近年はSNSの充実で、地方からも全国的な人気を獲得するコンテンツが誕生している。これからも確実に地方からスターは生まれ、それらの命は、東京のエンタメ観では見つけられない場所で産声をあげています。そんな輝きや面白さを、いち早く北海道からお届けします。(北海道在住フリーライター/乗田綾子)
7月17日の夜、速報として飛び込んできた衝撃のニュース。ジャニーズ事務所が2017年に独立した稲垣吾郎さん、草なぎ剛さん、香取慎吾さんの3人の活動に関し、番組に出演させないよう民放テレビ局に圧力をかけていた疑いがあり、独占禁止法違反につながるおそれがあるとして、公正取引委員会が17日までに注意をしたというものです。
「ジャニーズ事務所が民放テレビ局に圧力をかけた」
この真偽は結局のところ、私たち視聴者が知ることはほぼ不可能と言っていいでしょう。しかしそのかわり、私たちは彼らがジャニーズ在籍中と独立後の実際のメディア露出を精査して、視聴者個人としてどう判断するかということは可能です。
そこで今回は、2015年にSMAPがスペシャルゲストとして登場したスポーツイベント『パラ駅伝 in TOKYO』、そして2018年と2019年、独立した3人のみが参加した同イベントのメディア露出をもう1度、検証。そこに違いはあるのか、改めて調べてみることにしました。
SMAP出演で、各局が大きく取り上げた2015年
まず最初に稲垣さん、草なぎさん、香取さんがまだジャニーズ事務所のアイドルグループ・SMAPとして活動していた、2015年。この年に初めて行われた『パラ駅伝 in TOKYO 2015』はパラリンピック公式応援サポーターに任命されたSMAPが、メンバー5人そろってイベントに登場。パラスポーツへの挑戦や、グループの人気曲を披露するなど、会場の盛り上げにひと役買いました。
そしてこのイベントの模様を2015年当時、開催当日~翌日にかけてSMAPの出演と絡めて紹介していた在京キー局の地上波制作番組一覧が、こちらになります。
・『首都圏ニュース』(NHK)
・『Oha!4 NEWS LIVE』(日本テレビ系)
・『ZIP!』(日本テレビ系)
・『報道ステーションSUNDAY』(テレビ朝日系)
・『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)
・『はやドキ!』(TBS系)
・『FNN みんなのニュース Weekend』(フジテレビ系)
・『すぽると!』(フジテレビ系)
・『めざましテレビ アクア』(フジテレビ系)
・『めざましテレビ』(フジテレビ系)
・『みんなのニュース』(フジテレビ系)
2015年時点では在京キー局のほとんどが、SMAPの名前を呼び水にする形で『パラ駅伝 in TOKYO 2015』を紹介。ただしパラ駅伝にはスポーツニュースという要素もあるため、スポーツとしての話題に重点をおいた当時のNHKやテレビ朝日、TBSに関しては、短い映像紹介にとどまっています。
そしてその流れの中で、逆に『パラ駅伝 in TOKYO 2015』を芸能ニュースのカテゴリで大きく取り上げていたのは、日本テレビとフジテレビ。イベント内にはSMAPが『世界に一つだけの花』や『がんばりましょう』を歌うコーナーも設けられていたため、曲名や歌詞テロップもさし込む形で、歌唱シーンまでしっかり放送していたのはこの2局のみでした。
扱いにはっきり差が出た2018年
『パラ駅伝 in TOKYO 2015』に出演した翌年の2016年12月、SMAPは解散の道を歩みます。2017年にはメンバー5人のうち稲垣さん、草なぎさん、香取さんの3人がジャニーズ事務所からの独立を発表し、3人は『新しい地図』として、新事務所で活動を続けることを決めました。
『新しい地図』の3人が、新たに日本財団パラリンピックサポートセンターのスペシャルサポーターに就任するかたちで『パラ駅伝 in TOKYO 2018』に登場したのは、ジャニーズ事務所を離れてから約6か月後。このタイミングで2018年当時、イベント開催当日~翌日にかけて、3人の出演と絡めて紹介していた在京キー局の地上波制作番組は、このようになっていました。
・『首都圏ニュース』(NHK)
・『ANNスーパーJチャンネル』(テレビ朝日系)
・『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)
・『S☆1』(TBS系)
・『はやドキ!』(TBS系)
・『あさチャン!』(TBS系)
・『Nスタ』(TBS系)
・『TXNニュース』(テレビ東京系)
一方、『新しい地図』の出演を絡めないかたちで紹介していた在京キー局の地上波制作番組は、
・『真相報道バンキシャ!』(日本テレビ系)
・『Oha!4 NEWS LIVE』(日本テレビ系)
・『FNN みんなのニュース Weekend』(フジテレビ系)
3人がジャニーズ事務所を離れた後の2018年になると、『パラ駅伝』の話題に関する各局の対応はかなり変化しているのがわかります。
まず以前より積極的に取り上げるようになったのがTBS。TBSは2015年時点でも早朝の『はやドキ!』でイベント内容を紹介していましたが、2018年はさらにイベントの当日から翌日夜まで、計4番組にわたって3人の映像と駅伝の話題を取り上げるようになりました。
その一方で、3人がSMAPとして活動していた2015年に比べ、明らかに紹介数が減ったのはフジテレビと日本テレビ。
両局とも実際のところはイベント紹介が完全に消滅したわけではなく、『FNN みんなのニュース Weekend』『真相報道バンキシャ!』『Oha!4 NEWS LIVE』において、『パラ駅伝 in TOKYO 2018』に関する話題が放送されています。
