実に56年ぶりに、日本で世界最高峰のアスリートが集まる祭典が開催される。8月25日の開幕まで1年を切った。
見に行きたいけど、どんな競技があるの? とお悩みのあなたに注目競技をご紹介! 実はリーズナブルなチケットの申し込みは9月9日まで。世紀の瞬間に立ち会えるチャンスを逃さないで!!
人間の可能性が広がる
「オリンピックと違うのは、アスリートのすべてが何らかの障がいを有しているということです。人間の可能性ってこれだけあるんだなというところにオリンピックにはない魅力があるはずです」
そう話すのは'08年の『北京パラリンピック』で柔道日本代表だった初瀬勇輔さん。
障がい者雇用の事業を展開する『ユニバーサルスタイル』や、企業の健康経営や個人の健康をサポートする『スタイル・エッジMEDICAL』の代表だけでなく『日本パラリンピアンズ協会』理事なども務める。
世界最大の障がい者スポーツの祭典『パラリンピック』の自国開催は1964年以来、まさに56年ぶり。この機会を逃す手はないだろう。
全部で22の競技があるが、観戦チケットは、いちばん安い応援チケットで500円からいちばん高いものでも7000円と、気軽に観戦に行けるリーズナブルな価格帯(写真ページ参照)。
チケットの抽選申込期限は9月9日と迫っているが、どの競技を見ればいいのか。
初瀬さんに注目すべき競技を聞いた!!
まずは、今も現役選手として初瀬さんが活躍する柔道。
「視覚障害者柔道といって、視覚に障がいがある人で行います」
ルールは健常者が行う柔道とほとんど同じ。大きく違うのは開始時の状態だという。
「オリンピックでは、試合が始まったときはお互いの距離は離れていますが、視覚障害者柔道では最初から組んだ状態でスタートします。
つまり開始直後から技をかけることができる。最初から全力勝負なんですよ」
だからこそ、一瞬で勝負がつくことも。
「最初から組んでいるため、逃げて時間を稼いだりすることはいっさいできないんです。
残り5秒でも組んでからスタートできるので、いつ投げられてもおかしくない。瞬きも許されないようなスリリングな競技なんです」
過去の日本の金メダリストには、こんな人もいるとか。
「100キロ超級の正木健人選手は世界を震撼させる華々しいデビューを飾りました。
'11年の世界選手権では、ほぼ開始数秒で1本勝ち。決勝ではパラリンピック2連覇の選手すらも数秒で畳に沈め、優勝したのです」
手に汗握るとはこのこと。
「視覚障害者の水泳が好きなんです。選手はブラックゴーグルといってまったく見えなくなるゴーグルをつけて競技するのですが、ターンのタイミングをとることが難しい。
そこでタッパーというターンのタイミングを教える役割の人が登場します」
発泡スチロールなどの柔らかい素材を先端につけた棒で選手をタッチしてターンのタイミングを知らせる。
「これがものすごく重要で、0・1秒ずれると10センチから15センチぐらいずれてしまう。
遅ければ壁を蹴る力がうまく伝えられないかもしれないし、早ければ壁に届かないかもしれない。タッパーとの相性やタッチする技術で、タイムがものすごく変わってくる」
タッパーのうまい、下手をどう見分ければいいのか。
「ターンのタイミングで抜いたとか抜かれたとか、そこでスピードが損なわれていなければいいタッパーなんだと判断できると思います。
今タッピングうまくいったから勝ったなとか、この国のタッパーは下手だなとわかるとすごく楽しいと思います。まさに二人三脚ですね」
ほかにも上肢、下肢の欠損や知的障害者のクラスもあり、見どころ満載だ!
