橋本翔太さん

 つらい気持ちがぬぐい去れず、うつをはじめとした心の不調を訴える人たちが増えてきています。でも、大丈夫。自らもそんなひとりだった心理療法士・音楽療法家の橋本翔太さんが試行錯誤の末、確かに効果があった3つのアプローチ方法を教えてくれました。悩みをひとりで抱えているあなた。ぜひ、試してみてください。

心理面からのアプローチだけでは不十分

「どうも最近、気分が沈んだまま治らない」「強い不安に襲われる」「何もかも悲観し、自分を責めてしまう」──こんな不調を訴える人が増えている。病院に行き、うつと診断されたことのある読者も中にはいるだろう。うつは“心の風邪”と言われている。よって、心理面のアプローチだけで回復すると信じる人は多いはずだ。

 いや、それだけでは不十分!

「心理面のアプローチ」に加え、「音楽療法のアプローチ」と「栄養面のアプローチ」の3つのアプローチが必要、と提唱するのは心理療法士で音楽療法家の橋本翔太さんだ。橋本さんも2011年にうつと診断され、心の不調のトンネルをさまよっていた。しかし、多角的なアプローチの有効性を自ら発見、今では、うつを完全に克服することができたという。

「心理面のアプローチができている人って、実はけっこういるんです。でも、特に栄養面をおろそかにして回復に至らないケースが多い印象です。心の不調は体調面から来ることも多いのです。また、音楽鑑賞も、適切な方法を知れば、てきめんに効きます。この3つをあわせて試してみてください

 そもそも、専門家でもある心理療法士の橋本さんはどうして“うつ地獄”にはまってしまったのか? そして、そこから抜け出せた方法とは?

 大学院で心理学を学び、その後も心の勉強をしてきた橋本さんが、うつと診断されたのは2011年、東日本大震災の後だった。

「もともと、私は心理学やスピリチュアルを勉強していたのですが、震災のころにスピリチュアル関係者が“あのときの津波は地球の浄化だ”とひどいことを言っているのを見聞きしたんです。私自身、被災地である福島県出身であることもあり、信じていたものがわからなくなる価値観の崩壊に陥りました。頭がぐちゃぐちゃになり、具合が悪くなってしまったんです

回復し、泣きながら本を捨てた

 小・中学校時代、いじめにあっていた橋本さんは小児うつになったが、大学に進んで習得した心理メソッドで回復を果たしている。だが、震災直後の橋本さんにそのメソッドは効かなかった。

 たまらず、病院やカウンセラー、東洋医療などさまざまな専門家のドアを叩くも、状態は悪化するばかり……。

「“この道のプロなのに情けない”と自分を責めていた際に出会ったのが、食事と栄養素でうつを回復させるという栄養療法でした。実践してみると、確かに回復したんです。心の問題はカウンセリングや自己啓発のアプローチで100%よくなると学んできたのに、それだけではないと初めて知りました」

 うつを撃退する神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)は食物に含まれる栄養成分から作られている。つまり、「栄養面のアプローチ」を行うことで脳機能は改善し、心の不調はやわらいでいくのだ。

「“心の風邪”の言い方を変えると“脳の風邪”になる。つまり、食事と栄養が原因で脳の不調になる人が実は、すごく多かったということなんです。私自身、これは盲点でした。だから、泣きながら、大量に所有していた心理学やスピリチュアルの本を捨てましたね。“今まで何だったんだ、バカヤロー!”って(笑)」

 何度も言うが、うつの回復には多角的なアプローチが大切だ。橋本さんは心:身体=50:50の割合だと説く。

「栄養面のアプローチだけではうまくいかないと、ある程度、回復してから気づいたんです。そこそこ幸せだけど、そこから先へどうしても行けない。そこでもう1度、心理と、自分が長らく続けていた音楽療法のアプローチを行いました。そのときはもう身体のほうはできているので、この2つのアプローチもようやく結果が出始めました」

 こうして、「心理面のアプローチ」「栄養面のアプローチ」「音楽療法のアプローチ」の3本柱を確立する。中でも読者に特になじみがないのは音楽療法だろう。

「現在、音楽療法を取り入れるお医者さんは増えてきています。また、介護施設や特別支援の必要な子どもたち、高齢者のリハビリなどで音楽は有効活用されています」

 多角的アプローチを避ける専門家は多い。精神科のドクターは心理的アプローチにこだわるし、代替療法の専門家が西洋医療を否定することもしばしばだ。

「うつを克服した経験者の私から言わせると、どちらもバランスが悪いのです。多角的に取り入れていけば、うつは必ずよくなります」

 次のページからは、橋本さんが提唱する3つのアプローチについて詳しく解説!