しかし、その3番組が報じた『パラ駅伝 in TOKYO 2018』はいずれも、新しい地図のゲスト出演に関しては一切、言及することなく、映像には3人の後ろ姿が一瞬、映りこんだのみ。
そして2015年には芸能ニュースとして『パラ駅伝』に大きく時間をさいていたはずの『めざましテレビ』と『ZIP!』は、所属事務所を代わった後の2018年に関しては、ついに話題を取り上げることがありませんでした。
少し変化が見られた2019年
3人の事務所独立を境に、テレビ局ごとにはっきりと報じ方の違いが生まれた『パラ駅伝』。それでは今年2019年は、各局の放送内容は一体どうなっていたのでしょうか。『新しい地図』の出演と絡めてイベントを紹介していた在京キー局の地上波制作番組は以下になります。
・『サンデーステーション』(テレビ朝日系)
・『TBSニュース』(TBS系)
・『はやドキ!』(TBS系)
・『あさチャン!』(TBS系)
・『めざましテレビ』(フジテレビ系)
・『TXNニュース』(テレビ東京系)
一方、『新しい地図』の出演に触れなかったのは、
・『FNNプライムニュース』(フジテレビ系)
・『S-PARK』(フジテレビ系)
2019年も引き続き、3人の話題も含めた『パラ駅伝』をよく取り上げていたのはTBS。ちなみにTBSは3人の事務所独立後も唯一、2019年まで民放のレギュラー番組(『ゴロウ・デラックス』)を変わらず放送し続けていたテレビ局でもありました。
また番組数こそ多くないものの、2015年から2019年現在にいたるまで、安定して話題を取り上げているのは、テレビ朝日とテレビ東京。この2局は特に歌番組において、グループ解散後もSMAPの過去映像をカットすることなく随時、放送しています。
さらに2019年は、フジテレビの『めざましテレビ』が数年ぶりに『パラ駅伝』の話題を放送していたことにも注目しておくべきでしょう。しかも、その内容も3人の出演にしっかり言及したもので、実際に番組内では稲垣さんと香取さんがスターターを務める様子や、草なぎさんがランナーとしてイベントに参加している映像が流れていました。
この扱いの“復活”に関しては、フジテレビが2016年から制作している『PARA☆DO!~その先の自分へ~』(パラアスリートのドキュメント番組)において、2019年3月26日の放送で『パラ駅伝 in TOKYO 2019』が題材になっていたということも大きく関係していると推測されます。そして実際に『PARA☆DO!』でも、めざましテレビと似たかたちで、3人の姿や活動がはっきりと紹介されていました。
地方が積極的に報道をする謎
結局のところ改めて、ジャニーズ事務所が民放テレビ局に圧力をかけていたのかどうか、視聴者の私たちにはきっとわかりません。
しかし私たちは同時に、彼らの在京キー局でのレギュラー番組(テレビ朝日系『SmaSTATION!!』、フジテレビ系『おじゃMAP!!』、テレビ朝日系『『ぷっ』すま』)が、いずれもジャニーズ事務所独立の直後に最終回を迎えていたことも、テレビを通じた事実として、確かに知っているわけです。
元SMAPの5人中、3人が継続出演している『パラ駅伝』の放送内容も含めて、2015年から2019年にいたる間の、在京キー局の対応にまったく変化がなかったかといえば、それはさすがに嘘だろうと言わざるを得ません。
「圧力」にしろ「忖度」にしろ、彼らのテレビ出演数激減の分岐点には一体何があったのか、そしてそれは未来にも進んで伝えるべきことなのか。芸能界は“業界の当たり前”を、もう一度、一から問い直すべき時期を迎えているのではないかと感じます。
そして最後にもうひとつ付け加えておきたいのは、何らかの事情で在京キー局での『パラ駅伝』紹介にかなりバラつきが表れた2018年、その大きな穴を埋めていたのは、東京ではなく地方の各ローカル局であったということです。
『パラ駅伝 in TOKYO 2018』当日~翌日に、新しい地図の出演と絡める形でイベントを紹介していた地方ローカル局の制作番組は、
・『イチオシ!モーニング』(北海道テレビ)
・『突撃!ナマイキTV』 (東日本放送)
・『夕方LIVE!キニナル』(東日本放送)
・『ドデスカ!』(名古屋テレビ)
・『キャッチ!』(中京テレビ)
・『おはようコールABC』(朝日放送)
・『おはよう朝日です』(朝日放送)
・『キャスト』(朝日放送)
・『朝生ワイド す・またん!』(読売テレビ)
・『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)
・『ちちんぷいぷい』(毎日放送)
・『バリはやッ!』(福岡放送)
・『アサデス。』(九州朝日放送)
・『今日感テレビ』(RKB毎日放送)
東京で開催されるパラリンピックのための応援イベントを、なぜ東京のテレビ局よりも地方のテレビ局が積極的に報じていたのか。地方に住む私はその理由を、今でもずっと知りたいと思っています。
乗田綾子(のりた・あやこ)◎フリーライター。1983年生まれ。神奈川県横浜市出身、15歳から北海道に移住。筆名・小娘で、2012年にブログ『小娘のつれづれ』をスタートし、アイドルや音楽を中心に執筆。現在はフリーライターとして著書『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)を出版しているほか、雑誌『月刊エンタメ』『EX大衆』『CDジャーナル』などでも執筆。Twitter/ @drifter_2181