第27回 宇垣美里
女子アナの採用を担当するTBSの人事部はすごいなと私は前から思っています。短時間の選考で、小島慶子や青木裕子、田中みな実など、ま~、キャラが濃い女性ばかりを発掘するなんて、ちょっとした奇跡ではないでしょうか。
キャラの濃さというTBSの伝統を受け継ぎ、今、世間サマをちょっとお騒がせしているのは、4月からフリーになった宇垣美里でしょう。
『ダウンタウンなう』(フジテレビ系)に出演した宇垣は、TBS時代のウワサについて明かします。入社3年目に「降板を言い渡されると、“なんで私が降りなきゃいけないんですか?”と泣き叫び、コーヒーを壁に投げつけた」と『週刊現代』(講談社)に報じられた宇垣。真実か否かを同番組ナビゲーターの坂上忍に聞かれた彼女は、おおむね事実であることを認めます。
事の詳細は、こんな感じ。降板をギリギリになって告げられたことに、宇垣は立腹。「私に対して失礼」「(降板が)決まらないなら、先延ばしにすべき」とプロデューサーに物申し、同番組司会のダウンタウン・浜田雅功を「おまえ、すごいな」と驚かせます。
降板を告げる際、プロデューサーはコーヒーを用意していたそうですが、宇垣は「あなたからもらったコーヒーは飲めません」と、プロデューサーの見ている前で、コーヒーを流しに捨てたそうです。さらに、彼女とプロデューサーの間の会話が、世間に漏れていることについて、「TBSの民度が知れる」と発言、坂上をして「すげーな」と言わしめます。
こんな事件もありました。宇垣は『スーパーサッカー』のアシスタントを務めていましたが、メインの極楽とんぼ・加藤浩次に「台本ばかり見るな」と注意されたところ、イラっとして台本を加藤の目の前で投げ捨てたそうです。浜田は再び「おまえ、すごいな」と驚いていましたが、宇垣本人は「そのあと、加藤さんが気に入ってくださって」と涼しいお顔。
ここまでヤバい人は、明らかに会社員には向いていないので、フリー転向はいい決断だと言えるのではないでしょうか。TBS在籍中にコーヒー事件が記事になるということは、常識的に考えれば、身近な人がリークした可能性は高いでしょう。上司かその周辺に「やり返された」と見ることもできるはず。そのまま会社に残っていても、活躍は望めなかったかもしれません。
かといって宇垣は悪女ではない
ネットでは「性格に難がある」と書かれたりしていますが、宇垣はファーストフォトエッセイ『風をたべる』(集英社)に「稀代の悪女になってやろうじゃないですか」と書いていたくらいですから、そんな指摘は痛くもかゆくもないでしょう。幸い、芸能界には長いこと、悪女キャラが不在ですから、1度そのポジションに収まってしまえばおいしいと思います。
しかし、宇垣が悪女になれるかというと、ちょっと足りない気がするのです。
悪女とは何かを定義すると、やっていることはむちゃくちゃで、人の神経を逆なですることもあるけれど、気にせずにわが道を行く強い女性のことを指すと思います。
周囲は迷惑をかけられながらも、そんな彼女を嫌いになれないわけですが、宇垣は悪女になれるほど、強くないと思うのです。上司からもらったコーヒーを捨てたり、台本をポイ捨てしたり、気が強いじゃないかと思う方もいるでしょう。しかし、これは自分から仕掛けたわけでなく、上に何か言われたときの“反応”であることがポイントだと思うのです。
「イタチの最後っ屁(ぺ)」という慣用句をご存じでしょうか? イタチは外敵に遭ったりしてピンチに陥ると、悪臭を放って敵をひるませることから、この言葉は「最後の手段」という意味で使われています。
宇垣の行動も、イタチの悪臭と同じで「相手を威嚇するための、最終の手段としての強がり」ではないかと思うのです。“あなたなんて怖くない”ということをアピールするために、コーヒーを上司の目の前で捨てたり、台本をポイ捨てするような行動をとるのではないでしょうか。
「気が小さい」か「精神面が未成熟」な可能性
宇垣といえば、『クイック・ジャパン』(太田出版)に連載中のコラムで記した「マイメロ理論」が有名です。理不尽な出来事に遭遇したとき、宇垣は「私はマイメロだよ~☆ 難しいことはよくわかんないしイチゴ食べたいでーす」とサンリオのキャラクター・マイメロディになりきって、自分の心身を守ると説明、さらに『風をたべる』では、「この人、マイメロになんか怒っているんですけどwww 暇かよwww」といった具合に、怒る人の1段上に立って、笑ったり哀れんだりしていることを明かしています。
これもまた私には、自分を守るための「強がり」に思えるのです。自分に非があると指摘されるのが怖い、傷つきたくないと思うからこそ、マイメロという別人格に逃避することで、相手の話をいっさい耳に入れないようにしているのではないでしょうか。
同番組に出演した宇垣の親友は、彼女のことを「あなたは正しいと言われたい子」と評していましたが、そういう人にとって、降板宣告や注意は「あなたは間違っている」と言われたのと同じに感じられるのではないでしょうか。「攻撃は最大の防御」と言いますが、一連の行動は宇垣が自分を守るための過剰防衛に私には見えます。
「やられたら、やり返す」という宇垣のような人は悪女というより、「気が小さい人」もしくは「精神面が未成熟な人」ではないでしょうか。
宇垣の上司からのコーヒー拒否行動は、常識的に考えたら、そしられても仕方ないことでしょう。それに対し、悪女が取る行動というのは、もっとしれっとしたもの、つまり傍目からみると、攻撃しているように見えないのに、相手に確実にダメージを与えられるすごさがあるのでははいでしょうか。
田中みな実の悪女っぷり
例えば、宇垣の先輩にあたる田中みな実は局アナ3年目のころ、『さんまのホントの恋のかま騒ぎ』(TBS系)に出演しています。
さんまと田中が掛け合いをしていたとき、マツコ・デラックスがマイクを押さえて、田中のことを「本当に嫌いなのよ」と隣に座るミッツ・マングローブにささやいたことを、双子おネエタレントの広海が暴露。田中は「マツコさんに嫌われちゃった」「マツコさんに嫌われるようなことをしてしまって、申し訳ありませんでした」と泣き始めて、マツコを悪者に仕立てあげます。しかし、涙を見せたのはごく一瞬で、実は笑っていたのでした。
弱いフリをして相手を窮地に追い込むことができるのは、田中が本当は強い証拠だと思うのです。
宇垣が本当に強気な性格なのか、私の想像するように、気の小ささを隠すために過剰防衛しているのかはわかりません。しかし、ズケズケものを言う美人や、強がっているけれど本当は弱い美人といった、ちょっと波風を立てる“メンタル不安定系”を支持する層は男女問わずいるでしょう。周囲を適度にハラハラさせ続けることができれば、宇垣はタレントとして大成できるのではないでしょうか。
プロフィール
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。