インタビュー中に自身の持ちネタである「そんなの関係ねぇ!」を披露した小島よしお(筆者撮影)/東洋経済オンライン

「でも、そんなの関係ねぇ! はい、おっぱっぴー!」

 衝撃的なギャグとともにお笑い番組で脚光を浴び、ピン芸人として活躍してきた小島よしお(38歳)。

 だが現在、小島よしおをテレビの世界でかつてほど見かけなくなった。もちろん「テレビから消えた芸人」ではないが、テレビ以外の場所に活路を見いだしている。

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 例えば、全国各地でネタの営業をするだけでなく、「服を着て」演劇舞台に出演、自慢の肉体を生かしたマラソン大会出場、オーストラリアで自転車旅に挑戦するなど活動の幅を広げている。とくに、ショッピングモールなど子どもが多く集まる場所での営業は人気となり、再ブレークしているのだ。新しい取り組みとして子ども向け「絵本の読み聞かせ」も定期的に開催しているという。

 小島よしおという芸人は、どこへ向かうのか。本人へインタビューを試みた。

公園で「絵本の読み聞かせ」をする芸人

「今は絵本『ぱちょ〜ん』(2018年7月ワニブックス刊)の読み聞かせをすることが多いですね。なぜやっているかというと、その本があまり売れなかったことが理由です(笑)」と、ぶっちゃけトークから始まった。

 彼が初めて執筆した絵本のコンセプトは「朝起きるのが苦手な子どもでも、朝から大爆笑して元気になる」。

7月下旬、都内の公園で子どもたちに読み聞かせを披露していた小島よしお(筆者撮影)/東洋経済オンライン

 読み聞かせをする理由は、子どもたちに『ぱちょ〜ん』を見せたところ「ものすごくウケたので、これは広めよう」と感じたからだ。

「お客さんが入るハコを押さえて集客するのは無理があるけれど、公園ならお客さん(子どもたち)がいるので、ハコも必要もない」と考え、公園でゲリラ読み聞かせを開始した。自身のツイッターなどで当日告知し、そこに集まった数十人の子どもたち向けに披露している。

 内容は、『ぱちょ〜ん』を拡大コピーしたものを子どもたちに読み聞かせするというもの。小島よしおが「おっぱっぴー!」と叫んだら、子どもたちも「おっぱっぴー!」とまねをする。

 子どもたちと一緒にコール・アンド・レスポンスをすることで「やってる俺もさらにノってくる」。

 今年中に100公園での読み聞かせが目標だ(現在、30回超え)。

用意した絵本20冊は即完売した。紙芝居には30人程が集まり、子どもたちが夢中になっていた。紙芝居が終わると、少しずつ人が集まり、100人程が小島よしおと写真を撮って交流を深めていた(筆者撮影)/東洋経済オンライン

 絵本を売るためには効率が悪いとわかりながらも、「子どもたちと触れ合うことが好き」な彼にとって何の問題もないと笑う。

テレビで売れたことで感じた焦燥感

 小島よしおがテレビで脚光を浴び始めたのは12年前。「ユーキャン新語・流行語大賞2007」では「そんなの関係ねぇ!」がトップ10に入賞した。

「テレビの仕事はスケジュールの面でもいつなくなるかわからない。番組の企画や共演者とうまくあわせて、番組に出続けられるかという意味でも不安でした」

 もちろんテレビ業界では、つねに新しい芸人が出てきて、ライバルがひしめき合い、ベテランに引退はそうそうない。生き残るのはそう簡単ではない。

「テレビに出始めて、2010年くらいまでは余熱で残れました(笑)。それから『自分の中で飽きた時期』を過ごすようになったんです」

 2011年に自身のレギュラー番組の1つが終了すると、「居場所がなくなる」という焦りも生じた。「自分のようなキャラの新しい芸人がどんどん出てくる」ことに恐怖も覚え、競争社会から距離を置きたくなったと当時を振り返る。

発売中の絵本『ぱちょ~ん』を読み聞かせする理由について話した小島よしお(筆者撮影)/東洋経済オンライン

 そこで先輩に相談をすると、「子ども好きなんだし、子ども向けライブをやってみたら」とアドバイスされ、2011年から子どものためのライブをやり始めたのだ。すると、「『そんなの関係ねぇ!』が子どもたちにめちゃくちゃウケた」ことで自信がついた。

「例えば、営業先では30分という時間をもらったときに、自分で企画したものをやりきれるのでやりがいを感じます。面白さを比べられることや、争いは正直好きじゃない。ほかの芸人がやっていなかった子ども向けネタをやることで、新しいお笑いを提供したいと思いました」

 小島よしおの鉄板ギャグ「そんなの関係ねぇ!」は先輩に連れられていったクラブで話がスベったことから生まれ、「ダイジョウブーダイジョウブー!」はネタを周りの芸人に見せて心配されたことで生まれた。

