行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。露木さんが見てきた、夏の終わりに激増する男女トラブルとは? その対処法を考えていきます。(前編)
性交渉にまつわるトラブルは夏の定番
「私たち、婚活アプリで知り合いました!」
これは先日、あるテレビ番組を見ていたところ、恋愛経験が少なそうな初々しい30代同士のカップルが「どこで知り合ったの?」と質問されたときのひとコマ。
筆者は彼、彼女が「婚活」「アプリ」というフレーズを恥ずかしげもなく使ったことに驚きました。婚活しないと異性と知り合えず、スマートフォンのアプリで相手探しをする。そしてネットで出会った相手と結婚するなんて。少し前までは「婚活」「アプリ」という言葉は避けられ、出会いのきっかけが婚活アプリだとしても周囲には「友達の紹介で……」とごまかす人も多かったのではないでしょうか。
しかし、「婚活」が流行語大賞を受賞してから9年。ようやく婚活は市民権を得たようですが、それもそのはず。「婚活実態調査2019(リクルートブライダル総研調べ)」によると、婚姻者のうち32.3%が婚活サービスを利用したと答えており、もはや婚活で結婚するのは珍しくないのだから。
とはいえ、婚活サービスでは必ずしも結婚を望む男女がマッチングされるとは限りません。実際、私のところへ相談しに来る方は「トラブル」に巻き込まれた女性ばかりです。
性交渉にまつわるトラブルの相談は毎年、夏の定番です。最高気温に比例するかのようにドキドキ感、ワクワク感、そしてムラムラ感が増すのは当然といえば当然。冬にはほとんどなかった性交渉のトラブル相談が、7月あたりから一気に増えてくるのが特徴です。
婚活アプリのプロフィール欄に「真剣交際を希望」「早く結婚したい」「子どもが欲しい」と書く女子は、羊の皮をかぶったオオカミの男性にとって“いいカモ”です。なぜなら、「彼の要求に応えれば関係をキープできるし、それが結婚の近道」という純粋な気持ちにつけ込まれるからです。飲めないお酒を飲み、出会って早々に身体を求められても断れない女性は“ヤリ男”の餌食になるのですが、今回の相談者・小玉桃子さん(仮名=38歳)もそんな1人です。
精神的に弱っていたときに運悪く現れた男
「これって完全にヤリ逃げですよね! 身体をもてあそばれ、ありえない嘘をつかれ、フェードアウトされました。とても辛くて食べ物も喉を通らない。会社には出社していますが、身が入らず、精神的に不安定です。会社から部門を変えられ、収入も減りました。でも、生活があるので辞めたいけれど辞められません。ひどすぎます!」
桃子さんは怒りを露わにしますが、桃子さんいわく彼とは真面目な交際で、彼に結婚する気があると思っていたので身体を許したそう。桃子さんの誕生日が近づくと「お祝いさせてほしい」と約束してくれたので、彼は自分のことをちゃんと考えてくれていると思い込んでいたのです。
しかし、彼の態度はその連絡があった日を境に急変。誕生日の当日まで彼からの連絡はなく、ようやく返事があったのは誕生日の3日後。
「急に手術をすることになった。落ち着くまで会えない」
いかにも嘘臭い言い訳に対して桃子さんは「どういうつもりなの?」「どこの病院なの?」「どのくらい待てばいいの?」と矢継ぎ早にLINEを送ったのですが、「俺が嫌がることをしたから会いたくない」というメッセージを最後に、待てど暮らせど“既読”にならず。彼が桃子さんをブロックしたのは明らかでした。
「このときに騙されたことを知りました。このまま別れるなら慰謝料を請求するからって伝えましたが、何も反応がないんです!」
桃子さんは結婚したら彼の地元に住もうと、今の会社を退職するつもりでしたが、この膨らんだ妄想は淡くも消えました。桃子さんは昨年、父親を亡くしたばかりで精神的に弱っており、誰かにすがりたい一心で“出会い”を求めてきたところ、運悪く現れたのが今回の彼でした。
「どうせ最初から身体目当てだったんですよ。彼が本気だと信じていたから身体を許したのに。これってレイプですよね!?」
桃子さんの恨み節は止まりません。
なぜ、2回しか会っていない男を信じたのか?
