8月18日、悪質なあおり運転と暴力行為により、傷害罪で逮捕された宮崎文夫容疑者(43)と、その恋人・喜本奈津子容疑者(51)が犯人蔵匿・隠避の容疑で逮捕されたニュースが世間を震撼させている。逮捕時にみせた異常な関係性や、衝撃の事実が次々と報道される“今夏最注目”のふたりついて、漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんとともに考える。
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──今回の事件は宮崎容疑者が逮捕される前、彼と一緒にいた女性が誰なのか、SNSを中心に“特定作業”が始まり、全く無関係な女性が犯人だと拡散されてしまうという騒動もありました。
「その女性のSNSを宮崎容疑者がフォローしていたことと、ドライブレコーダーに映っていた喜本容疑者と服装などが似ていたことから、この人が犯人なんじゃないかと特定されていきましたよね。
ここ数年、何か事件が起こるとすぐ、その日中に個人の経歴やSNSのアカウントだとかを特定しネット上に“まとめサイト”ができる風潮があるかと思います。
そういったネット記事を読むと最後は決まって“いかがでしたか?”、“最後までお読みいただきありがとうございます!”といった柔らかい口調で締められていることが多いですが、その穏やかな感じと、個人情報を特定し記事をまとめるスピードとのギャップに恐ろしさを感じます。
今回は全く事実と異なる情報が拡散されましたし、こういったまとめサイトを鵜呑みにするのは怖いなと思いましたね」
新ジャンル “匂わせおじさん”
──テレビでもたびたび流された、ホテルの窓際で決めポーズをとる宮崎容疑者のインスタ写真も衝撃でした……。今でもアカウントは公開されたままで、誹謗中傷のコメントが止みません。
「よく来日したセレブがインタビューを受けるときにこんなポーズをしていますよね。これは彼女に“この角度で撮ってくれ”と指示したのでしょうか……。
インスタにアップされているほかの写真にも注目すべき点が。
ホテルのベッドの写真をあげたかと思えば、手前に写り込むテーブルにコーヒーの入ったティーカップが2つ置いてあったり、夜景を写した窓際にもビールが注がれたグラスが2つ並べられていたりと、明らかに交際を匂わせるような写真をアップしています。“匂わせおじさん”というのは新しいジャンルかと」
高級車と観覧車
──報道によると2月に交際を始めていて、インスタで初投稿をしたのが3月の初旬。SNSを始めたのも彼女の影響だったりするのかもしれませんね……。
「ビールグラスの写真が彼の最初の投稿ということを考えたら、匂わせインスタも“ようやく他人にアピールできるものができた”という気持ちの表れだったのかもしれません。
しかし、今はコメント欄も荒らされ放題で、小田原城下にいる猿の動画を投稿したものには、“この猿もあおる気?”といったコメントが書き込まれていました。また、観覧車が好きなようで、写真や動画をたびたびアップしているのですが、あれほどゆっくり動く乗り物に惹かれているのにもかかわらず、乱暴なあおり運転の常習者だというのもどうも不思議です」
──高級車と観覧車が宮崎容疑者の二面性をあらわしているのでしょうか……。確かに送検される宮崎容疑者の様子も、なんだか弱々しくみえましたよね。ほかにも喜本容疑者がはじめ「ガラケーの女」と呼ばれていたように、ふたりが同じガラケーを持っていることも話題になりました。
「ネットではなぜか彼らが使っているケータイの機種を特定している人もいたのですが、あれは厳密にはガラケーではなく、“ガラホ”と呼ばれるものだそうです。形はガラケーなのですが、中身はスマホに近い性能を備えている。ふたりが使っていたのも今年の2月に発売されたばかりのもので、カメラの画質は800万画素もあるとか。
ふたりとも同じもの使っているということは、フリック操作が苦手なのでしょうか……? そんな共通点も運命的ですよね。ブラック・ゴールド・ピンクと3種類のカラーバリエーションがあるなかで、宮崎容疑者がなぜピンクを選んだのかも気になります」
