需要のピークは過ぎて、今後は下がる一方。こうした要因が重なって日本経済は夏以降、急速に落ちていくでしょう。消費税を上げるには最悪のタイミングです」
もし消費増税を再延期したとしても、「トランプ大統領と習近平国家主席がケンカしたせい」と言えば、アベノミクスの失敗を問われないですむというわけだ。
そんな危機の最中に消費税を上げれば、日本経済はさらにデフレ脱却から遠のく。加えて消費税には、低所得者ほど負担が大きくなる「逆進性」の問題が指摘されている。
「そればかりか、富裕層は実質的に消費税を払っていません。結婚披露宴まで経費で落としたのはカルロス・ゴーン被告ぐらいでしょうが、彼らはたいてい自分の会社を持っていて、生活費の大部分を経費に計上しています。仕入れ控除の仕組みを利用すれば、還付金までもらえる。逆進性どころの話ではありません」
そもそも、なぜ消費税の引き上げが必要なのか? 国は「財政健全化と全世代型社会保障の実現」を理由に上げる。
「消費税を社会保障のために使うというのは詭弁です。社会保障は税金で支えるイメージかもしれませんが、実際には、財源の6割が社会保険料でまかなわれています。厚生年金と健康保険の負担は労使折半が原則なのに、消費税を払うのは消費者だけ。しかも増税分は大企業や富裕層の減税に向けられています。
'05年度には30%だった法人税率は'17年度には23・4%に。その結果、いまでは446兆円もの内部留保を抱え込み、なおかつ減税まで受けているありさま。スウェーデンでは社会保険料の個人負担率が日本の半分で、企業負担は日本の2倍です。日本でも同じようにするか法人税率を元に戻せば、消費税は下げられます」
“借金大国ニッポン”は嘘
日本は借金大国で、少子高齢化により社会保障費が逼迫し、消費税を引き上げなければ国の財政が破綻する……。消費税をめぐる議論では、こんな話をよく耳にするものだが、森永さんは「真っ赤な嘘です。みんな財務省にダマされています」とバッサリ。
例えば、国債の金利。信用度に応じて金利が決まるのは国債でも同じ。そのため財政破綻したギリシャでは国債に40%の金利がついた時期もあった。現在、日本国債はマイナス金利で、これは健全財政の証だと森永さんは言う。
「日本政府は、表向きは1469兆円もの借金をしていますが、一方で986兆円の資産を持っています。つまり借金と預金を両建てしているような状態。資産から負債を差し引くと、483兆円のマイナスに。ただし'16年度のGDPは538兆円なので、国が抱える本当の借金はGDPの9割程度になります。これは欧米とほぼ同水準で、借金大国ではなく、普通です」
財政状況が普通なのに、どうして日本の国債は世界一低金利なのか? それには、こんな仕掛けがあるという。
「いまの日本では、日銀が国債を買い入れて、その代金として日本銀行券を支払っている状況。これを金融緩和と言います。この経済政策を安倍首相はとてつもない規模でやりました。国債を持っている国民には金利を支払い、10年たてば元本も返済しなければいけませんが、国債を日銀券にすり替えた瞬間に利払いや元本返済の必要がなくなる。つまり政府の借金が消えてしまうというわけです」
この「消える借金」の累積は現在、450兆円ほどにのぼるという。前述した国の実質的な負債483兆円と相殺すれば借金は33兆円になる。
「無借金と言ってもさしつかえのない状態。消える借金を経済用語で通貨発行益と言いますが、これを考慮すれば、日本の財政は健全で、消費税を上げる必要はまったくない。廃止したところで実は何の問題もありません」
《PROFILE》
◎森永卓郎さん 経済アナリスト、獨協大学教授。三和総合研究所(現・三菱東京UFJリサーチ&コンサルティング)などを経て現職。各メディアで活躍中