「犯人は頭がおかしいと思ったね。言っていることも意味がわからないし話が通じる感じではなかった」
'12年、茨城県内で起きたコンビニ強盗の被害に遭った女性が明かす。この犯人と、京都アニメーションスタジオに放火し、30人以上の命を奪った男は同一人物。いったい何があったのか──。
「小説を盗んだから放火した」
平成以降、最大の死者数を出した放火事件が起きたのは18日午前10時半すぎのこと。
「京都市伏見区にあるアニメ制作会社『京都アニメーション』の第1スタジオに男が乗り込んできて何かを叫びながらガソリンをまいて火をつけたそうです。直接身体にガソリンを浴びせられた従業員もいるといいます」(全国紙社会部記者)
男の凶行により、従業員の女性20人、男性13人、性別不明1人の計34人が死亡、ほか34人が重軽傷を負った。男も全身やけどによる意識不明で入院中で重篤な状態(20日現在)だという。
「死亡した34人のうち、28人の死因は一酸化炭素中毒。ほか焼損が激しい5遺体を司法解剖した結果、死因は焼死だった。1人は遺体の損傷が激しすぎて性別もわからないほど。今も治療中の34人のうち、3人は重篤な症状です。犯行時、現場の地獄のようなひどい状況に涙を流す近隣住民もいました」(同前)
男は火をつけた後、逃げようとしたところを捜査員に取り押さえられ、その際、「小説を盗んだから放火した。多目的ライターを使った」などと話していたといい、その後、病院で意識不明に陥ったため、これが供述といえる最後の言葉となっている。
過去に強盗事件を起こし、複数の近隣トラブルも
京都府警は19日、事件の重大性を鑑みて回復を待たずに放火容疑の男の本名が青葉真司(41)だと公表した。
「青葉容疑者は、'12年に茨城県内のコンビニエンスストアで店員男性に包丁を突きつけて現金2万円を奪う強盗事件を起こしています。逃走したものの、その日のうちに出頭し、“オウムも捕まり逃げきれないと思った”などと供述。'12年当時、長く逃走を続けていたオウムの指名手配犯が続々と逮捕されていたことからオウム事件の残党か、と噂されましたが、後にまったくオウムとは無関係なこともわかり話題になりました。また精神科の通院歴がある可能性があります」(ワイドショーディレクター)
この事件当時、生活の拠点にしていた茨城県内の雇用促進住宅関係者が当時の様子を語る。
「容疑者と面識はないけど、管理人さんによると彼の部屋の壁はハンマーで殴ったみたいに複数の穴があいていたんだって。ほかにも叩き割ったパソコンとかが残されていたみたい」
コンビニ強盗事件後の青葉容疑者は、さいたま市内の更生保護施設に入所、'16年6月からは同市見沼区内のアパートでひとり暮らしをしていたという。しかし、ここでもトラブルの連続だった。
「ロードバイクで昼夜問わずに疾走していました。夜中の2時、3時に重低音の音楽がたびたび流れてきて耐えきれず飛び出したら、ほかの方が通報したのか警察が容疑者の家を訪ねていたということも4、5回ありました」(同アパートの住人)
隣人の恐怖体験「殺すぞ」「余裕ねえんだよ」
隣人の20代男性は恐怖体験を明かしてくれた。
「思い出しても怖いですよ。私が'17年に入居してすぐに平日の深夜12時過ぎにスピーカーの重低音が聞こえてきました。休日は数分のゲームサウンドっぽい音が1時間ほどループする。それが半年続いたころ耐えられずに警察に通報して音はやむようになったのですが、ドアノブをがちゃがちゃされたり、叩かれるようになりました」
隣人男性が恐怖体験をしたのは、事件の4日前。7月14日のことだった。
「日曜の昼間に部屋で本を読んでいたら上の階の人がバタバタしていて青葉容疑者はそれに対して怒っていました。部屋の中から壁をバンバン叩いたり、大きな何かを投げつける音もしました。その後、私の部屋のドアを開けようとしたり、叩いたりしているのでドア越しに“(騒音は)自分じゃない、上の階に文句を言ってくれ”と言ったんです。
容疑者が部屋に戻ったと思ったら“うわぁぁぁぁぁ!!”と叫び声が聞こえてきたので、すぐに部屋を出て容疑者の部屋をノックしたんです。出てきた途端、血走った目で私をにらみ右手で私の髪の毛を、左手で胸ぐらをつかまれました」
一瞬のことで何が起きたかわからなかったという隣人男性。その状態は約10分間続いたといい、5つのフレーズを繰り返し叫ばれたという。
「うるせえ」「黙れ」「殺すぞ」「こっちは失うもんねえからよ」「余裕ねえんだよ」
エンドレスに続く言葉攻めと羽交い締めから命からがら逃げだした隣人男性は交番に駆け込んだという。
女性の社会進出の先駆けともいえる会社
失うものがない“無敵の人”に奪われた命は日本のアニメーションの未来をになう宝だった。惨劇の現場となった京都アニメーション(以下『京アニ』)は、1985年に設立され、'06年『涼宮ハルヒの憂鬱』、'09年の『けいおん!』などのテレビアニメ作品で国内外を問わず多くのファンを獲得。'16年9月に公開された『映画 聲の形』では第40回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞している。
「京アニの始まりは、手塚治虫プロから派生した虫プロに勤めていた女性アニメーターが京都に引っ越してきてそこで知り合ったご近所の主婦たちと一緒に“家計の足しになれば”とジブリなどの大手制作会社の下請けから始められたものなんです。社屋内に託児スペースもあり、女性の社会進出の先駆けともいえる会社なんです。ですから今でも女性スタッフが多く、業務委託や契約社員が多い業界の中、ほとんどが正社員として採用されています」(アニメ業界関係者)
過去の作画や資料も燃やされた。アニメ業界関係者は、
「犯人や動機なんかよりも今いる人たちが心配です。生き残った人たちも、もう怖くて絵を描けなくなってしまうかもしれない。
アニメが好きだったのにアニメが見られなくなる人、好きだった会社なのにもう怖くて戻れない人とか出てくると思います。その人たちのケアも考えていかないといけない」
ツイッターなどのSNSでは『#PrayForKyoani(京アニに祈りをささげる)』のハッシュタグが生まれ、世界中の多くのファンたちが追悼メッセージを寄せている。