殺人や自殺など事故で人が亡くなった部屋『事故物件』に住む芸人・松原タニシ。現在は東京と大阪に2軒の物件を借りている。その住み心地と住み続ける理由を、都内にある彼にとって6軒目の物件で直撃!
息子が同居する母親を浴槽に……
「ここでは自殺がありました。首つり自殺だったそうです。自殺された方はアーティストだったようで、部屋中に痕跡がありました」
キッチンは黄色、窓枠は赤く雑にペンキで塗られていた。ふすまには、動物の写真やヌード写真などがさまざまに貼られている。入居前には、お風呂の壁に、キリンの絵のスタンプがいくつも押されていた。一見、陽気な部屋だと思えるが、自殺した人が残した痕跡だと思うとゾッとする。
「でも慣れてしまうと全然怖くなくなりますよ。『霊が怖い』とか『死人に呪い殺される』とかがみんなの頭の中で作られたイメージだというのがわかります」
この部屋でも、急にテレビが消えたり、ガサゴソと人の気配を感じたり、と心霊現象は起きるのだが、だんだん気にならなくなったという。しかし──。
「大阪の物件でドアがガチャガチャと開けられそうになったり、郵便ポストがいじられていることが何度かありました」
それもまた心霊現象のひとつかと思い放置していた。しかしそれは心霊現象ではなく現実の出来事だった。
「息子が同居する母親を殺した部屋でした。部屋で殴った後に、浴室に連れていき浴槽に沈めて殺したそうです。実はその犯人が戻ってきていたようなんです」
犯人は母親を殺害した後、逮捕されたのだが、精神疾患があるとして不起訴に。そして病院に入院させられていたのだが、なんとそこから逃げ出していた。
「犯人は、道行く老人をハンマーで殴って逮捕されました。彼は『誰でもいいから殺したかった』と自供しています。ひょっとしたら自分が殴られていたのかもしれないと思うと心底ゾッとしましたね」
千葉で借りていた物件もやはり人のほうが怖かった。この物件は薬の過剰摂取で亡くなった人の部屋だった。
「この部屋の正面の一軒家の人がちょっと怖い人だったんです。家の周りにセンサーをとりつけて誰かが通るたびにピピピピピと大きな音が鳴りました。軽いノイローゼになりました。ひょっとしたら前の住人もノイローゼになって薬を飲みすぎたのかもしれません」
心霊スポットで寝てみる
しかし、われわれ普通の人にとってみたら人が亡くなった部屋に住むだけで十分怖い。そもそもタニシさんはなぜ事故物件に住むようになったのだろうか?
「最初はテレビ番組の企画でした。2012年ごろは家電芸人などマニアックなトークができる芸人がフィーチャーされるようになった時代でした。それまでテレビのコンテスト番組で結果を残せない10年を過ごしていました。『事故物件住みます芸人』になったほうが活躍できるんじゃないか? と思い至りました」
その目論見は当たり、自身の経験を書いた『事故物件怪談 恐い間取り』はベストセラーになった。現在も心霊番組や事故物件に関するイベントでは引っ張りだこになっている。また事故物件だけではなく、心霊スポットにも足繁く通っているという。
「心霊スポットを歩くだけではなく、そこで寝るようにしています。事故物件で寝るのに慣れたら、心霊スポットで寝るのにも抵抗なくなりました」
心霊現象に悩まされることもあったが、それよりも自然のほうが怖かった。
「最も怖かったのは夜中にイノシシと対峙したときですね。1時間ほどにらみ合う形になって動けませんでした。死ぬかと思いました」
松原タニシさんはこれからも事故物件に住み続け、心霊スポットを回りたいと、語ってくれた。
どうか健康だけは気をつけて、これからも、とてもコワイ思いをして週刊女性に語ってください!
松原タニシ ◎まつばら・たにし。いわくつきの物件に渡り住み、日常で起こる心霊現象などを検証し、その体験を語っている“事故物件住みます芸人”。著書『異界探訪記 恐い旅』(二見書房刊)が発売中