第26回 市井紗耶香
6月26日、第25回参議院選挙の日程が閣議決定されました。それに伴い、元モーニング娘。の市井紗耶香が立憲民主党から比例代表で立候補することを発表し、話題を集めています。市井は4人の子どもを持つお母さんであり、「今の日本が本当に子育て世代に温かい社会になっているのか、疑問に思う」と出馬の理由について語っています。
参院選に芸能人や著名人が出るというのは、今に始まったことではなく、なぜ「政治のシロウト」が出馬するのかというと、投票の仕方にあると言えるでしょう。参院選比例代表の場合、支持する政党もしくは候補者名を書き込むことが認められています。
特定の党を支持しているわけではない人、いわゆる無党派層が、条件反射的につい知っている名前を書いてしまうことはあるでしょう。党にとって有名人を候補者にすることは、もともとの党の支持者を維持できるうえに有名人のファンを取り込めますから、ダブルに票が見込めて「大助かり」と言えるのではないでしょうか。
世界各国の国会議員の連合体である「列国議会同盟」の発表(2018年版)によりますと、日本の女性政治家の議員比率は10%程度で、193か国中165位、先進7か国(G7)中ダントツ最下位です。
市井紗耶香なら女性だし、国民的アイドル・元モーニング娘。の一員だったから知名度は申し分ないし、この少子化の時代に4人の子どもを持つお母さんだから、「お母さん目線」を訴えれば、楽勝だ。「女性に優しい党」だとアピールできて、党のイメージもよくなる。
党の執行部がそう思って市井をリクルートしたのだとしたら、時代が読めていないという意味で、ヤバいのではないでしょうか? ヤバいと思う理由は3つあります。
理由その1:
SNSの時代であることをわかっていない
タレントが選挙に出ると、「芸能人が政治家になって、何ができる」と必ず言われます。確かに、弁護士やニュースキャスターなど政治や法律にかかわる専門分野を持っている他の候補者と比べたら、知識や経験が不足している部分があるところは否めないでしょう。実際、三原じゅん子(自民党)や、谷亮子(民主党、1期で辞職)が出馬したときも、各週刊誌には「芸能人に何ができる」という論調の記事が並びました。
週刊誌なら1週間もすれば、店頭から消えますが、SNSはそうはいきません。個人の意見をいつでもつぶやくことができますし、関心のある人の間でリツイートされたり、いいね! がついたりします。テレビや新聞でなく、SNSが世論を誘導することもある時代になってきています。
仮に市井が不勉強で不見識な言動を取った場合、「アイドルが政治家に向いていない証拠」として、一気にSNSで拡散されるでしょう。タレント出身の候補者で、注目度が高いからこそ、ささいなミスも許されないのです。
理由その2:
タレント議員に向けられる視線が厳しくなっている
アイドルでお母さんである参議院議員と言えば、元SPEEDの今井絵理子議員を思い出す人もいるでしょう。お子さんが聴覚障害者であることが政界進出のひとつの理由とされていますが、2017年に『週刊新潮』(新潮社)に神戸市の市議(当時)と新幹線内での手つなぎショットや、ホテルの同部屋宿泊を撮られています。今井議員は「一線を越えてない」と不倫関係を否定したものの、印象としてはかぎりなくクロでしょう。
「アイドルから政治家となり、仕事にかこつけて不倫をする」というあしき前例を今井議員が作ってしまったことに加え、上述したとおり、「そもそも、芸能人に何ができる」と思っている有権者はたくさんいます。芸能人から政治家になろうとする人に、かつてない厳しい視線が注がれていることを、市井本人や党は気づいているのでしょうか?
理由その3:
「母として」という言葉のあいまいさ
国会内で出馬会見をした市井は、子育てに関する政策が不十分なことを挙げ、その理由を「現役のお母さんが政治の世界に少ないから」と分析しています。しかし、「現役のお母さんとして」の視点が何なのかは、明らかにされていません。
ひと言で「お母さん」といっても、境遇や信条などいろいろなタイプの「お母さん」がいて、困っていることも人それぞれです。どのゾーンの「お母さん」もしくは「子ども」を助けたいのか、具体的な政策として訴えないと、最大のターゲット層である「現役のお母さん」の支持は集まらないのではないでしょうか。
#MeToo運動以降、女性のあり方について個人が意見を述べる流れが続いています。同じ女性だから、私もお母さんだから支持するというほど、有権者は甘くないと思うのです。
そうは言っても、参院選での芸能人の当選率は高いと言えるでしょう。実績のない芸能人が当選しているということは、有権者も知名度の高さには逆らえないということ。政治家を知名度で選んでしまう、われわれ有権者もヤバいのです。
それでは、なぜ知名度の高い人が票を集めてしまうかと言うと、「誰に投票したらいいかわからないから」という面もあると思うのです。政治家がどんな活動をしていて、どんな考えを持っているのかを知る機会はほとんどないと言っていいでしょう。
ですから、ぜひ大衆認知に長(た)けたテレビで、選挙前だけでなく定期的に政治家の討論番組をやってほしいと思うのです。有権者は普段から政治家の活動について知ることができますし、政治家も自分をアピールするいい機会になるでしょう。政治を身近に語ることができるようになれば、政治家の質も向上していくのではないでしょうか。
政治は生活に密接に結びついています。暮らしをよくするために、有権者ができることは、投票に行くこと。この国がヤバくなっていくのか、それとも持ち直すかは有権者次第なのです。
プロフィール
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。