(1)他者優先を捨てて自分優先に切り替える
「心理面のアプローチ」

 大切なのは相手や社会ではなく自分自身を優先させること。この考え方は心理的アプローチで一貫している。

1.「怒り」の感情を「許し」と「感謝」でフタしない!

 感情をのみ込んでニコニコしているのがよいとされる風潮が日本にはある。怒りや悲しみを抱いても、いい人ほど感情にフタをしてしまいがちだ。この感情のフタは「許し」と「感謝」でできていることが多い。何でもかんでもポジディブな側面を見つけては「ありがとう」「ごめんなさい」でネガティブな感情を打ち消したり……。

橋本翔太さん

 我慢したその感情は行き場を失い、消失する。感情はエネルギーそのもので、このエネルギーが消えると喜びややる気のエネルギーも消えうせる。そして無気力になり、うつの原因になってしまうのだ。だから、ポジティブ、喜びだけを肯定しないで、全部感じることが大事。

 うつが回復してくると感情のフタが少し開き、怒りっぽい状態になる。感情の井戸には上から怒・哀・喜・楽の順番で感情が閉じ込められており、いちばん上の感情(怒)が出てこないと下2つのポジティブな感情(喜・楽)が出てこられない。生きる力を取り戻すには、怒りを出してあげることが先決。怒ることが苦手な人は、主語を「私」にして「私は怒っている」と言葉にしてみよう。怒りが出せるようになってくる。

「実際、私は怒るようになってから、うつが治りました」(橋本さん)

2.今まで叶えてきたものを再認識して幸福度を上げよう

 人間は幸福が逓減していき、次第に感じなくなる生き物。だから「あれが欲しい」「これがうまくいかない」と、叶っていない願望のことばかり考えるようになる。でも、今まで叶えてきた願望もたくさんあるはず。「家庭を持った」「海外旅行に行った」「行列のできる店のスイーツを食べた」「着たい服を着ている」など。まずは、叶ってきたそれらをひとつひとつ数えてみよう。

 あと、叶えてきたものを分野別でノートに書き込むのも効果的。例えば、人生面(お金、恋愛、仕事など)では「やりたい仕事をやっている」「大病したけど今は元気」ということがあるだろうし、物質面では服、アクセサリー、バッグなど実際に手に入れているものを書き出してみる。そうすると、すでに手にした豊かさを再認識して幸福度が上がるのだ。夏の疲れだって吹き飛ぶはず! 怒りを落ち着かせるのに効果的なワークでもある。

 “引き寄せの法則”という言葉があるが、叶えてきた願望に関心を向けると、さらに叶えたいものを引き寄せることにつながる。よく「叶った自分を想像しよう」と言う人がいるが、それよりこちらのほうが波動は強く、叶っていないことがどんどん叶い始める。「何か叶えたい!」ではなく、すでに“叶っている”自分をちゃんと認識すべし!

3.心の問題は身体の不調からも起きる

 前述のように、うつは“心の風邪”と呼ばれ、それは“脳の風邪”と言い換えることができる。脳は身体の一部だ。つまり、心の不調を治すには身体へのアプローチが必須だということ。しかし、身体をないがしろにしている人は多く、そのため心の不調から抜け出せない人はたくさんいる。例えば心の不調は身体、ホルモンバランスの不調からも起きる。

「生理前や更年期に気持ちが揺れ動いたり、やる気が起きないのは、その人が悪いのではなくホルモンのバランスのせいです。同じように、なんらかの理由でホルモンバランスが乱れている人は実はたくさんいる。それなのに心へのアプローチばかりやって前向きになろうとしてもなれないんです」(橋本さん)