ところで、件(くだん)の彼とどのように知り合ったのでしょうか? 桃子さんの場合はマッチングアプリ。これはスマートフォンのアプリ上で相性のいい異性を探すツールです。
具体的には居住地や出身地、年収や業種、趣味や好みのタイプなどを登録し、異性からのアプローチを待ったり、自分からアプローチしたりして接点を持ちます。最初はアプリの中でやり取りをしますが、途中からLINEのIDやメールアドレス、携帯番号などを教え合い、アプリの外へ移行します。そして最終的にはスマホの世界を抜け、現実の世界で直接会い、そして交際に発展するという流れです。
「2回目に会った際、告白されました。私が“真面目なお付き合いしかできない”と言うと、彼は“結婚を考えている”と。信用できる人だと思えたので交際を始めました」
桃子さんはなぜ、たった2回しか会ったことのない人を信じてしまったのでしょうか? あくまでアプリの中のプロフィールなので真偽は不明ですが、彼は東大出身という34歳の金融マンで年収1200万円。タワーマンションに住んでおり、愛車はベンツのAクラス。プロフィールの写真は少しサイコパスな雰囲気ですが、容姿は比較的イケメンという印象だったそうです。
「私は過去のトラウマがあり、男性を信じることが難しいので、“本当に信じていいの?”と聞きました。」
彼は二つ返事で「信じてほしい。昔の彼のことは忘れさせる。一緒に住みたいね」と言い、毎日のように「好きだよ」「愛してる」「桃ちゃんだけだよ」とLINEを送ってきたようです。さらに彼から、10年間付き合っていた彼女に浮気をされ、最近、別れたばかりだと聞かされたので、桃子さんは彼に同情し、心を許してしまったのです。
3回目のデートで「今日はヤル気で来ているから」
桃子さんは3回目のデートで居酒屋へ行ったのですが、彼が桃子さんのお酒を次から次へと注文し、桃子さんは嫌われなくない思いから彼のペースに合わせて飲むしかなかったよう。
すっかり酔いが回ったタイミングで、彼のほうからこう切り出してきたのです。「今日は(セックスを)ヤル気で来ているから」と。桃子さんは彼と付き合っているという認識でいたものの、まだ3回しか会っていなかったので「まだ早いよ」とはぐらかしたそう。しかし、彼が「じゃ、このまま帰る気?」と何度も誘ってきたので、桃子さんはこれ以上、断り続けると振られてしまうのではという不安な気持ちが入り交じり、結局、彼の家へ向かったのです。
「自分でも記憶が曖昧ですが、避妊具を付けずに行為をしようとしたので、“それだけはやめて!”と言ったことは断片的に覚えています」
桃子さんはそう振り返りますが、帰り際に「もう会わないとか言わないでね。LINEの返事もちゃんとしてね」と言い、彼も「ちゃんと会うし、LINEも大丈夫だから」と返してくれたので、桃子さんは安心して家路に着いたのです。
しかし、最終的な結果は冒頭の通り。しかも、すでに彼はマッチングアプリを退会している状態でした。
桃子さんが何をどう思うのかは本人の自由です。彼の目線が「自分の家に行くことに同意した=性交渉に同意した」だとしても、桃子さんの目線が「彼の家に行くことに同意したけれど、性交渉に同意していない」なら、必ずしも同意があったとは言えません。そして桃子さんがお酒を飲みすぎて、きちんとした意思疎通が難しい状況だったとはいえ、家の中で彼が「いい?」と投げかけたり、桃子さんが「うん」と返したりという確認作業はなかった模様。さらに桃子さんが抵抗しないから彼は大丈夫だと思い、性交渉を続けたのでしょうが、桃子さんが怖くて身動きが取れなかったのなら、「抵抗しない=同意があった」と結びつけるのは無理があります。
しかし、桃子さんは酔いが回っていたにせよ自分の足で歩いていたので「彼の家について行き、部屋で二人きりだったけれど、そういうつもり(性交渉をするつもり)はなかった」という言い分を通すのは厳しいでしょう。
「職場や周りにも迷惑をかけたくないので、まだ警察には届け出をしていません。彼とのことはトラウマなので、これ以上、顔も見たくないし」と桃子さんは苦しい胸のうちを吐露します。上述の理由から、「無理やり彼の家に連れ込まれた」「力任せに押し倒された」というストーリーを仕立てて警察に相談しに行くのは難しそうです。
曖昧な記憶を頼りに、彼の家を特定することができた桃子さんは彼に一通の手紙を送りました。その内容と、彼からの衝撃の返信とは──。
※後編は9月22日21:30に公開します。
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/