スシローの新商品はスマホのライトで下から“光らせる”。タピの進化が止まらない! (公式サイトより)
 ここ数年、空前のブームになっているのがタピオカだ。インスタ映えするビジュアルやおしゃれな店内が女子たちの間で大流行。“タピる”や“タピ活”という流行語も生まれる一方で、『ゴミ問題』『暴力団が出店』といった弊害も生まれているという──。その一筋縄ではいかない社会現象を漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんとともに考える。

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──タピオカブーム、まだまだ終わらなさそうですね。

「この前、電車に乗っていたら大学生くらいの女の子ふたりが話していて、“あそこの店はこれくらい並んだ”とか、“あの店は業務用のタピオカを使っている”だとか会話の内容がすべてタピオカになっていたのには驚きましたね。もはや洗脳されてしまっている人も多いのかなと思ってしまいました。

 これまでもタピオカは何度かブームになったことがあり、これが第3次ブームだそうですが、今回はここ数年すごく人気のある台湾から到来したブームということもあり、根強そうですね。私もたまにタピオカを飲むのですが、3回に1回はのどにつまって誤嚥(ごえん)のようになってしまい苦しむというパターンが多いです。年齢を重ねると吸い込む力が衰えてしまうのでしょうか。たまに店員さんには“タピオカ抜きでお願いします”と注文するのですが、そのたびに“大丈夫ですか?”と返されます

 また先日、代々木公園の台湾フェスに行ったら、タピオカ店が軒を連ねたタピオカストリートができていました。大量の女子が並んでいましたが、私は気力がなくて諦めてしまいました。店員さんからはお客さんひとりあたり30秒で列が進むと聞きましたが、そんな回転で進んでいるようには見えませんでした……。熱中症で運ばれた人もいたそうです」

テキ屋の“女子力”

──そんな命がけの飲み物だったとは……! 女子高生などに人気のタピオカですが、原材料費もあまりかからないということから暴力団が出店。反社会勢力の資金源になってしまっているという報道もありました。あまりに儲(もう)かることから、彼らはタピオカのことを“黒い真珠”と呼んでいるんだそうです……。

「確かにお祭りのテキ屋も流行の先取りが早いことが多いですよね。今は完全に姿を消していますが、数年前に光る『電球ソーダ』が売られていたときも女子の間で流行りましたし、意外と“反社”の人たちは女子力が高いのかもしれません。今ごろお祭りでは着色料まみれのカラフルなタピオカが並んでいるでしょうか……。

お祭で女子にウケた『電球ソーダ』今はいずこに…… (Amazonホームページより)

 また、これまでのブームだったアサイージュースやグリーンスムージもタピオカに圧(お)されて消えつつあるのかなといった感じがします。今では渋谷に何十店舗ものタピオカ店があるみたいですし、ほかのいろいろな店がタピオカにつぶされていくことも考えものですよね」

──今では“タピオカパンケーキ”のような商品もあるみたいで、タピオカも次々とバリエーションを増やして他店と差別化を図ろうとしているみたいです。

「私も以前、タピオカ専門店で“タピオカサンドウィッチ”を食べたことがあります。単にタピオカが詰まったパンという、『集合体恐怖症』の人にはきつそうな見た目をしていました。味は普通だったんですけど、“正直、栄養にはならないんだろうな”とは思ってしまいましたね。

 横浜中華街では“人工知能が活躍するタピオカ店”もあるみたいです。注文の際に願い事を書き込むと、内蓋(フィルム)に答えがプリントされて提供されるという……。もはや迷走状態に入っているのではないでしょうか。逆に、すぐ閉店しそうだからその前に1度行っときたいという気持ちに陥ってしまいそうですが

スタバのプライド

──確かに「タピオカ」「AI」「占い」と要素を詰め込みすぎている感がありますね。
そんななか、コーヒー店の『タリーズ』や『ドトール』も商品ラインナップにタピオカを加えたりと、大手チェーン店もタピオカに手を染めはじめています。回転寿司の『スシロー』は下からスマホのライトで照らすとタピオカが光る『光るゴールデンタピオカミルクティー』も発売していますね。

「正直そこまでしなくてもいいのに……とは思いますね。それに、光らせるためにスマホを下に置いてしまったら肝心の写真が撮れずにインスタにアップできないという弊害も出てきそうです。友達がいない人は注文するのが厳しいかもしれません。そういえば『スターバックス』にはタピオカのメニューがありませんよね。やはり、そこにはプライドがあるのでしょうか……

──今や人気すぎて品薄になったタピオカの賞味期限を長持ちさせるために、定期的にガムシロップを混ぜて保存するという“追いガムシロ”をやっている業者もあるとの記事もありました。そもそもタピオカは主成分が炭水化物ですし、太る飲み物ですよね。

「台湾でブームだったときは太った人が増えたといいますしね。また、かつて“ダンボール肉まん”などが話題になった中国では現在、革靴と古タイヤで作られた偽タピオカが販売されているとニュースで見ました。

 飲んだ人がCTスキャンを受けたところ、消化されずに体内に残っていたとか。意外と歯ごたえはよかったりするのかもしれないですが、こちらも命がけですよね。それにしてもなぜ革靴やタイヤなどいちばん食べたくないものをチョイスしたのでしょうか

──材料費の観点からしてもタピオカより革靴のほうが高そうな気もしますしね……。日本では街中に容器のプラスチックカップがポイ捨てされるなどといった『ゴミ問題』も取り上げられてます。このタピオカブームに終わりはないのでしょうか?

私のようにのどに詰まる人が増えて“危険な飲み物だ”という風潮ができたらブームは去るのかもしれません。ただ、一時期ブームになっていた『白いたい焼き』もモチモチの食感を出すために材料にタピオカ粉を使っていましたし、仮にブームが終わっても形を変えて私たちの生活に弾力をもたらし続けそうです。 

タピオカを“映えさせる”心理とは──(グーグルの画像検索画面より)

 それでもいつかみんな、ほうじ茶やホット緑茶が一番いいと思える時代がやってくると思いますね。タピオカはそのボリューム感だったり甘さだったりと、人の寂しさを満たしてくれるようなドリンクにみえます。インスタグラムに“タピ活”とハッシュタグをつけてインスタ映えする写真を投稿するのもつながりを求めているからこそのことかと。

 アーユルヴェーダやヨガを極めたような霊格の高い人たちは白湯を好んで飲みますよね。そういった方たちからすればタピオカはとても享楽的な飲み物に感じられてしまうのかもしれません。“味つきで具ありの甘い飲み物、まだ飲んでるの?”と」


辛酸なめ子/漫画家・コラムニスト。
東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)『おしゃ修行』(双葉社)『魂活道場』(学研)、『ヌルラン』(太田出版)など。