 身体へのアプローチ法は大きく分けて2つ。「血糖値の安定=心の安定」「うつを撃退する栄養素の摂取」が挙げられる。これに大きく影響してくるのは普段の食事だ。

「私から見たら、“食事さえ変えればこの人はうつが治るのに”という人はたくさんいます」(橋本さん)

 また、回復段階によって適切なアプローチ法が変わることも強調しておきたい。かなり心が落ちている段階は身体のアプローチが先決。その状態を脱したときこそ、心理学的アプローチが初めて効果を発揮するのだ。

(2)うつを撃退する栄養素を摂取する
「栄養面のアプローチ」

 うつの回復は「心:身体=50:50」で取り組むことが大事。身体のアプローチの鍵は、食事が握っていた!

1.食事は肉と魚でお腹をいっぱいにするつもりで

 うつを撃退する神経伝達物質(セロトニンなど)の原材料は、「タンパク質」「鉄分」「ビタミンB群」の3つ。一般的な抗うつ剤はセロトニンを再利用する薬だが、材料不足を補えば抗うつ剤を使わずとも身体がセロトニンを作ってくれる。

 中でも最も大切なのはタンパク質だ。食事は肉や魚や卵などの動物性タンパク質をメインにしよう。一方、制限しなければいけないのは糖質(お菓子、ごはん、パン、麺類、果物など)だ。と言っても、糖質制限ダイエットとは異なる。タンパク質でお腹をいっぱいにし、結果、ごはんの量が減るくらいのイメージで。

手っ取り早い栄養源として糖質ばかり口にしがちですが、それは間違い。肉中心の食生活でも健康に生きていけます。高齢になるとお肉が食べられなくなるというのも間違い。

 胃液と胃壁はタンパク質からできていますが、食が細くなると炭水化物でお腹がいっぱいになり、肉まで行けなくなった結果、胃液と胃壁が弱ってさらに肉から遠のく、というループなんです。少しずつでも肉を食べ始めると、やがて量を食べられるようになります」(橋本さん)

 また、小食であまり食べられない人はアミノ酸のサプリメント(タンパク質が分解された状態がアミノ酸)を摂取するのもおすすめだ。

2.三角食べではなくコース料理のように。ごはんはデザート感覚で

 食事で糖質をとると血糖値は上がる。するとインスリンが分泌され血糖値はゆるやかに下がって空腹時とほぼ同じ数値になる。しかし、糖質をとりすぎるとインスリン分泌のタイミングがずれるなどの原因で血糖値が必要以上に下がり、身体が血糖値を上げるホルモン(ノルアドレナリンやコルチゾールなど)を分泌する。

 ノルアドレナリンはやる気を起こすのに重要だし、コルチゾールはストレスに対応するために使われる。これらが血糖値を上げる目的で使われると肝心なときにホルモンが足りず、やる気が出ないなどメンタルに大きな影響が出てくるのだ。つまり、血糖値の安定=心の安定と言える。

 実は、血糖値が急上昇しない食事の仕方がある。それは、食べ方の順番を変えること。空腹時にいきなり糖質の高いものから食べると血糖値が跳ね上がるので、糖質はできるだけ最後に食べたい。

「常に“シメのごはん”であってほしいんです。むしろ、ごはんとかパンはデザート感覚で食べるくらいでいい」(橋本さん)

 また、給食のときに指導された、主菜(肉魚)→副菜→ごはん(パン)とループして食べるという“三角食べ”は心の安定のための食べ方にはならない。前菜(副菜)→主菜(肉魚)→ごはん(パン)といった、コース料理のように食べること。ごはん類ではなく肉魚まででお腹を満たす感覚を持つようにしよう。

3.足りないと心が不安定になる鉄分とビタミンBはサプリで摂取
橋本さんおすすめのサプリ「ヘム鉄ジェントル フェリチン対策」

 タンパク質とともに重要なのが「鉄分」と「ビタミンB群」だ。これらはうつを撃退する神経伝達物質の原材料になる。それだけでなく、鉄分が不足すると心が不安定になる。フェリチンという貯蔵鉄の数値が一定より下がると、原因不明の頭痛が出たり、うつやパニックなど心の症状が出る人もいる。

