「会社のトップが責任取らない会社って、機能してるのかな。社員の家族もいる。そして若手芸人の家族、そして生活があるんですよ! そしたら、いま吉本興業は経営側、絶対変わらないとダメ。この状況で、会社が変わらないなら、僕は退社します」
かつて、その破天荒さから“狂犬”というニックネームをつけられた男は、時折、涙をにじませながら、しかし覚悟を決めたような力強い目で吠えた。
7月22日放送の『スッキリ』(日本テレビ系)で、番組MCの加藤浩次は所属事務所を痛烈に批判。吉本興業における闇営業を端緒とした問題は、登場人物全員が火に油を注ぎ続け、騒動の炎は弱まることを知らない。
複数の芸人による闇営業問題は、吉本の上層部によるパワハラ問題、そしてお家騒動にまで発展している─。
なぜこのような騒動に
そもそもの発端は、雨上がり決死隊の宮迫博之やロンドンブーツ1号2号の田村亮ら複数の吉本興業所属芸人が、会社を通さない“闇営業”で、反社会的勢力が主催した会合に参加していたことだった。
「宮迫さんや亮さんは当初ギャラを受け取っていないと弁明していましたが、のちにそれが嘘であることが発覚。2人は過ちを認め、会見を開き正直に話したいと会社に伝えましたが、“静観です”と会見を許されなかった。
正直に話したいと食い下がった彼らに対し、岡本昭彦社長から“おまえらテープ回してないやろな”“会見してもいいけど全員クビにする”といった明らかなパワハラがあったことが、後日、宮迫さんと亮さんが開いた会見で明らかになりました」(スポーツ紙記者)
宮迫と亮が7月20日に開いた会見を受け、7月22日に吉本側は岡本社長と藤原寛副社長ら上層部が弁護士を交え会見を開いた。
「宮迫さんと亮さんの会見は、正直に謝罪しながらも、その裏には謝罪を許さない会社の愚策やパワハラがあったことを明らかにし、ある意味うまく自分たちから問題をそらした。しかし岡本社長は、質問に曖昧に返したり、パワハラ発言は“場を和ませる冗談だった”など稚拙な言動に終始。そのうえ自身の進退については、“続投”を明言。ことの重大さに気づいていないその態度に批判が殺到しました」(同・スポーツ紙記者)
現役吉本所属芸人が語る「実態」
批判の波は、マスコミだけではなく、所属芸人たちにも広がった。会見で岡本社長が「ギャラは5対5」と発言したこともあり、多くの芸人たちが自身のSNSで、《この会見ですら嘘をつくのか》と批判。また、吉本に所属する芸人は6000人にものぼりその面倒を見るために十分な社員が吉本にいない管理体制も問題視されている。
現役で吉本に所属する中堅芸人が、匿名を条件にその“実態”を話してくれた。
賞レースで上位に食い込んだこともある彼だが、吉本を通した“正規”の仕事は少なく、闇営業を頼りに生きている。
「マネージャー1人で100人くらいを担当してて、仕事の案件があると、グループLINEで“こんな仕事がある”と伝えられるだけ。“100メートル10秒台で走れる人”という条件の仕事がLINEに投げられたりもして。もし、そんなすごい能力のある芸人がいるなら把握しておいてほしいですよ(苦笑)」
会見で岡本社長が話したギャラの実態については、
「9対1ですよ。9・5対0・5とかも聞きます。しかも、それをコンビで分けたり。それ、もう何対何なんだよって」
それほどまでに待遇が悪くても、「払われるだけマシ」という現状があるという。
「ごまかしているのか忘れているのか……振り込みがないことなんてよくありますよ。マネージャーに聞くと“経理に確認します”と言うんだけど、返答はめちゃくちゃ遅い。2年前のギャラが急に入ったりしますから。振り込みがないことを伝えたら、“あの仕事か? あれノーギャラやで”とか後で言われたりもしますからね」
売れていない芸人がこのように声を上げることについて、「嫌なら吉本を辞めればいい」という意見もある。
「嫌なら辞めろって言うけど、事務所が辞めさせないですからね。“辞めたら圧力かける”って言われた人もいっぱいいる。だから、やめたくてもやめられないという事情があることもわかってほしい」
かつて吉本に所属し、現在はフリーのお笑いコンビ『クレオパトラ』の長谷川優貴は、圧力の実態をツイッターで次のように記している。
《今後人前に出ないでください。俳優でも音楽でも全部ダメです。もし人前に出るなら圧力かけます。と言われた》
闇営業で解雇、楽しんごの言い分
吉本を辞めた芸人は、いま何を思うのだろうか。
「僕は自分の会社を作ってマッサージの仕事とかやってたので、吉本を解雇されても痛くもかゆくもないんです」
そう話すのは、闇営業が原因で3月末に吉本から解雇された楽しんご。彼が吉本に所属するきっかけは、’10年に出演したネタ番組『あらびき団』(TBS系)でのブレイク。
「“ドドスコスコスコ、ラブ注入”ってやったら、次の日からヤベーなってくらい仕事が来ちゃって。それで吉本から“来ないか”と誘われたんです」
しかし、ブレイク後の’13年、本人が「痴話ゲンカだった」と話す元カレへの暴行疑惑でテレビから姿を消す。
「あの事件を起こして謹慎になったとき精神的にまいっちゃって吉本を辞めようと思ったんです。でも(現副社長の)藤原さんだけはやさしかった。“しんごちゃん、辞めないでよ”って引き留めてくれた。だから、とどまったんです」
