可憐な女形から、冷徹な悪役まで。独特の存在感で作品に花を添え続けるバイプレーヤー・篠井英介さん。1年ちょっと前から、フリマアプリ『メルカリ』にハマっているという。
捨てられない、でも、いらない”がポイント
「僕は配偶者もおりませんし、ひとり者。故郷の金沢には弟が2人いて、何かあったときには彼らに面倒を見てもらうことになっちゃうので、なるべく身ぎれいに。いつどんなことがあっても、残った人に迷惑をかけたくないと思い、2年ほど前からものを減らし始めましたね」
とにかく捨てようと、まずは大量の本を古本屋に引き取ってもらった。では、その次は? 捨てるにはつらく忍びないが、とはいえ必要ではないものたちに悩まされた。
「“捨てられない、でも、いらない”がポイントでした。そんなとき、知人から“『メルカリ』、わりと便利だよ”と教えてもらい、試しにアプリをダウンロードしてみたんです」
のぞくと、実にさまざまなものが売られていた。
「意外なものもたくさんあって。ブランド物のリボンや紙袋、使いかけの化粧品とか。トイレットペーパーの芯だろうがどんぐりだろうが、売れるときは売れるんですって(笑)。だから、“あんまり恥ずかしくないんだな”とわかり、試しにやってみることに」
ネットでのショッピング経験はあるが、自分のものを売るのは初めて。
「僕は『星の王子さま』が大好きで。今日もTシャツ着てますけど(笑)。陶器のお人形を20個くらい集めてたんですね。飾っていたこともあったんですが、ホコリもかぶるので、箱にしまっていたんです」
しかし、これがなかなか場所を取る。
「これは捨てられない。お金のない若いときからコツコツとためて、愛おしんだものでしたから。でも“もう、いらないな”と思って。お気に入りを2つばかり残して、思い切って全部いっぺんに4万円で出してみたんです」
スマホで商品を撮影し、紹介文を書き、出品。なんと、たった30分で売れた。
「“やったー!”と思いましたね。こんなに早く売れるなんて驚きました。ちょっとしたお小遣いにもなったし、楽しい。味をしめました(笑)」
売れた商品は、梱包して発送する。
「大きな段ボールを買ってきて、その中に全部入れました。隙間にはプチプチの緩衝材を入れて。梱包が面倒という人もいるでしょうけど、僕は梱包作業も楽しんでいますね。紙袋や緩衝材もきっちりとっておくほうなので」
売買成立後に発行されるバーコードをコンビニや郵便局などで読み取れば、新たに送付用のバーコードが発行される。それを品物に貼りつけ、窓口で渡すだけで発送完了だ。
「買ってくれた人の性別すらわからないんです。逆に、僕の名前や住所も相手にはわからない。一応、芸能人ですから、これは本当に助かります」
その後、食器やぬいぐるみなど約15点を出品。意外なことに、篠井さんは出品の際、相場価格のリサーチを一切しない。
「“自分がこれを買うとしたら、いくらくらいかな?”と、自分の感覚で値段をつけています。いま思うと『星の王子様』の陶器セットは5万円でも売れたと思うけど、そこで欲張らないことが大事。
僕のメルカリモットーは、頑張らないこと。“売らなきゃ”と必死になると負担になるでしょ? お仕事もあるので深入りしすぎず、のんびり、ゆったりと。“稼ぐ”のではなく、“いらないものがお金になった♪”と考えるほうが楽です」
匿名取引だからこそ、篠井さんは、手書きの一筆箋の同梱を欠かさない。
「ただ送りつけるのは嫌だし、せっかくの交流。何より、そのほうが僕にとっては楽しい。“こんなきれいな梱包は初めて”とメッセージをもらったときは褒められた気がして、すごくいい気持ちでしたね。ものは減る、買った方は喜んでくれる、お小遣いは増える。三拍子そろっているところが、精神衛生上すごくいいんですよね」
そう微笑む篠井さんだが、還暦をすぎてから、体力や気力の衰えをひしひしと感じているという。
「そういう年代になってきているので、本当に死ぬことを考えますね。変な言い方にはなりますが、この先の夢は、ほどよくがんになること。なぜなら、がんだけは“余命”がわかるから。死ぬこと自体は、あんまり怖いと思わなくなったかもしれません。僕は奥さんも子どももいないので、託す思いも心配もない。身ひとつですから。でも、急にぽっくりいったら、弟たちに迷惑がかかるので、やっぱりがんがいいですよね」
余命がわかれば、その間にやりたいことも後始末もできる。
「だから、がんになったことをちゃんと把握しておきたいので、人間ドックは年1回受けています」
《PROFILE》
ささいえいすけ。俳優。1984年、劇団『花組芝居』を旗揚げ、女形として活躍。'92年、ゴールデンアロー賞演劇新人賞を受賞。特技は日本舞踊。宗家藤間流師範・藤間勘智英の名を持つ。2014年より石川県観光大使。