※写真はイメージです

 世の中には時として、不思議な噂が流れることがある。

 '70年代の終わりには学校帰りに「私、きれい?」と尋ねてくる口裂け女。大地震の前に現れるという地震雲。最近では、さまざまな理由で存在が秘匿され、入ったら戻れない“地図にない村”など。

『都市伝説』という言葉でくくられる、真偽不明の“ニュース”は、オカルトから自然災害系までさまざまな形をとる。時代と場所を問わず、自然発生的に出てくる『都市伝説』の正体とは─?

知らない場所があったら、楽しい

 東日本大震災の被災地でのタクシードライバーの霊体験などを学生が取材、検証した東北学院大学教授の社会学者、金菱清さんに語ってもらった。

「“地図にない村”について、『都市伝説』ということは明かさずに学生266人にアンケートをとってみました。結果、その話を聞いたことがあるという学生は、96人で約36%。漫画やアニメ、YouTubeで、というのが多かったです。

 そして、この話を信じるか、という問いには約48%の127人が信じると答えました

 信じないと答えた学生は、今の最先端技術で見つからない場所はない、グーグルアースで地球上すべての場所を撮影できる、といったことを理由に挙げているという。

「信じると答えた子たちも、今の時代に未知の場所は存在しない、という大前提があると思います。それを踏まえたうえで“あったら楽しいだろうな”という希望的観測なのでしょう。

 現在、監視カメラ社会となり、どんどんプライベートの空間がなくなっています。そんな中、エアスポットのような地図にない場所があってほしいという願望は、閉塞感の裏返しのように僕には思えます。

 自分たちが住んでいる世界に、知らない場所があると楽しいんじゃないか、と

 以前は口コミなどで広まってきた『都市伝説』。現在はネット社会となり、世界は昔に比べると狭く、小さくなりつつある。

混ざり合う境界線

 アナログからデジタルへと時代が変わっていく中、これからの『都市伝説』のありようについて、金菱さんは、

世界が変わってきても、なくなることはないと思います。それどころか、今まで以上にフェイクニュースである『都市伝説』と、ファクトニュースの境界がわかりにくくなるのではないでしょうか

 確かに今は画像や音声を自由に、しかも簡単に変えることができる。今まではニュースを発信するのは、テレビや新聞といったメディアに限られていたが、個人で世界中に情報を発信することもネット社会なら可能だ。そうなると情報の受け手は、事実を確認する術がなくなる。 

「社会学で『予言の自己実現』というものがあります。これはウソの情報に飛びつくことによって、それが本当になってしまうことなんです。例えば、銀行の取りつけ騒ぎ。

 “銀行が危ない”という噂が出たとき、たまたま多額の貯金を下ろしている人を見たら、周囲の人が“あの話は本当では”と、1日で何億円も下ろしてしまう。フェイクがファクトになりうる。

 荒唐無稽に見える『都市伝説』も、ネット社会の中ではどんな変化が起こるかわかりません

金菱清さん

 そして、人から人へ伝わる力について、金菱さんはこう続ける。

こういう話は、誰かれかまわず話すより“ここだけの話だけど”とこっそり話しているほうが広まるんです。この人は自分だけに秘密を話してくれるほど、信頼してくれている、と思いますよね。そんな人が話すことだから信じよう。そして、話を聞いた人が同じようにほかの人にも“ここだけの話”で広めいく。

 こうして、いろいろ細部が変わりながら伝播されていくわけです。『都市伝説』は心理的な感染現象ですよ


《PROFILE》金菱清さん ◎社会学者。東北学院大学教養学部地域構想学科教授。東日本大震災関連の書籍『呼び覚まされる 霊性の震災学』(新曜社)の編者として注目される