 特に女性は生理だけで1か月分の鉄の平均摂取量と同等の鉄分を失っており、日本人の多くは潜在的な鉄分不足だ。ビタミンB群不足でも心の不調は起こる。落ち込みやすい人、はたまた最近話題のHSP(周囲の状況に過度に敏感な人)もビタミンB群不足が原因のひとつだという。

「多くの人は心理的な原因を探ろうとするんですが、そうではなくて、実は鉄やビタミンB群の不足で起きていることが結構あるんです。また、鉄分といえばほうれん草やひじき、鉄鍋……というイメージですが、こちらの鉄分は微々たるもので、吸収率が悪い。心の安定のためには赤身の肉や魚、レバーに含まれている鉄分が(ヘム鉄)大切なんです」(橋本さん)

 これらを摂取するには、食事よりもサプリメントを活用したほうが早い。

「サプリメントでとってしまうほうが早くて効率がいいし、むしろ経済的です。例えば、鉄は1日に何mgとってほしいという数値があるのですが、それを牛肉からとろうとすると途方もない量になってしまいます」(橋本さん)

 気になる人はヘム鉄や、ビタミンB群のサプリメントから摂取してみよう。

(3)音楽を使って心の不調をやわらげる
「音楽療法のアプローチ」

 直接、心に作用する音楽は、負の感情を緩和する力を持っている。また、各項にあるQRコードを読み取ると読者限定のピアノ音源が用意されており、これを聴いてワークを行えば心がリセットして元気になるはずだ。

橋本翔太=著『すべてが楽になるピアノレイキ』(フォレスト出版刊) ※画像をクリックするとアマゾンの商品紹介ページにジャンプします

 音楽はうつや心の回復に大いに役立つ。わざわざ音楽療法と言わなくても、音楽で心が元気になったり、グッときて涙ぐんでしまった経験は誰しもあるはずだ。ただ、注意点がひとつだけある。それはそのときの感情に近い音楽を聴くということ。

 悲しいときには悲しみの感情に特化していたり静かで落ち着いた音楽を、怒りで興奮しているときはアップテンポの曲を聴くとよい。気分が沈んでいるときにはダンスミュージックのような元気な曲が気持ちを盛り上げてくれそうな気もするが、これは間違い。気持ちが音楽についていけず、抑圧されかえって落ち込みが強くなってしまうことがある。

「音楽を道具として活用する、がコンセプトです。『こういうときはこの曲を聴く』と、処方箋のように自分の状態に合わせた曲を意識的に選んで使いましょう」(橋本さん)

「思い出の曲」はあなたの“心の頓服薬”になる

 青春時代に流行していた曲や、よく聴いていた曲を耳にすると、心がそっちに引っ張られて元気にならないだろうか? 実は、これも立派な音楽療法なのだ。

音楽は記憶を呼び覚ます効果が高いのです。つまり、感受性が高くて血気盛んなころに聴いていた曲は、そのときの心にタイムスリップさせてくれます。つまり、今の心のモヤモヤを忘れさせてくれるのです。年代別のヒットソングのCDが受けているのは、そういう理由かもしれません。思い出の曲を頓服的に処方してみてくださいね」(橋本さん)

(取材・文/寺西ジャジューカ)


監修:橋本翔太さん ◎臨床心理学専攻教育学修士/心理カウンセラー、音楽療法家。音楽教員を経て現在の活動を開始。日本にとどまらずシンガポールを中心に南アジア圏でも活動中。メンタルの強化や、自閉症、ADHDを抱えた方たちのカウンセリングにも従事。『聴くだけうつぬけ』(フォレスト出版)など、著書多数。

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『すべてが楽になるピアノレイキ』(フォレスト出版刊 税込み1620円)
橋本さんの最新刊。橋本さんによるヒーリングミュージックの聴き方を解説した一冊。心と身体をスッキリリセットできるCD音源つき。

「ヘム鉄ジェントル フェリチン対策」
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