小栗旬主演の『代償』などのドラマのほか、バラエティー、アニメなどオリジナル作品も魅力。Huluオリジナルドラマ『代償』全話独占配信中!(c)HJホールディングス

 定額で気軽に物やサービスを“利用”できる「サブスクリプション」市場で特に盛り上がりを見せているのが映像分野。リサーチ会社『GEM Partners』の調べによれば、サブスクリプションによる動画配信サービスの利用率は2018年度で18・6%となっており、3年間で9・7%上昇しているという。

「好きなものをいつでも」という手軽さがイイ

 国内外のさまざまな映像作品を楽しめる利用者にとってもうれしいサービス。普及した理由は視聴習慣の変化にあると、フリージャーナリスト・西田宗千佳さんは話す。

スマートフォンやタブレット端末の普及がやはり大きい。また、YouTubeの台頭もあり、近年はテレビがあっても手元で動画を見る家庭が増えつつあります。主婦の方で、旦那さんと一緒にいても、好きな作品を自分のスマホで見るのが生きがいなんて話も聞かれるくらい(笑)。

 そんな時代の流れの中で、'11年にHulu、'15年にはNetflixが日本上陸。好きなものをいつでも見られるという手軽さも受け、広がりを見せるようになりました」

 既存の映画やテレビ番組を楽しめる一方で、各社が力を注いでいるのが、ドラマやバラエティー番組といったオリジナルコンテンツだ。ときに昨今の地上波では見られないような、ギリギリのラインを攻めた番組や、アカデミー賞などを獲得した作品もあり、視聴者からの評価も高い。

「従来、各映像配信サービスは、既存の作品を配給会社やテレビ局から購入して配信していましたが、昨今はオリジナルの作品づくりに乗り出す企業も増えてきました。それは独自性を打ち出し、その配信サービスでしか見られない魅力的な作品をつくることで、会員を増やし、つなぎとめるのが狙い。

 映像系のサブスクリプションが強いのは、広告に頼らず良質な作品をつくり会員を増やすことで、継続的に製作費を調達できることです。番組1本につき数億円を費やしても、翌月には会費としての収益が入ってくるから、強気な番組づくりができるという背景があります」(西田さん)

 利用者は見たい作品の中から自分で選択できるため、製作側は不特定多数のターゲットを狙う必要がなく、製作の自由度も高い。そのため良質な作品を生み出せるというわけだ。

今年の『第91回アカデミー賞』で監督賞など3部門を受賞し一気に話題になったオリジナル映画『ROMA/ローマ』、Netflixで独占配信中

 数ある映像系サブスクリプションのなかでも「サブスクの王者」と呼ばれているのが、アメリカから日本へやってきた『Netflix』。'18年末の決算報告によれば、有料会員数は全世界で1億3900万人。番組製作費は約120億ドル(約1.3兆円)を投じており、'19年には約150億ドル(約1.6兆円)まで拡大する見込みだ。なぜこれほど製作費を注ぎ込めるのか。

『Netflix』はどうしてウケる?

「彼らが強いのは、会員から月ごとに莫大な固定収入を得られることです。少し赤字になっても、中長期的にみれば会費により補填できる。なかでもNetflixは単純に1人あたりの月額を1000円としても1390億円もの継続的な月収が見込めるので、冒険的な番組づくりに挑める仕組みがあります」

 圧倒的な資金力を有する一方で、番組製作にかけるこだわりもみられる。各分野のプロである5人のゲイのチームが、悩める人を匠の技で変身させるリアリティー番組『クィア・アイ』や、麻薬王の人生を描いた海外ドラマ『ナルコス』といった物議を醸すテーマの作品を打ち出す一方、舞台裏では製作陣がきっちりハラスメント研修を受講。クオリティーファーストに余念がないのも高評価の秘訣だろう。

 競合との差別化のため、ただ過去の映像を配信するのではなく、オリジナル番組づくりに注力する流れを生んだのも同社だ。

「魅力ある作品を手がけるのは、どのサービスも抱えている課題です。特にドラマは連続で配信できるため会員の心をつかみやすく、Netflixはいち早くその可能性に目をつけていました。'13年に配信開始された『ハウス・オブ・カード 野望の階段』がテレビ局以外で初めてエミー賞を獲得して以降、不動の地位を築きつつあります」

