逮捕の約半年前、主犯格とされる内装業社長・宍倉靖雄容疑者(48)は、
「あいつら、カギを返していないんだぜ。黙って出ていきやがってよ~」
と、被害者遺族の突然の引っ越しに口をとがらせたという。
5000万円の生命保険
千葉県富津市で1月27日明け方に、会社の同僚らと4人で釣りをしていた内装工・宍倉拓也さん(享年23)が岸壁から転落したとみられる溺死体で見つかった事故は、8月28日に急展開を迎えた。
同県警はいずれも一緒に釣りをしていた宍倉靖雄容疑者、彫り師・佐中佑輔容疑者(31)、内装工・金子栄司容疑者(50)を殺人の疑いで逮捕。靖雄容疑者の主導で3人が結託して突き落としたとみられている。
「3人とも容疑を認めているようだ。靖雄には多額の借金があり、従業員の金子は靖雄に金を借りていた。佐中の本職は入れ墨師だが、靖雄の会社でも働くなど借金返済に追われていた。全員の借金を清算するため靖雄は昨年、拓也さんと養子縁組して総額約5000万円の生命保険をかけていた」
と全国紙社会部記者。
靖雄容疑者を慕っていた拓也さんを千葉市内の会社事務所に住まわせ、昨年8月に養子にしたうえ勝手に保険金の受取人を拓也さんの母親から自分に変更していたという。
富津市の現場近くの漁業関係者は「許せないですよね」と厳しい表情を見せた。
「当日は海が大荒れだったので“なんでこんな日に釣りなんかしたんだろう”と話していたんですよ。誰も転落した場面を目撃していないというので、陸地のどこかで倒れている可能性なども考えて必死に探し回りました。海底から遺体が見つかるまでの約8時間、あの3人は後輩を心配するパフォーマンスを続けたんです」(同関係者)
なぜ、拓也さんはこんな男に引っかかってしまったのか。
小・中学校の同級生らによると、拓也さんは小学生のころから母子家庭で育った。妹が1人いる。
「おとなしくてクラスでは目立たないタイプ。口数が少なく、ぼそぼそとしゃべる感じだった。気が合うのか、休み時間はおとなしめの女子たちと話したり、一緒に帰ることもあった。わりと同じ服を着ていて家庭事情が複雑だったと聞いている」(同級生)
県立高校を卒業後、社会人になって実家を出て自立生活をするように。3~4年前から、実家アパートの大家でもある靖雄容疑者の世話になっていた。新しい生活拠点は、実家のすぐそばにある別のアパートの一室だった。
拓也さん一家と長年、親交のある近所の女性は、その背景についてこう話す。
「社長(靖雄)はつまらない冗談も言うし、生活の苦しいアパート住人の家賃を値引きしてあげるなど太っ腹なところもある。そうした父性に惹かれてか、男の家族がいない拓ちゃんが懐いていたのは確か。父親のいない寂しさにつけ込まれ、安易に養子縁組の提案を受け入れてしまったのかもしれません」
母親は事故死ではないと確信
この女性によると、そもそもの接点は、拓也さんの母親と靖雄容疑者が旧知の仲だったから。数年前、女性が拓也さんの母親から「キムチ鍋パーティーするからおいでよ」と誘われ自宅を訪問したところ、あとから靖雄容疑者が参加したことも。缶ビールを空け、シメのうどんまで楽しい食卓だった。
地主の家に生まれた靖雄容疑者は、父親名義となっている複数のアパートの管理・運営を任されており、知人に気安く部屋を貸すことが多々あったという。長く住んでいるアパート住人とは家族同様の付き合いをしていた。
「拓ちゃんの母親は、信用していた社長に息子を殺されてどんなに悔しかったか。おそらく当初から事故死ではないと確信していたのでしょう。2月に何も言わず引っ越してしまいました」(同女性)
翌3月のこと。この女性のところに靖雄容疑者がやってきて、携帯電話が変わったことを告げた。「前の携帯は警察に没収されちゃったから」と捜査対象になっていることをにおわせると、グチるように拓也さんの母親に対する悪口が始まった。
「だってよー。母親が妹ばかり可愛がって、拓也を“おまえなんかいらない”と邪険にするからオレが養子にしてやったんじゃないか。拓也が死んだときだって“拓也が死んだのはいいけど(母親が受取人だったはずの)保険金はどうなってんの?”と、こうだぜ。拓也は従業員だし、オレは可愛がっていたんだからよー」
母親を強欲呼ばわりする発言は、捜査の手が迫っていることを実感していたからこそ飛び出したのだろう。
しかし、前出の女性は、その内容を信じていない。
「拓ちゃんの母親がそんなことを言うはずがない。強気な性格なので子どもに厳しい言い方をすることもあったけれど、根はたたき上げの介護福祉士で堅実な女性です。子どもに優劣つけず、愛情を注いでいましたよ。親子3人でよく食事に行っていたし、拓ちゃんが自宅に女友達を連れてきたときは、その子も含めて4人で外食したほど。突然の引っ越しは、社長との訣別宣言だったんだろうと思っています」(同女性)
靖雄容疑者をまねるように、拓也さんの左腕には入れ墨があった。
憧れる相手を間違ったとしかいいようがない。