だが、そこから仕事がまったくなくなって“直”の仕事だけで食いつないでいたという。そのころの吉本には思うところがあるようで─。
「吉本のマネージャーは毎月のように代わって、当たりハズレがすごくある。最悪だったマネージャーは、僕が“YouTubeの仕事をやりたいです”とかメールしても、“わかりました。確認します”の返事から、まったくレスがないんです」
マネージャーに催促すると、“上を通しますね”と言われるが、それでも返事は来ない。
「何週間かかるんだよって感じ。仕事をくれるという人がマネージャーに電話しても“全然出ないんだけど”と言われたことも。それで断られちゃった仕事は覚えているだけで10数本あったと思う」
吉本に関わりのある2人の芸人が話すように、吉本の体制は変わらざるをえないレベルにある。7月24日には、吉本が所属芸人と契約書を交わしていないことについて公正取引委員会が“問題あり”という考えを示した。
それらを受け25日、吉本は『経営アドバイザリー委員会』を設置することを決定。芸能事務所の労働環境や契約に詳しい『レイ法律事務所』の河西邦剛弁護士はこう話す。
「これは第三者委員会を作るということ。経営者側とタレント側の双方から意見を聞いて、中立的な契約書を作るいいチャンスだと思います。これで芸人のみなさんが不満を抱いていたギャラの分配も明確になりますから」
しかし、懸念点はある。
「売れていない芸人が多いわけですから、全員に最低限の生活給を支払ってしまうと吉本は赤字になってしまいます。それを避けるとすると、一部の売れている芸人以外は吉本興業に所属できなくなってしまう。私はギャラが低くても芸能活動をしたいという芸人の選択肢は残しておくべきだと思います」
収入の最低保証をすることが、逆に芸人になることの間口を狭めることにもつながる。
「すべての問題を一括解決しようというのは無理なことです。まずは、独占禁止法に触れる可能性があった契約書の問題をクリアにする。それが再建に向けての第一歩といえますね」
手を差しのべる? さんまを直撃
今回、特に吉本上層部の体制に苦言を呈しているのが、冒頭の極楽とんぼの加藤だ。現実問題として、吉本の体制が加藤の望むように変化することはあるのか。吉本をよく知る放送作家は、その可能性について次のように話す。
「現行の大﨑洋会長の体制を変えるつもりはまったくないですね。でも、さまざまな番組に引っ張りだこの加藤さんも辞めさせたくないから、大﨑体制を維持しつつ、加藤さんも残留させる方法を何とかして考えている」
加藤を残留させる方法の中のひとつの可能性として、岡本社長を更迭するという形はあるという。
「大﨑会長は、自分の言うことを聞いてくれる岡本社長をかわいがってはいたけど、世間から批判を浴びても絶対に残したいかというと意外とそうではない。自分が会長に残れるなら、岡本社長を辞めさせる可能性は十分にある」
騒動の発端であり、上層部と揉めてしまった2人については……。
「宮迫さんと亮さんの進退については、加藤さんの問題が終わってからの話し合いということになるでしょうね。加藤さんが辞めたら、2人も辞める。
加藤さんが残留したら2人も吉本に戻るのでは。加藤さんの残留は、あの2人が戻ってきても大丈夫な環境になるよということを意味するので。その際は、宮迫さんと亮さんは吉本の“本体”に戻すでしょう」(同・放送作家)
加藤とともにキーパーソンとなっているのが、吉本におけるトップ中のトップである、明石家さんま。自身のラジオでも「どっかの事務所も狙ってるかわからへんけども、とりあえずウチ(個人事務所)も声かけてみようと思ってるんですよ」とコメントしている。
実際、さんまの個人事務所には村上ショージやラサール石井らのベテラン芸人が所属しているという。しかも、7月25日にさんまと大﨑会長は直接会って意見交換したとも伝えられている。
7月26日、ラジオ収録のために自宅を出るさんまを直撃したが、何も語らず車で走り去った。前出の放送作家は、
「さすがに、さんまさんの個人事務所には入れないと思いますよ。入れてしまったら“やっぱり自分たちで面倒見たくないから、さんまに預けたんでしょ”ということになってしまうから、再生をアピールするためにも、 吉本に戻すでしょう。さんまさんも“面倒を見てあげたい”という気持ちに嘘はないと思いますが、リップサービスで言っている部分もあると思いますね」
やはり、いちばんのキーパーソンは加藤だ。
「加藤さんも大﨑会長との会談後“話は平行線”と言っていましたが、その時点で辞めるとは言わなかったので、経過を観察することにしたのでしょう。
もし加藤さんが吉本を辞めた場合、何人かついていく芸人もいると思いますが、辞めた芸人たちで集まってひとつの事務所を作るようなことはしないでしょう。さすがに吉本にケンカを売りすぎてますからね。個人個人で事務所を作ってやっていくことになると思います」
宮迫と亮に対して現状は、吉本によると「連絡させていただいております」というが、7月27日時点で「ご返事はいただいておりません」とのこと。今週、開催される予定になっている『経営アドバイザリー委員会』についても、その議事録は「公表の方法は検討中です」との返答だった。
日本一笑いを生んできた事務所で明らかになった“闇”。笑いという光が差すのはいつになるのか─。