世間を揺るがせている吉本興業“闇営業騒動”をめぐる2つの記者会見。7月20日に行われた宮迫博之と田村亮の衝撃的な「告発会見」を受け、その2日後に岡本昭彦社長が会見を開くことになった。
一般的に今回のような会見は騒動を鎮静化させるために開かれるべきなのだが、世間の声に耳をかたむけてみるとおしなべて評価が低い。会見の内容のせいで新たな問題が浮上し、騒動がさらに膨らむという最悪の例となってしまったのは火を見るよりも明らかだ。
もちろんそれは開く側の責任でもあるのだが、実は取材するマスコミサイド、すなわち集まった記者たちの責任であるとも言える。
記者の質問は“かぶる”
岡本社長の会見はなんと5時間半以上に及んだ。どうしてそんなことになったのか。それは吉本サイドが質問に対して、はっきりとせず、歯切れの悪い答え方ばかりしていたことがいちばんの原因であることは間違いない。真実を伏せて何とか逃げ切ろうとする“ごまかし”があったと思われてもしかたない対応だったといえる。
だが、会見がグダグダになってしまう要因は、吉本サイドの回答のせいだけではない。記者にも問題がある。
のらりくらりの岡本社長を逃さまいと、記者からは言い回しこそ変わっているものの、同じような内容の質問が相次ぎ、さらにそれをかわそうとする岡本社長。そんな堂々巡りの展開を生み出したともいえよう。
それに加えて、記者が用意していく質問は“かぶる”ことが多い。つまり共通していることが多いのだ。自分が質問しようとしていたことが他社の記者に先を越されてしまうことはよくある。だからわれ先にと、手を挙げて質問しようとするのだが、約300人もの報道陣が集まっているなら、自分に当たる確率は低くなる。
さらに、問題となってくるのが会見のLIVE中継による弊害だ。最近では質問する記者は所属する会社と自分の名前を名乗らなければならないのが通例となっている。出席した記者の契約会社では、おそらく社員が会見を見守っているだろう。
「社に戻ったとき、叱責されるわけではないのですが、上司に“おまえ何も質問してなかったな”と言われるのが、けっこうつらいんです。だから、先を越されて質問されたら、“もう1度確認したいのですが”などとエクスキューズを入れ、形を変えながらも似たような質問を繰り返すことにしています」(スポーツ紙記者)
記者の質が落ちている
宮迫・亮の会見でもトンチンカンな質問が出てちょっとした騒動となった。
記者ではなく『アッコにおまかせ!』(TBS系)のスタッフが、宮迫が以前起こした不倫騒動の際に「オフホワイト」と発言したことを引き合いに出し、「今のお気持ちは色にたとえると」と質問。これが大顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまい、各方面から非難が集中したのは言うまでもないが、これには番組MCの和田アキ子自身も激怒し謝罪する羽目になった。
このようなあきれた質問が出てくるのにも理由がある。
それはバラエティ色の強い情報番組のスタッフが記者会見に臨んでしまうからだろう。
スタッフが面白い質問をしている様子を番組で流そうと考えてしまうからだろうが、そもそも記者会見は“ウケ”を狙うところではない。また記者が自分の存在をアピールする場所ではないということだ。
ベテランの芸能レポーターの石川敏男氏は宮迫・亮の会見を見てSNSでこう語っていた。
《取材記者の質が落ちてるな、と感じた。中にはスマートで上手というより的確な質問をする優秀な記者もいたが、質問にもなっていない記者という名前だけの奴もいる。(中略)ふたりに説教してどうするのよ。あったことを的確に聞けよ。最低な記者に腹が立ってるよ》
芸能人の不祥事が発覚して、謝罪会見が開かれると、まるで鬼の首を取ったように責めたてる記者もいる。政権の会見時でもそれくらいやってくれよ、と感じている人は多いだろう。
昨年1月の小室哲哉氏の引退会見では、涙ぐみながら氏の引退を惜しむ“ファン目線の発言”をしていた女性記者がいたが、たとえファンだとしても記者としてはどうなのかとはなはだ疑問を感じてしまったのは私だけではない。
会見の内容が全編生中継されるようになって、それまではカットされていたような無意味な、あるいは不適切な質問まですべて世間の目にさらされることになった。
だから今、質問の精度、強いては記者の質を問う声が増えている。記者会見の成否は主催者側の責任だけではなくなったと言えるのではないか。
<芸能ジャーナリスト・佐々木博之>
◎元フライデー記者。現在も週刊誌などで取材活動を続けており、テレビ・ラジオ番組などでコメンテーターとしても活躍中。