──ワイドショーでは犯罪を犯しながら各地を回るふたりの無軌道な行動を「ボニーとクライドみたいだ」と喩(たと)えているコメンテーターもいました。
「ボニーとクライドに関しては犯罪者だけれども“おしゃれ感”みたいなものがありましたが、あのふたりにはそれは皆無ですよね。逮捕の瞬間、引き裂かれるふたりが“手をつなぎたい”と叫び合っているのには若干それを感じさせましたけど……。
日本各地であおり運転を繰り返したふたりですが、その犯行がエスカレートするにつれて、恐怖と同時に興奮を感じて恋愛における“吊り橋効果”じゃないですけど、“あおり運転効果”のようなものもあったのかもしれません。
また、逮捕される瞬間の宮崎容疑者が警察に対してまくし立てているのをみても、実際はかなりちっちゃい男だと思います。だからこそ、高級車を加速運転したり、ホテルでカッコつけたポージングをすることで自分を大きくみせていたのではないでしょうか」
──そんな彼が逮捕の映像で彼女のことを「喜本さん!」と名字で呼んでいるのはなんだか意外に感じられましたが。
「ふたりが訪れた飲食店の店員さんがふたりの印象について取材を受けた際に、“男性が女性を叱り飛ばしていて、まるで上司と部下のようだった”と話している報道もありましたし、この名字呼びも上司・部下プレイの一環なのかもしれません。
最後パトカーに乗せられる瞬間も彼女のほうを振り返り目に焼きつけようとしながら、“決して君のことを忘れない”とばかりに彼女の名前を叫んでいましたよね。元KAT -TUNの田口淳之介と小嶺麗奈さんも大麻で捕まったあと、法廷で“結婚したい”と公開プロボーズをしていましたが、ふたりもこの逮捕劇でむしろ絆を深めてしまったのではないでしょうか。あとあと振り返って“あのときお互いの名前呼び合ったよね”と、美しい思い出に変換されてしまうのかも」
あおり運転は“エコじゃない”
──昨今、話題になっている“あおり運転”ですが、今回の件でよりフィーチャーされるようになりました。メディアでは「もし、あおり運転に遭遇したら」といった特集まで組まれるようになっています。
「あおり運転は今の時代に逆行しているような気がしますね。今のハイブリッドカーや電気自動車には、ブレーキをかけて減速するときに失ってしまう運動エネルギーを生き返らせて再利用するという『回生ブレーキ』という仕組みがあります。
そんな時代にあって、暴走したりあおり運転をしたりするのは時代遅れですし、エコじゃないですよね。こういう人は次第に淘汰(とうた)されていくのかもしれません。
宮崎容疑者が卒業した関西学院大学はキリスト教に基づいた教育をしていて、校内には神父さんがいたり礼拝があったりするはずなのですが全然、精神的に効果がなかったみたいですね。隣人愛どころか隣人に対する憎しみしかなかったということですよね」
──連日ワイドショーではこのニュースがトップ扱いで報じられていますが、ふたりのキャラクターが非常に強いのも理由のひとつですよね。
「いま、世界ではアメリカの大富豪・ジェフリー・エプスタイン氏が未成年の女性に対し、性的搾取や人身取引をしていた容疑で逮捕されたあと、独房の中で死亡したというニュースが注目されています。その顧客リストにはイギリスのアンドリュー王子らの名前もあるとか……。闇が深すぎます。
そんななか、どのチャンネルも延々とあおり運転の話題をやっていて、彼らが訪れたうどん屋の店主に話を聞きに行ったりしているのをみるに、日本はまだ平和なのかもしれないと思ってしまいました。ただ、あおり運転および、暴行行為は絶対に許されるものではないので、とにかく宮崎・喜本容疑者にはカウンセリングを受けて気性を直してほしいですね」
辛酸なめ子/漫画家・コラムニスト。
東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)『おしゃ修行』(双葉社)『魂活道場』(学研)、『ヌルラン』(太田出版)など。