東海林さだおさん 撮影/北村史成

 御年81歳の現在も、週刊誌3本、月刊誌1本の連載を続けている東海林さだおさん。その連載期間は、最も短いもので32年! これまで刊行した著作数は「何冊あるんだろう……」とご本人も把握しておらず、今回加わった新刊『ざんねんな食べ物事典』について話を聞き始めると、「どんな内容だっけ?」と苦笑いしてページをめくった。

 お得意の食べ物に加え、日常で見つけたさまざまな“おもしろいこと”をテーマにしたエッセイ集である。内容を思い出した東海林さんが、書いていて特におもしろかったというのが、謝罪会見をテーマにした一篇だ。

身近な物も思いも寄らない視点で
笑いのツボを突くユーモアエッセイ

「山一證券の社長の会見は歴史に残るよね。いまは対応策ができていて、みんな何も反省せずにゾロゾロ出てきて頭を下げるだけ。見慣れちゃって何も感じない」と、謝罪の形式のアイデアを自ら提案する。実際にエッセイに書いたものは読んで楽しんでもらうとして、取材時に披露してくれたアイデアはこうだ。

おろし金みたいな“土下座台”を作って、その上で頭をゴリゴリさせながら土下座するの。謝罪だからそのぐらい反省の色を見せないと! ゴリゴリ度が高いほど謝罪の気持ちが強いわけで、傷痕もちゃんと披露して。あぁ、このネタを書けばよかった(笑)

 ほかにも老人たちが抱える“痒い”という問題から超高齢化時代の商機は孫の手にあると主張(?)したり、書名にもなった“ざんねんな食べ物”の1つに挙げられたスルメはわずか5mmにつぶされていて、人権ならず“イカ権”をどう考えているのかと問題提起(?)したり。

 身近な物や事柄なのに、東海林さんの手にかかると全く気づかなかった点がクローズアップされていて、つい笑ってしまう。

『ざんねんな食べ物事典』東海林さだお=著 文藝春秋 1350円 ※記事中の写真をクリックするとAmazonの紹介ページへにジャンプします

視点をちょっと変えているだけ。マンガ家の発想なんだろうね。エッセイストはいっぱいいるけれど、日本にユーモアエッセイを書く人はほとんどいないですよ。笑いは技術で、必ず伏線があってオチにもっていくという構図はマンガも文章も同じです。

 でも、マンガは最初にアイデアを考えて描き始めると変更がきかなくて、一方の文章は書いているうちに急にアイデアが浮かんで、思いも寄らない方向に進むこともある。エッセイはそうしたライブ感というか、アドリブのきくところが違いますね」

 数ページごとに挿入されるイラストもまた笑いを誘う。「◯○過ぎる△△」というフレーズをテーマにした一篇では、“森友学園問題”で国会に証人喚問された、つぶらな瞳のお役人が雰囲気そのままに描かれ、「あの声でトカゲ食らうかホトトギス あの顔で大嘘つくか佐川さん」と江戸時代の俳句と韻を踏んだ絶妙な一句が添えられている。

「あの人には本当にショックを受けたね。自分ではっきり嘘を言っている自覚があるはずなのに、目が澄んでいて、まさに正々堂々。役人はこうあるべきという哲学みたいなものがあるのかも」と長年、世の中を見つめ続けても、驚くことや不思議なことはまだまだたくさんあるそうだ。

ラーメン小袋のせいで
大物が育たない!?

 ラーメンについては、行動学と即席ラーメン誕生60周年という2つのテーマで、巻頭と巻末を飾っている。その中で、自ら“インスタントラーメンの生き証人”を名乗る東海林さんが由々しき問題とするのが、スープや薬味の小袋だ。

あれは何とかならないかね。なかなか開けられないし、突然ブチッと切れて中身が飛び出るし、3袋ぐらいあって先に入れろとか最後にのせろとかややこしいし。あの小袋をチマチマとちぎって中身を入れてるから、日本ではみんな人間が小さくなって西郷隆盛みたいな大物が出てこなくなっちゃった(笑)

 また、よくチェーン店も利用しているそうで、ライターと“チェーン店”道に花を咲かせる対談も。東海林さんが好きな日高屋、吉野家などは2年ほど前から“ちょい飲み”メニューが登場して、変化が見られるそうだ。と、あれれ? この対談で東海林さんは“ちょい飲み”していると語っているが、確か禁酒していたのでは?

酒の飲みすぎで肝臓がんになって、手術してから5年たつので寛解ってところです。もうビールぐらいは飲みますよ。本当は飲んじゃいけなくて、定期検診で病院に行くと、先生がまず僕の両肩をつかんで揺らしながら『飲んでないでしょうね!』と聞くので、『はい』って答えてます(笑)。以前よりずっと量は少なくなったから、比べたら飲んでいないようなものです」

マンガを執筆中の東海林さだおさん 撮影/北村史成

 飄々と語る様子は、ファンにとって東海林さんらしいと思う反面、やはり身体を大切にと願って複雑な気持ちになるのでは!?

 そんな東海林さんが、近いうちに連載のテーマにしようとねらっているのが、毎月、全国紙の新聞一面に広告を出している「月刊住職」という雑誌である。

「目次を見ると、寺の跡継ぎ問題や樹木葬や散骨の発展ぶり、寄せ書きするお棺の流行とか、現代のお寺の現状がすごくよくわかる内容なんですよ」

 たとえそんな広告を見たとしても、われわれ多くの一般人はスルーしてしまう。

小さな子どもは『なんで、なんで?』と面白がるのに、大人になると、みんな実利以外のことに興味をもたなくなるんだよね。でも、いくつになっても、どんなことでも気持ちがあれば、面白がれる。『好奇心を持て!』ですよ

 と、最後はエールを送ってもらった。

ライターは見た! 著者の素顔

 最近、生ハムを“原木”で購入し(5万円也!)、台座と専用ナイフも用意して、お仲間を集めたパーティーでお披露目しているそう。「まだまだ残ってるよ」と気前よく、私たちにも振る舞ってくださいました。「厚く切るとかつお節みたいでおいしくない」と言いつつ、器用にスライス。「ビールもあるよ(小声)」……うれしさも相まって、つい1杯飲みたくなる極上のお味でした!!

気前よく生ハムを振舞ってくれた東海林さだおさん 撮影/北村史成
しょうじ・さだお●1937年、東京都生まれ。1967年に『新漫画文学全集』で連載デビュー。1974~2014年に毎日新聞朝刊で4コママンガ『アサッテ君』を連載。現在の連載は「週刊文春」の『タンマ君』、「オール讀物」の『男の分別学』など。2000年に紫綬褒章、’11年に旭日小綬章受章。

(取材・文/宮下二葉)