 最近の一押しギャグは「じょじょじょじょじょ!」。孔子の言葉「恕(じょ)」が好きで「思いやり」の意味を表したギャグだという。

「旅先で曲を作るヨーロッパの作曲家の気持ちがわかりますね」

 多くのギャグが、自分が置かれた状況や言葉が具現化されることで生まれている。

「おっぱっぴー」のポーズを披露した小島よしお(筆者撮影)/東洋経済オンライン

 テレビ出演が減り、自分自身を模索する中で、鉄板ネタである「そんなの関係ねぇ!」を本気でやらなくなった時期もあった。新ネタをやっても、まったくウケなくなった。

 いったん原点に戻り、2015年の単独ライブで「そんなの関係ねぇ!」を全力で披露したところ、手応えを感じた。

「あらためて『そんなの関係ねぇ!』と正面から向き合い、自分にしかない武器を磨き直すようになった。職人のようにつねに精進です」

 勢いに乗った小島よしおは、ピン芸人日本一を決める2016年のR-1グランプリで「そんなの関係ねぇ!」を中心としたコジマリオネットのネタを披露し、準優勝になった。

 同時に、「同じことをやり続けるパワーを持つ大切さ」に気がついたそうだ。

「新しいことにもチャレンジしながら、オールドタイプな部分もしっかりとやる。裸に海パンがトレードマークの『そんなの関係ねぇ!』を一生やり続けるために、筋トレと走り込みをして肉体を維持しています」

僕は雑草をお手本にしています

 小島よしおは芸人としての自分を「雑草」にたとえる。

「雑草って、実は強い生き物ではなくて、競争力が弱いからライバルの植物がいない所を探して生えていくんですって。だから最終的にコンクリートとか、ほかに誰もいない所で育つ。僕もそんなイメージですよね。雑草をお手本にしています」と話し、こう続ける。

「みんながやらないことがつねに頭の中にあって、ライバルが少ない場所を探し続けています。インパクトがあるギャグがあっても、僕は弱い存在だから競争力がない」と、謙虚な一面も見せた。

小島よしお(こじま よしお)/1980年11月生まれ。沖縄県出身。身長178cm、体重70㎏。サンミュージック所属(筆者撮影)/東洋経済オンライン

 取材で訪れた場所は、彼が2014年から借りている仕事部屋。トレーニング・ネタ作り、打ち合わせ・稽古などに取り組む。最近では、芸人仲間の「かもめんたる・槙尾ユウスケ」が親子向けのワークショップを開催しており、その会場でもある。

 後輩芸人からは、どうすれば自分たちのネタを通じて親子に喜んでもらえるのかアドバイスを頼まれることも多い。彼自身も、子ども向け映画やテレビCMなど仕事のオファーがひっきりなしだ。

「とはいえ、つねに新しい何かをやらなければならないという危機感も強いですね。子ども向けライブをやる芸人が増えれば、競争が激しくなるので、また新しい場所も探します」

 

ネタをやるだけではない新しい挑戦

 今年の夏休み、単独ライブを8月3日に浅草の花やしき(浅草花劇場)で開催する。ライブは参加型で、小島よしおと一緒に遊べるので、子どもたちにとってもいい思い出になるだろう。

 最後に今後の野望を聞いた。

「日本の農作物を応援していきたいですね。いろいろな農作物がある所で、『やさいの歌』などのライブをやったら面白いと思います」

 ジュニア野菜ソムリエの資格も取得している小島よしおは「ごぼうのうた」「ピーマンのうた」など子どもたちと一緒に歌って踊れる歌をつくり、人気になっている。

 テレビで絶大な人気を博したピン芸人の今を追うと、子どもたちにウケる最強のギャグを磨き直し、再ブレークを果たしていた。裸に海パンがトレードマークの男は、お笑いの枠にとどまらず新しい挑戦を今も続けているのだった。

(文中敬称略)

手作りのフラミンゴの衣装を着た小島よしお(筆者撮影)/東洋経済オンライン

佐久間 秀実(さくま ひでみ)スポーツライター 1976年埼玉県生まれ。スポーツを通じて、楽しさ、喜び、感動を!「KING GEAR」と「ALPEN GROUP RUNNING」でインタビュー・記事作成・写真を担当。各スポーツ界の世界チャンピオン、トップアスリートや元日本代表選手、スポーツメーカー企画開発担当者、メジャーミュージシャン、モデルに単独取材。趣味はサッカー、ランニング、卓球等のスポーツ。浦和レッズユース第1期生。琵琶湖を徒歩1周(3日)。プロフィール写真は、龍馬の生まれたまち記念館(高知県)で撮影。