ひざを使わずに腕だけでシュートをする
「会場で感じるタイヤのゴムのにおいやキュッキュッという音など、車いすに乗っていても、まさにバスケだなという感じです」
息つく暇もないスピード感のある試合を繰り広げるバスケットボールだが、それは車いすバスケでも健在のようだ。
コートの広さやゴールの高さなど、ルールはほぼ一緒だというが、
「ほかに大きく違うのはコートにいる選手5人の障がいの程度に、だいぶ差があるということです。障がいの程度によって、持ち点が決められているのですが、コートの中にいるプレーヤーの合計点を14点以下にしなければいけないんです。
自力で立って歩くことができる選手もいれば、障がいが重くほとんど動けない選手もいる。それでも、持ち点の中でいちばんうまい選手が出場しているんですよ。
“あの選手は障がいが重いのにいい動きするな”とチームの戦略まで考えるとすごく楽しめる」
障がいの程度によって車いすの背もたれの高さも違うという。腹筋が使えない選手の場合は姿勢を維持できず後ろに倒れてしまうためだ。
「また、みなさんにもぜひ試してみてもらいたいのですが、ひざを使わずに腕だけでシュートをすること。これ、実はものすごいことなんです。そのシュートがバンバン決まっているのも車いすバスケの魅力のひとつですよね」
同じ車いすの競技では、車いすラグビーも面白いそう。
意図的にぶつかっていい競技!?
「何よりの魅力はその激しさですね。車いすの格闘技のようなところがあって、22競技のなかで唯一、意図的にぶつかっていい競技なんです。
バスケもぶつかりますが、ぶつかりたくてぶつかっているわけではありません。音もすごいし、振動もすごい。重たい障がいの選手もいるのに、よくあれだけぶつかりに行けるなと驚くぐらいです」
車いすバスケと同様に障がいの程度によって持ち点が割り振られており、コートに立つ4人の合計が8点以下でなければならない。
ただ1つだけ知っておいてほしいことがあるという。
「ラグビーだと思って見ると違和感があると思うんです。ガンガンぶつかるのは同じですが、ボールの形も違いますし、前にパスすることもできる。
純粋に『車いすラグビー』という競技だと思って見ていただくのがいいと思います。
'16年のリオでは日本は銅メダルを獲得しました。東京大会では金メダルを目指しているので、今年はラグビーのワールドカップもありますし、一緒に盛り上がっていければ」
パラスポーツのチェスだと初瀬さんがたとえるほど知的戦略が要求されるボッチャ。いったいどんな競技なのか?
「ボッチャは小学生からお年寄りまで、誰もができるスポーツです。まさにパラスポーツらしいというか、母競技がある柔道などとは違い、障がい者スポーツ特有の競技です。
ランプという器具を使えば首から上しか動かない重度の人でもプレーできます」
ジャックボールという白の的玉に向けて、自分の持ち玉を投げ合い、相手よりも的玉の近くに自分の玉がある数だけ得点が入るシステム。
「カーリングのように相手の玉を弾いたり、壁を作って邪魔をしたりするのは似ています。違う部分は的玉を動かすことができる点です。
最後の1投で的玉を弾き逆転することも。緻密な作戦や状況の判断能力が重要になってくる。頭脳戦が魅力のひとつです」
簡単に優勝できるのではと思うかもしれないが……。
「よくイベントなどでは、オリンピック選手とパラの選手で対戦することがあるのですが、だいたいパラの選手が勝つんです。実際にコートを見ていただくとわかるのですが、かなり広い。
だからボールコントロールもかなり難しいはずです。私たちが想像もつかないぐらいの努力をしていると思います。緊張感のある1投1投は見ものですね。さすがにもぐもぐタイムはないと思いますが(笑)」
まさに超人
「端的に言ってしまえばただのベンチプレスなのですが、ものすごいんですよ。下肢に障がいのある方がやるスポーツなので、健常者とは違い足で踏ん張ることができない。
胸から下の腹筋などが使えない選手の場合は胸や腕の筋肉だけで持ち上げている。想像がつくと思うのですが、これはものすごく過酷ですよ」
ベンチプレス台の上に足を伸ばした状態で寝そべり、ベルトで下半身を固定して競技を行う。まさに超人だ。
「世界トップであるイランのラーマン選手は107キロ超級の選手ですが、健常者が持ち上げた重さの記録を抜いているんです。
