ここ数年、女性のモデルやアイドルなどがバラエティ番組に出るケースが増えてきました。容姿端麗であるうえに、バラエティでとぼけた面白さを出してくれる彼女たちは「テレビの華」とも言える存在です。現在でも、藤田ニコルさん、滝沢カレンさんをはじめとして多くの人がテレビに出ています。
そんな中でも、モデルやアイドルであるにもかかわらず、バラエティ番組で体を張って笑いを取りに行く人も出てきています。その先駆けとなったのがモデルの鈴木奈々さんです。彼女は一時期まではバラエティの女王として君臨していました。
体張ることも辞さない「できる女」
鈴木さんの魅力は、天性の明るさと落ち着きのなさです。とにかく挙動不審で動きが激しく、テレビのフレームをはみ出しそうなほどの勢いがあります。話し方もややうるさくてしつこい感じもしますが、実はさりげなく本質を突くような的確なことも言っていたりします。バラエティ番組の枠の中で「おバカ」の役割を演じきれる「できる女」という一面もあるのです。
また、体を張ったリアクション芸も得意としています。芸人たちにまじって、体当たりロケに挑んだり、過酷な企画をこなしたりすることもあります。「オールスター感謝祭」(TBS系)では、全身タイツで体中をローションまみれにして坂を登る競技に参加し、女性芸人たちにまじって一歩も引かない健闘を見せて話題になりました。
以前、仕事でテレビ局を訪れたときに鈴木奈々さんを見かけたことがあります。彼女の楽屋の前を通りかかる人全員に「鈴木奈々です!よろしくお願いします!」と、全力の大声で機械のようにあいさつを繰り返している姿が印象的でした。裏でもそのキャラクターを押し通す彼女にタレントとしてのプロ意識の高さを感じました。
芸人でもないのに、芸人よりも体を張る女性バラエティタレントというのは、ある時期までは鈴木さんのほぼ独占市場でした。しかし、近年、それが揺らいできています。鈴木さんに代わって台頭している女性タレントは、それぞれが違った個性を持ち、鈴木さんの立場を脅かす存在になりつつあります。
まず、鈴木さんのおバカキャラ路線を受け継ぐ存在として華々しい活躍をしているのが、元サッカー女子日本代表の丸山桂里奈さんです。彼女は、2011年にワールドカップを制した「なでしこジャパン」のスーパーサブとして知られていました。オフサイドのルールすら理解していないのに、本能的な動きで鮮やかにゴールを決めていく様子は圧巻でした。引退後、彼女はタレントに転身して、天性のおバカキャラで人気になりました。
バラエティ番組では、過去の恋愛体験について赤裸々に話したり、質問に対してズレた発言を連発して、「わかりますか?」と何度も確認したりします。楽屋では共演者に不気味なメッセージを付けた差し入れをすることでも知られています。また、Twitterで一般人が自分のことに言及しているツイートを見つけると、そのすべてに返事をするという真面目な一面もあります。
トップアスリートでありながら、近所のお姉さんのような親しみやすさも兼ね備えた、今までにいないタイプのキャラクターです。もちろん、身体能力を生かして体を張ったロケでも真価を発揮するため、その意味でも鈴木さんにとっては最も手強いライバルだと言えるでしょう。
「NGなし」が売りのSKE須田
現役のアイドルでありながら、体を張る仕事も大歓迎で「NGなし」を売りにしているのが、SKE48の須田亜香里さんです。
いつも笑顔を絶やさず、握手会などでもファンへの対応がいいことで知られ、人柄のよさで人気を博しています。
そんな彼女はバラエティ番組ではとことん体を張ります。すっぴんを見せたり、鼻毛を抜いたり、パンストをかぶったりするぐらいはお手の物。バラエティに出るアイドルはたくさんいましたが、ここまでヨゴレ役を引き受けてくれる人は初めてです。
須田さんと並んで人気急上昇中なのが朝日奈央さんです。朝日さんはフジテレビ発のアイドルユニット「アイドリング!!!」のメンバーとして活動していました。
彼女はアイドル時代に出演していた「アイドリング!!!」(フジテレビ)という番組で、MCのバカリズムさんに笑いのイロハを叩き込まれました。朝日さんはバカリズムさんから「全力でやりきること」の大切さを学びました。
その後、バラエティ番組では何でも本気で取り組む姿が話題になっています。「ゴッドタン」(テレビ東京系)では「変なおじさん」や、にゃんこスターのスーパー3助さんになりきって、爆笑を巻き起こしていました。
7月1日にニホンモニターから発表された「2019上半期ブレイクタレント」では、10位にランクインするという快挙を成し遂げました。次世代のバラエティスターとしていま最も注目を集めている存在です。
元AKB西野未姫の「危ない魅力」
彼女たちに続いて出てきているのが、元AKB48の西野未姫さんです。西野さんは、元アイドルでありながらアイドルファンの悪口を言ったりする悪役キャラで強烈な印象を残しました。
今でも、バラエティに出ると歯に衣着せぬ発言を連発して、嫌われたり心配されたりしながらも、身を削って目立とうとする姿勢を見せています。ときにやりすぎに感じられることもありますが、そこまでやる人はほかにいないので印象に残ります。何をしでかすかわからない、核弾頭のような危ない魅力があることは確かです。
いま挙げた中でも、須田さんと西野さんは、鈴木さんと同じツインプラネットという事務所に所属しています。この事務所には、ほかにも小森純さんや、ぺえさんなどが在籍していて、モデルやアイドルなどをバラエティで活躍させるノウハウが確立されているという印象を受けます。その点でも、この2人は明らかに鈴木さんの路線を引き継ぐ存在として事務所にも期待されているのだと思います。
なぜ彼女たちはここまでバラエティに特化するのか? それは、バラエティの制作者にそのような人材が求められているからです。
体を張ったヨゴレ仕事を引き受けるのは、かつては女性芸人の役割でした。しかし、最近では女性を取り巻く社会の状況が変わり、女性芸人を単純にブス扱いするようなことが許されなくなってきています。いかにもヨゴレ仕事を引き受けそうな女性芸人にそれをやらせるのは「かわいそうだ」と感じる人が今までよりも増えているのです。
そんな状況だからこそ、モデルであるにもかかわらず、バラエティで全力を出して暴れてくれる鈴木奈々さんのような人が必要とされています。ここで重要なのは、そのモデルやアイドルが頑張る姿から痛々しさが漂わない、ということです。本人がバラエティの世界に対して敬意を持っていて、そこに全力でぶつかっているのが伝わってくるからこそ、視聴者は安心して笑うことができるのです。
高まる「アンチ鈴木奈々」の声
「ポスト鈴木奈々」と言える存在が続々と現れたことで、鈴木さんもうかうかしていられなくなりました。鈴木さんは、4月にプロ野球の始球式でモタモタして試合開始を遅らせたことで、多くの人からバッシングされてしまいました。5月には『週刊女性』の「嫌いな女性芸能人ランキング」で和田アキ子さんに次ぐ2位にランクインしていました。じわじわと「アンチ鈴木奈々」の声が高まってきているのです。
とはいえ、ここまでたたかれるのはそれだけ有名である証拠です。まだまだ鈴木さんの知名度や人気が圧倒的に高いからこそ、逆風も目に付きやすいのだと思います。新たにバラエティの女王として君臨するのは誰なのか。戦いはまだ始まったばかりです。
ラリー遠田(らりーとおだ)◎作家・ライター、お笑い評論家 主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)など著書多数。