吉田敬 撮影/矢島泰輔

 あるときは「ブ男はハンサムに比べていかにハンデがあるか」を嘆き、あるときは「2年くらいツタヤで暮らして映画を見ながらダラダラしたい」と妄想し、あるときは「1日1億円の収入があったら高級風俗でどんなサービスが受けられるか」をまじめに計算してみる。

 そんな毒吐きとシュールさと男の本音に満ちたエッセイ集『黒いマヨネーズ』の書き手は、ブラックマヨネーズの吉田敬さん。約5年間にわたって雑誌に連載したコラムをまとめた一冊だ。

5年間の連載が一冊のエッセイに

「今回の連載では、ただ言いたいことを言うだけじゃなくて、読んだ人がクスリと笑える内容にすることにこだわりました。文章を書くのは好き……なのかなあ? 子どものころに書いた作文が、地元の小学生の優秀作品を集めた文集に載ったことがあるので、まあ、僕の文章には人を惹きつけるものがあるんやろうなと思います(笑)」

 そんな言葉も飛び出すほどの自信作だが、連載の依頼をもらったとき、1度は断ったという。

「仕事も忙しいし、絶対しんどいのはわかっていたんで。でも、お世話になった人に頼み込まれて毎月原稿を書いているうちに、よく考えたら、自分が思ったことをそのまま表現できる場ってこのコラムくらいしかないなと気づいたんです。

 テレビの収録だと“なんで俺のボケがカットされたんやろ”とか“俺、ホンマはもっと面白かったはずなのに……”と悶々とした気持ちになることもあって。周囲から“お前、あの番組であんまりしゃべれてなかったな”と言われて、“違う、あれは編集が下手やねん”なんて言い訳することもよくあるし。それで誰の手も加えられないコラムの仕事を大切にして、他人のせいだと言い逃れができない場にしようと思ったんです」

 こうして吉田さんが原稿用紙と真摯に向き合って生まれたコラムは、どれも内容が濃くて読みごたえあり。ブラックマヨネーズの漫才でもおなじみの、女性にモテないコンプレックスや他人への嫉妬といったネガティブ思考が炸裂しつつ、そこから思いがけない方向に話が展開して、笑いや社会への鋭い風刺に着地するという独特の吉田ワールドが繰り広げられる。

「例えば、モテないからって引きこもっていたら、いつまでたってもそのままじゃないですか。だから、コンプレックスがあったとしても、諦めるんじゃなくて抗うことにしてるんです。

 僕も若いころは、美人と向き合うだけでめっちゃ緊張してうまく話せなかった。それで“いかん、俺はいきなり10段の跳び箱を跳ぼうとしている。まずは2段から始めるべきや”と思い、“60代の女性と話すところから練習しよう”と決めて実際に行動したんです(笑)。60代の女性には失礼かもしれませんが、要するに自分にできそうなことをやっていくことが大事だって話です。

 例えば、オタマジャクシもいつかカエルになると思っていないはず。オタマジャクシとしての日々を一生懸命生きていたら、そのうち勝手にヌルッとカエルに変わるんじゃないかな」

ギャンブルから学んだことは?

 ギャンブル好きとしても知られる吉田さん。作中でもボートレースやパチンコの話題がたびたび飛び出す。

吉田敬 撮影/矢島泰輔

「ギャンブルから学ぶことは多いです。例えばボートレースなら、全員の選手が1着を目指してスタートするわけですよね。でもどこかの時点で誰かが飛び出して1着がほぼ決まった瞬間、ほかの選手たちはすぐ2着争いを始めるんです。そして2着が決まったら、すぐ3着争いに移る。つまりひとつの負けを引きずらないで、次の瞬間には今できることを一生懸命やるわけです。

 だから僕もそれを見習って、テレビの収録で1度くらいスベっても引きずらないで、“今からできることをやろう”と切り替えるようにしています」

 なかには「男にとって不倫と浮気は別物」と主張する既婚女性なら気になるコラムも。「浮気は下半身の問題なので情状酌量の余地があるが、不倫はダメ」という男性目線の持論を正直に語っている。

「浮“気”というけど、浮ついたのは気持ちではなく下半身だけ。脳は妻や彼女を思いながらも、下半身に負けてしまった状態です。でも不倫は違う。脳も下半身も負けている。だから不倫はダメだと書きました。

 実はこのコラムを書いたのは、ベッキーが既婚者と付き合っていることが報じられて世間から叩かれていた時期だったので、“浮気を肯定する文章が世に出たら、俺も逆風を受けて仕事を失うかもしれない”というくらいの覚悟で書いたんです。

 でも結局、何の反響もなかったんですけど(苦笑)」

 吉田さんのウソのない言葉が並んだこの一冊は、女性が男性の心理を理解するための参考書にもなりそう。

男はゲスい部分もあるけど、ゲスいからといって優しくないわけじゃないので、それを知っていただけたら。これを読んで“夫はこんな気持ちで仕事に行っているのかな”とか、ご主人の偉大さに改めて気づくきっかけになったらうれしいですね

ライターは見た! 著者の素顔

 連載中は原稿を書き上げるたびに奥さんに見せて、「俺すごいやろ」と達成感を味わっていたという吉田さん。でも書籍になってからは、奥さんだけでなく、仕事関係者や芸人仲間にも自分からは一切、本を渡したりすすめたりはしていないそう。

「自分で渡したら、相手がSNSで感想を書いてくれないと我慢できないんで。でも一緒に仕事をするプロデューサーたちは自分で買って読んでくれたらしく、“この人すごいな”と畏敬の念で僕を見ている気がします(笑)

『黒いマヨネーズ』(幻冬舎)
吉田敬=著 1300円(税抜)
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PROFILE
●よしだ・たかし●1973年、京都府生まれ。吉本総合芸能学院(NSC)大阪13期生。1998年、小杉竜一とお笑いコンビ『ブラックマヨネーズ』を結成。2005年、『M-1グランプリ』で優勝しブレイク、多ジャンルで活躍する。著書に『ブラックマヨネーズ吉田敬のぶつぶつ』『人生は、パチンコで教わった。』がある

(取材・文/塚田有香)