舞台をはじめ数々のドラマや映画に出演し、独特の存在感を放つ俳優、迫田孝也さん。
昨年のNHK大河ドラマ「西郷どん」では、佐賀藩士・江藤新平役として出演しながら、薩摩ことばの指導も担当。リアルな演出を求められる大河で、薩摩ことばのプロフェッショナルとして携わった経験、現場での裏話を聞いた。
イントネーションが違ごっ!
「大河でいちばんひったまがったのは、おいの役柄が佐賀藩士じゃったこと。薩摩ことばの指導で現場におるのに、ないごて、役は佐賀弁じゃろかいち(笑)。
撮影中、長州弁や土佐弁や公家ことばなど、いろんな方言が飛び交うシーンが多く、なじみのあるイントネーションが耳に入ってくるので、引っ張られないように精いっぱいでした(笑)。
最初の放送では、イントネーションが違ごっ! という地元視聴者からのお叱りもあったんですけど“ゴメン、慣れてくいやんせ”って思いました(笑)」
指導するにあたり、とても手を焼いた役者がいたという。
「風間杜夫さんですね(笑)。毎回、一生懸命なんですけど、なかなか難しかったようで。
最初はこりゃ手強いぞって思ったんですが、あの方のすごいところは途中から我流になって(笑)。
もちろん、芝居を優先させるのが役者の本分。最後は芝居の迫力で押し切られるっていう状況がたくさんあった。撮影終盤には、もうひとりの薩摩ことば指導者にまかせて“僕はうしろで見守ります”って逃げました(笑)。
地元の方も初めは“あれ?”って思っていたと思うけど、最終的には“うん……いるかもな、こういう人”みたいな。妙に納得してしまう演技力でした!
“風間弁”が鹿児島弁の幅を広げてくれたっていう話でした(笑)」
指摘されると気になる!
普段使わない言葉を使いこなして演技をする。役者業は想像以上に大変そうだ。
薩摩ことばを指導したことで違う角度から芝居を見られてよかった、と語る迫田さん。自身が方言で苦労した経験は?
「訛りって自分では気づかない。標準語でしゃべっているつもりでも違うと指摘されると、急にイントネーションが気になってセリフを置きにいってしまう。
あと、以前、関西弁の芝居をやったせいで、今でも関西弁のイントネーションが抜けません! 関西人の方と話していると、エセって言われるんですよ。必死で練習したんだけどなぁ(笑)」
関西弁さえも使いこなす(?)迫田さんにとって、わかりづらい方言は?
「奄美などの島ことばですね。“うがみんしょーらん”がこんにちは。ほかには“うら”があなたで“わー”が私。奄美の人はいまも使っていますが、僕にはどれが単語なのかもわからないです」
同じ県内でも地域によってまったく違うという。
「逆に“わっぜ(とても)”“かたして(仲間に入れて)”“おやっとさぁ(おつかれさま)”などの鹿児島弁は若者も日常で使う言葉。撮影現場で流行らせようと思ったのにイマイチでしたが(笑)」
狭い日本の中でいろいろな方言があるけれど“女性が話す方言”は男性に人気だ。
「博多弁と京ことば。東北弁なら“だっちゃ”に萌える! 女性に方言で告白なんかされたら、可愛さ3割増しに見えちゃいそうですね(笑)」
告白にはあざとく方言を使おう! ちなみに鹿児島弁で女性に告白した経験は……。
「いや、ないでしょ! 例えば高級レストランで食事してるときに急に“ほんのこて好っじゃ”“おはんのことがわっぜ好っじゃ”とか言ったら、絶対ふざけてると思われる。そこは普通に“好きです”って言わせてください(笑)」