消費税10%への引き上げを控えてなお、各世論調査で支持率は5割前後に上昇、一強体制の盤石ぶりを見せつける安倍政権。一方の野党は、参院選で議席を獲得したれいわ新選組(れいわ)、NHKから国民を守る党(N国)ばかりが話題をさらう。その陰にかすんで、野党第一党である立憲民主党は存在感を発揮しづらい状況だ。
家計を襲う増税、広がる格差、首相の肝いりで進められる憲法改正など問題が山積みのなか、この国の政治はどこへ向かおうとしているのか。立憲民主党の山尾志桜里衆院議員に話を聞いた。
保身を捨て覚悟を持って臨む「れいわ」の強み
「いまの安倍政権は、運転は乱暴だけれど、目に見える大きな事故はまだ起こしていない。かたや野党はと言えば、教習所の教官が助手席でブレーキを踏むように、ブレーキ役としては選ぶことができるけれど、代わりに運転席に移動してハンドルを握らせることができるかというと、心もとない。そういった国民のみなさんの心情は自覚しています。真摯(しんし)に反省しなければいけません」
山尾氏は自身の立ち位置を見つめ、自戒を込めてそう話す。そして、新勢力の躍進についてこう分析してみせた。
「社会的弱者と言われるような方々をはじめ、大衆を守るには強さが必要。また、国民に届く言葉を持たなければなりませんが、既存の野党にはできていない。ところが、れいわの山本太郎代表は、自らの哲学を明確に打ち出し、それを伝えるための努力を惜しんでいません。彼らを見ていると、保身を捨て、強さと覚悟を持って臨んでいることが伝わってきます。少なくとも私たちが学ぶべき姿勢を持っている」
さらに、「これまで国会の中で、たった1人でさまざまなアクションを起こし、実績のある山本太郎代表と、特段の実績をもたないN国を一緒くたにすることはできない」と前置きをしつつ、「なぜ一定の支持を集めたのかという手法に関しては無視できない」と続ける。
「予算委員会の中継を見てください、とどれだけ伝えたところで、忙しい人は見ることができません。時間が取れない、関心がないという人々に対して、政治は伝え方のチャンネルを増やす工夫をしていく必要がある。今回の参院選で、ニューカマーとして新しい政党の参入が進んだのは、YouTubeを積極的に使うなど、時代に沿う発信に知恵を絞ったからだと思います」
森友・加計学園問題しかり、統計不正問題しかり、「官邸の圧力」と「官僚の忖度」によって意思決定がなされる密室政治は、ただでさえ国民の間に漂う政治不信をいっそう深めた。これを払拭(ふっしょく)するには、「(国民と政治家との間に)双方向の関係性を築かなければ、本当の意味で“草の根の対話”はできません」と山尾氏。
「YouTubeやSNSなど、ネットには双方向性がある。またイベントなどを通して、じかに市民と政治家が語り合う対話の場を作ることも重要です。
選挙のときも、候補者が各自で演説するのではなく、例えば候補者たちが1か所に集まり有権者の前でディベートをする。そのほうが、候補者ごとの主張や違いがよくわかる。有権者にとって“選びやすい”“わかりやすい”選挙活動をすべきだと思います」
親しい間柄であっても、政治に関する話題はタブーになりがち。また、国会で激しいヤジが飛び交う様子に抵抗を覚える人も少なくない。そうした政治につきまとうイメージを変えていくことも重要だと話す。
「たたかなければいけないときはたたきますが、不必要にたたき合う姿は、国民の気持ちが冷めてしまうだけで支持は広がらない。公開討論やテレビ討論などでも、険悪ムード一辺倒で議論を交わすのではなく、楽しげな雰囲気であっても有意義な討論はできる。仲良くする必要はないけれど、政治に興味や関心を持ってもらうために、与野党がともにできることはあるはずです」
世界165位という「女性活躍」できない現実
女性活躍が叫ばれる一方、政界を見渡せば、国会で女性議員が占める比率は世界193か国中、日本は165位。参院22.6%、衆院10.1%にとどまっており依然、マイノリティーだ。そんな“おっさん政治”の国会で3期務めた経験から、山尾氏は「女性ならではの難しさはある」と苦笑する。