 '18年のエミー賞では、年内最多となる112部門にノミネート。今後も業界の牽引役として、視聴者を楽しませてくれそうだ。

 そんなNetflixも含めて、現在の映像系サブスクは群雄割拠の状況だ。具体的にはどういったサービスがあり、何をポイントに利用すればいいのか。

代表的な動画配信サービスの特徴を比較してみた

 前出の『GEM Partners』の利用率ランキングによれば、直近の勢力図としてはAmazonプライム・ビデオが強く、次点にHuluNetflixが続く。これらはフルラインナップ型と呼ばれる、幅広いジャンルの作品を網羅したサービスだ。

 西田さんに各サービスの特徴を解説してもらった。

映像サブスク12種の違いは?

「多くの会員を抱えるAmazonプライム・ビデオは、迷っているならまず登録しておいてほしいサービスですね。そもそもは有料会員である『Amazonプライム』の特典のひとつで、配送料無料などの恩恵もある。通販をよく使うのであれば相対的に割安になるためお得に使えるはずです。

 Huluも国内では人気のあるサービスですが、日本テレビ系の人気ドラマの後日談を描いたスピンオフ作品が配信されることも。同局のドラマを見逃したり、録画し忘れた番組を見るのにも役立ちます。

 前出のNetflixはオリジナル作品が目立ちますが、欧米のみだけではなく世界中からの作品が集まっており、とりわけ海外ドラマに興味があるならば選択肢に入れておきたいところです」

 海外発の映像系サブスクリプションが台頭する一方で、国内発のサービスも存在感をみせている。

「USENの子会社が手がける『U-NEXT』(ユーネクスト)は、電子書籍による雑誌の読み放題もついてくるサービス。厳密には完全な課金制ではなく、見放題できる作品に加えて毎月付与されるポイントで最新作を購入できるのですが、新作映画に興味がある人におすすめです。

 また、NTTドコモとエイベックスが運営する『dTV』はエイベックス系アーティストのライブ映像を配信しているほか、韓流ドラマにも比較的強いのが特徴です」

 さらに、近年はテレビ局が運営する映像系サブスクも目立つ。

「NHKの番組を見たいのであれば、やはり同局の『NHKオンデマンド』がベスト。過去に放送された大河ドラマや連続テレビ小説も楽しめます。民放でいえば、無料の『TVer』(ティーバー)はキー局や地方局の番組を放送終了後から原則1週間は視聴できるので、アプリを入れておいて損はありません。

 また、先述したように日本テレビ系の番組がそろうHuluのほか、テレビ朝日系であればサイバーエージェント共同運営の『AbemaTV』(アベマティービー)、TBS系のドラマやテレビ東京系のニュースなども見られる『Paravi』(パラビ)、フジテレビが手がけるオリジナル作品も充実した『FOD』と、テレビや録画機器を使わずとも各局の番組を楽しめるようになっています」

 また、特定のファン層に的を絞ったサービスも注目度が高まっている。

「スポーツ中継に特化している『DAZN』(ダゾーン)は、地上波では見る機会の少なくなった野球中継やサッカー日本代表戦などを楽しめるサービスです。今年3月にサービス提供を開始した『Disney DELUXE』(ディズニーデラックス)も要注目。ディズニー作品はもちろん、『スター・ウォーズ』や『アイアンマン』などのマーベル作品も見られるので、ファンは入っておいて損はないはずです」

 ここまで紹介したサービスはごく一部で、今秋にはアップル社が手がける『Apple TV+』の参入も予定されており、映像系サブスク市場は今後も競争が激化しそうだ。'20年の東京オリンピックでも動画配信による生中継が強化される見通し。かつての大会でテレビが家庭へ普及したのと同じく、動画配信がより身近に浸透するきっかけとなるのかもしれない。


《PROFILE》
西田宗千佳さん ◎フリージャーナリスト。主な著書は『ミライのつくり方2020-2045 僕がVRに賭けるわけ』など多数