消費税10%の増税まで1か月を切るなか、政府は景気失速を防ぐために2兆円規模の費用を計上、「十二分な対策」(安倍首相)を講じたと強調する。
それでも増税すれば、家計への打撃は避けられない。どの程度の負担増になるのか、生活経済ジャーナリストのあんびるえつこさんが教えてくれた。
「総務省の家計調査に4人世帯(世帯主42歳)の平均的なデータがあるので、それをもとに計算してみました。それによると、増税後は月3000円、年4万円ぐらいの負担増になります。食料品に軽減税率が適用されるとはいえ、外食や水道光熱費、通信費、学習塾といった教育費などいろいろかかりますからね」
ややこしいうえに効果は謎
今回の増税に伴い、食料品に軽減税率が初めて適用される。だが、外食は適用されないというのがややこしい。
特に、ファストフードやコンビニの、「持ち帰りは軽減税率で8%、イートインは外食扱いで10%」という仕組みは、客も店側も混乱必至だ。
「コンビニのイートインコーナーやファストフードの席で座って食べると10%になるわけですが、どこで食べるかは、あくまで買う側の自己申告。“席がないから持ち帰りで”とテイクアウトにして8%の消費税を払ったあと、“あっ、そこが空いてる”と座って食べることなど、おおいにありうるわけです。
なかには、最初からそのつもりで“テイクアウトで”と申し出る人もいるでしょう。そういう場面にお店がどう対応するか、現場のスタッフは悩まされそうです。あと、不思議なことに、映画館で買ったポップコーンや飲み物の消費税は8%です。劇場のシートに座って食べるのに(笑)」
不可解な点はまだある。添付の表にまとめたとおり、8%に据え置かれる食品と、そうでないものの線引きがわかりにくい。
例えば、みりん風調味料は軽減税率となるが、本みりんは対象外。食べ物を購入して、公園のベンチで食べるなら8%だけど、店が設置したベンチで食べれば10%に。飲料用の氷と保冷用の氷でも、税率はそれぞれ異なる。
「私がおかしいと思うのが、水道水にかかる消費税は10%だということ。水道水って命にかかわるものですよね。その一方で、スーパーで売っているミネラルウォーターは8%。こちらのほうが庶民にとって高級品です」
軽減税率は弱者のためのものではない
生活を維持するものとして、軽減税率を適用するべきものはもっとたくさんあるとあんびるさん。
「食料品に適用されたことは当然のこととして、電気・ガス・水道が抜けているのはおかしい。北国の人にとっては灯油もライフラインに入るでしょう。今回、新聞が“知る権利”を保証するために軽減税率の対象となりましたが、庶民で新聞を定期購読している人は減りつつあります。
むしろ、ネットから情報を取る人がかなり増えていることを考えたら、通信料も対象にしたほうがいいのでは。ネットでも話題になりましたが、紙おむつや生理用ナプキンも生活必需品なのに10%です」
ちなみに財務省の資料によると、ヨーロッパの多くの国で、食料品のほか水道水、外食、雑誌や書籍、医薬品にも消費税の軽減措置がある。
「日本の軽減税率が弱者の立場で考えられたものではないということがよくわかります」
そのヨーロッパでは近年、軽減税率の効果を疑問視する声が広がっている。税理士の湖東京至さんによれば、ヨーロッパ連合(EU)の執行機関であるEU委員会では、軽減税率の廃止や見直しが提言されているという。
「事業者の事務処理が大変なうえ低所得者対策にならないとの批判があるほか、軽減税率のために国の税収が減っているからです。軽減税率をやめれば税収が上がり、むしろ標準税率を引き下げられるという考え。軽減税率の本家ヨーロッパが廃止や見直しへ動くなか、これから導入する日本は世界の流れに逆行していて時代錯誤です」(湖東さん)
このほかにも景気の落ち込みを防ぐため、キャッシュレス決済時のポイント還元が9か月限定で実施。また、プレミアム商品券、マイナンバーカードを使って貯める全国共通ポイントの発行、低年金者への最大で月5000円の給付金などが講じられている。
しかし、これらの対策で家計の負担が軽くなるかと言えば、はなはだ疑問だ。
「救済効果は微々たるものでしょう。食べ盛りの子どもがたくさんいる家庭ならともかく、高齢者世帯の食費は少ないので、家計を預かる主婦にとって軽減税率の効果はあまり感じられないのでは? ただ、外食の回数が減る、中食の回数が増えるといった変化はあるでしょうね。そういう意味で、いちばん影響を受けるのが外食産業、小売店などの流通産業でしょう」(あんびるさん)
一方、経済アナリスト・森永卓郎さんはこう指摘する。
「消費増税で生まれる負担は5兆7000億円です。それに対して、軽減税率の減税規模は1兆1000億円で増税額の19%ほど。総務省の家計調査によると、外食やお酒を除く食料費もおよそ2割です。つまり軽減税率をやったとしても、残りの8割は家計を襲うということ。しかも、プレミアム商品券とポイント還元に振り向けられる予算は4500億円しかありません」
それすら実際に利用される可能性は低い、と森永さん。使い勝手が悪いからだ。
「プレミアム商品券は子育て世帯と住民税の非課税世帯が対象。最大5000円分のおまけつきですが、役所への申請が必要など、とにかく手続きが面倒なんです。対象の半分も使われないのでは?
またポイント還元も、一般家庭の消費の主戦場である大手スーパーは対象外。実施割合も小さく、ポイント還元の登録申請をした中小の小売店は、8月末で全体の4分の1にすぎない」
ならば、消費税対策とされる2兆円はいったい何に使われるのか?
「大部分が公共事業費です。本来、公共事業に使われる予算を消費税対策として計上し、ラベルを貼り替えただけのシロモノです」(森永さん)
ポイント還元をお得に使うには?
経済の先行きが不透明ななか、節約するにも限界がある。庶民としては、少しでも増税のショックをやわらげたいものだ。
「キャッシュレス時のポイント還元は消費者的な視線で言うとお得ですから、しっかり利用するようにしましょう。都市部の人なら交通系ICカード、地方の人ならスマホのQRコード決済が使いやすいのでは?」(あんびるさん)
増税の痛みは暮らしに直結する。低所得者や高齢者など弱い立場に置かれた人ほど負担は重くのしかかる。そのため消費税だけに限らず「私たちが払った税金がどのように使われているのか、日ごろからしっかり意識することが大切」と、あんびるさんは言う。
「北欧諸国のように学費の負担をなくすなど、弱者や若い世代の負担軽減に使われるなら、みんな増税されても納得して払うのではないでしょうか。なのに、北朝鮮が話し合いの場に入ってきたのに防衛費を増やしてみたり、アメリカからトウモロコシを買ってみたり。
なぜそこに税金を使う必要があるのかという説明責任を果たしていません。増税の前にやるべきことをしないで負担だけ押しつけるのは、政治の怠慢です。私たち庶民の側も、税の使い道を見極めながら、自分の思いを選挙の際の投票行動に反映させる。それが今後の自分たちの生活を守ることにつながります」
政府による主な景気対策
・税率8%に据え置く軽減税率の導入
・自動車税を年1000~4500円減税
・住宅ローン減税の期間を3年延長
・低年金者に最大5000円の給付金を支給
・キャッシュレス決済でポイント還元
・低所得者と子育て世帯にプレミアム商品券の配布
・マイナンバーカードに貯めて使う全国共通ポイントの発行