「議員になったばかりのころ、できるだけ懇親会や研修会に顔を出していました。それこそコンパニオンさんが同席するような宴席に出席して、お酒を注いで回るというようなことをしたんですね。その場の空気に合わせるように、彼女たちと一緒にお酌をしていたところ、私が議員であるとわかっていながら、冗談で、“そこのコンパニオン、注いでくれ”と声をかけられました。
職業としてのコンパニオンにも、政治家である私にも、度を越す無礼だと思いましたね。以後、その宴席にはいきませんし、お酌を票につなげるような振る舞いもやめました。
政治の世界は圧倒的に古い男性社会です。でもそれを変えたいなら、有権者とどう向き合うか、永田町でどうふるまうか、女性政治家として哲学を持つ必要があると思います。新人や一期目では特に難しいことだけれど、それでも媚(こ)びをうらず、自然に、毅然(きぜん)としていることが大事です」
こうしたプレッシャーが女性を政治の舞台から遠ざける。
「新たに制度を作ることでしか変えられない文化もあります。参院選の前に、候補者の男女比を均等に近づける“日本版パリテ法”が施行されました。多様な声を政治に反映させるには、女性はもちろん、LGBTや若い世代が政治の舞台に参入しやすい環境整備が求められます。
まずは女性にスポットを当て、候補者の半数が女性という目標を各党で実現していくことが大事。実際に参院選では、立憲民主党は候補者の約半数を女性が占め、かつ一定の当選人数を確保できました。理念法とはいえ、できた意味は大きい」
政治文化の新陳代謝を促すには、2世、3世の世襲議員が多くを占める状況も見直す必要があるだろう。
「国会議員の任期制を検討すべきではないでしょうか。あらかじめ期数が決まっていれば、議席にしがみついたり、世襲を続けたりする意味はなくなる。
当選イコール政治に骨を埋めるという風潮が定着しているから、支援者の期待に応えるため“次も当選しなければいけない”“選挙区の地盤を守らなければいけない”などと、自らの志以上に周囲を気にし始めてしまう。志の高かった議員すら選挙至上主義、議席至上主義に陥る要因のひとつになっていますし、そこから国民の政治不信へつながっていく。党の垣根を越えて考えていきたい問題です」
女性を苦しませるような皇室でいいのか?
多様性の時代と呼ばれて久しい。れいわから重度障害のある国会議員が2名誕生、自民党の小泉進次郎氏による「育休発言」が物議を醸すなど、永田町にも新たな風が吹き始めている。問題は、それに逆行するかのような政治の動きが目立つことだ。小学校で2018年から実施された道徳教科化は、国が愛国的な価値観を強制する危険性をはらむ。
「全体主義的な道徳教育は子どもの自由な発想を圧迫してしまう。そういった教育が浸透すれば、個性豊かな才能も生まれづらくなるでしょう。家庭環境は十人十色。上から価値観を押し付けて、十把ひとからげに子どもを扱うような考え方は言語道断です。
安倍政権の一義的な考え方は、待機児童問題でも同じ。待機児童をゼロにするとしていますが、保育士の配置人数などの要件をゆるめて、ただ施設数を増やせばいいという話ではありません。求められているのは、子どもにとって安全・安心な環境であること。それを担保する質と量を踏まえてこそ、本当の待機児童解消と言えます」
多様性が求められる令和。国や国民の象徴である天皇の皇位継承をめぐって「女性を苦しませるような皇室でいいのでしょうか?」と、山尾氏は問いかける。
「皇位継承の資格要件は現在、男系男子かつ嫡出子とされています。皇太子が不在であるため、皇嗣となられた秋篠宮殿下の次の世代の継承資格者は、悠仁親王殿下おひとりです。
現状の資格要件では、必然的に先細る制度であることは明白。皇室の女性たちは男系維持のプレッシャーにさらされてきました。そこへ入る女性にとっても、かかる負担はかなり大きい。明らかに時代にそぐわない制度や習慣は変えていくべきではないでしょうか」
(取材・構成/我妻弘崇)
《PROFILE》
やまお・しおり ◎衆議院議員。東京都生まれ。'99年、東大法学部卒業。検察官を経て'09年、衆院選に愛知7区から出馬し初当選。民進党では法務委員、政務調査会長などを務めた。'17年12月から立憲民主党に所属。