'16年のリオでは310キロを持ち上げている。いまだに人類の歴史でいちばん重いものを持った人がこの人です。カッコいいですよね」
ほぼ同じ条件で行う健常者の当時の世界記録を35キロも上回っていた。
「日本人は苦戦している競技ではあるんですが、東京大会でラーマン選手は間違いなく世界記録の更新にチャレンジするはず。新たな記録が誕生する瞬間を見に行くのも面白いと思います」
最後は日本が初めて金メダルを獲得した団体競技だ。
「視覚障がいの選手たちで行われている競技で、鈴の入ったボールの音を頼りにボールを投げ合ってゴールに入れる競技です」
その名もゴールボール。全員の視力を均一にするため、アイパッチとアイシェードで選手は視界を二重に塞がれる。“音”を頼りにプレーするだけあって、その戦略は多彩だ。
「こっそり移動して投げるとか、足音が鳴らないようにパスを回すとか、音を頼りに戦う競技ならではの技術があります。
見えない中でボールを止めて立ち上がり相手のゴールに向けてボールを投げる。瞬時に自分がどこにいるのかを判断して行動できるのがすごいところ。
背の高い欧米の選手に対して、守備のうまい日本がどう攻めていくのかも楽しみです」
ただ観戦するにあたって守ってほしいことがあるという。
社会が変わるキッカケに
「そこまで神経質になる必要はありませんが、騒ぎたい人には向いていない競技です。私たちの声で、選手はボールの位置がわからなくなってしまう。勝敗すらも変わってしまうかもしれません。
一方で静かにしなければいけないというと窮屈に感じますが、その静寂さの中にある緊張感が面白いと感じる瞬間もあります。点が入ったときの爆発的な歓声も魅力のひとつです」
熱い思いは胸の内に秘めておいたほうがよさそう。
花形である陸上競技や今回初めて採用されたテコンドーとバドミントン。健常者ですら完走が難しいトライアスロンなど、ここでは紹介しきれなかったが、ほかにも魅力的な競技がめじろ押しだ。
「ルールを知らなければ楽しめないスポーツってあると思うんです。この1年でパラリンピックをもっと身近に感じてもらえればと思っています。自国開催を機に障がい者と健常者の心の距離感が縮まり、社会が大きく変わるキッカケになると信じています」
声を出しましょう!選手と同じくらい熱く!
国際パラリンピック委員会 特別親善大使として、パラリンピックのスペシャルサポーターを務める香取慎吾に、あと1年、どのような形で国内を盛り上げていこうと思っているのか聞いてみた。
「まだ体験していない競技を体験したいと思いますし、実際に会場に足を運んで、各競技を応援している観客のみなさまに教えていただきながらの観戦もしてみたいです」
自らが先頭に立って競技の楽しさを伝えていくことが、パラスポーツの普及につながると考えているようだ。香取自身も親善大使を務めるようになって、以前とは違う自分の姿に気がつくようになったという。
「パラリンピックを通じて、自分の向き合い方に変化がありました。TOKYO2020パラリンピック大会を始まりとして、みんなの心がパラスポーツに後押しされ、社会にも変化が生まれることを願っています」
最後に、おすすめの観戦方法を聞くと、
「静かに見なければいけない、楽しいパラスポーツもありますが、声を出しましょう! 選手と同じくらい熱く!」
日本中が歓声に包まれる世紀の祭典が、もうすぐやってくる!
《チケットの購入方法》
事前に『TOKYO2020』へのID登録が必要。東京パラリンピック公式チケット販売サイトへアクセスし『チケット購入』をクリック。見たい競技と日程を選択し座種と枚数を指定。申し込み内容を確認後、電話認証をする。電話認証は初回購入時のみ。その後、登録内容及びチケット購入内容を確認後に『申込みを完了する』をクリックしてチケットの申し込みが完了。抽選発表は10月2日に行われる
※ 記事中の表『東京パラリンピック競技チケットの価格一覧』に掲載したチケットの価格はすべて税込み。各競技の決勝戦を中心に主な試合のチケット価格を示した。A~Cは座席の種類。応援チケットは12歳以下の子ども、60歳以上のシニア、障がいのある人を含む2名以上のグループで利用可能。車いすチケットは各会場の車いすエリアでの観戦となる。同伴者がいる場合も同価格で購入可能