行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。露木さんが見てきた、夏の終わりに激増する男女トラブルとは? その対処法を考えていきます。(後編)

※写真はイメージ

 婚活アプリのプロフィール欄に「真剣交際を希望」「早く結婚したい」「子どもが欲しい」と書く女子は、羊の皮をかぶったオオカミの男性にとって“いいカモ”です。

 今回の相談者・小玉桃子さん(仮名=38歳)は、婚活アプリで出会った東大出身の34歳、金融マンで年収1200万円という男性と交際をスタート。出会って3回目の居酒屋デートで雰囲気に飲まれて大量に酒をあおり、彼の自宅で身体の関係を持ってしまいます。しかしその直後に彼と音信不通になってしまい──。

<前編はこちら>

桃子さんがヤリ逃げ男に送った手紙

 今回の場合、性交渉の場所が彼の自宅だったのは不幸中の幸いでした。彼の住所がわかればアプリを退会され、LINEをブロックされ、メッセージを送れず、電話もかけられない状況でも手紙を送ることが可能になります。もちろん、桃子さんにとって当日の様子を思い出すのは苦痛以外の何物でもありませんが、他に方法はないので仕方がありません。曖昧な記憶を頼りに居酒屋からの道順を辿り、マンション名と部屋番号を特定することができたのです。

 桃子さんはこのような手紙を彼の住所へ送りました。

《結婚したいって嘘だったの? あなたのせいで私の人生めちゃくちゃなんだけど。弱っている私なら簡単にヤレるって思っていたの? ひどすぎるよ!

 あの日から私がどんな気持ちで待っているか分かる? いろいろ考えちゃってお布団に入っても眠れないし、ご飯の味も分からないし、会社に行くとき、電車に飛び込みそうになるの。全部あなたのせいなんだから、慰謝料(30万円)を払ってください。

 〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 *******
 小玉桃子(コダマモモコ)

 でも、払いたくないなら、ちゃんと返事してください。今までのことは許してあげるから。

 桃子さんは必ずしも慰謝料が欲しかったわけではなく、お金よりも彼という存在のほうが大事でした。「慰謝料を払って関係を解消する」「慰謝料を払わずに関係を続ける」の二択を提示したのですが、本当は彼が慰謝料を払いたくない一心で、桃子さんとの復縁を選ぶことを期待していました。

 しかし、筆者が懸念したのは偽装復縁です。桃子さんが彼のことをあきらめ切れないのは彼が突然、音信不通になったからです。彼が桃子さんの目の前で、目を見て自分の口で「別れましょう」と言えば、桃子さんも彼への思いを捨て、別れを受け入れたはず。つまり、彼が桃子さんとやり直すつもりがないのに「やり直そう」と言い、桃子さんをぬか喜びさせ、早々に別れを切り出すことで慰謝料の支払いを免れようと企むことが予想されたのです。

衝撃的な言葉が並んだ彼からの返事

 ところが──。1週間も経たないうちに彼からの返事の手紙が届きましたが、そこに書かれていたのは桃子さんへの罵詈雑言(ばりぞうごん)のオンパレートでした。

 例えば、《ワンナイトとかセックスフレンドって言葉があるでしょ?》と一夜限りの関係だと切り捨てたり、《俺にはそういう子が他にもいるよ。桃ちゃんよりもっと会っているし、もっと長く一緒にいるよ》と桃子さんが本命ではなく浮気相手だと暴露したり。

 さらには《付き合う前提ってだけで必ず付き合うとは限らないでしょ? 付き合ってるかどうか確認してないよね。仲直りも何も、はじめから付き合っていないから》と恋人同士であることを否定し、《フィーリングが合わないよね。エッチしたけれど付き合いたくないって思った》とセックスの相性が悪いのは桃子さんのせいだと責任転嫁までしたのです。

 言いたい放題の内容を目の当りにして桃子さんは思わず、手紙をビリビリに破ってガスコンロで燃やそうとしたのですが、途中で思い直し、スマホで撮影。それを筆者に見せてくれました。筆者が驚いたのは手紙の消印と同日、桃子さんの口座に彼の名前で30万円が振り込まれていたことです。

「私はお金なんていらなかったんです。ただ、彼とよりを戻せれば、それで良かったのに……。次にいつ、結婚を考えられる相手と出会えるんでしょうか?」

復縁を望む場合、請求するべきだった内容とは

 桃子さんは思わぬ展開に動揺を隠せない様子でしたが、桃子さんが慰謝料より復縁を望むのなら、請求内容に強弱をつけるべきでした。

 例えば、慰謝料は男性が支払えないような金額を設定し、「慰謝料を払えないから復縁するしかない」と思わせ、彼が慰謝料より復縁を選ぶように促すという具合です。しかし彼のプロフィールの年収を信用するなら、今回の請求額30万円は十分に支払える金額でした。

 慰謝料と復縁は一挙両得ではなく二者択一です。「慰謝料も欲しい。復縁もしたい」は通用しません。桃子さんが本当に復縁したいのなら慰謝料を返さなければなりませんが、「慰謝料を払えば縁を切れる」と思って振り込んできた彼に対して、今さら「本当は慰謝料なんていらないからよりを戻してほしい」と懇願しても相手にされないでしょう。

 LINEをブロックしても電話を着信拒否しても手紙を送り付けてくるなんて……彼は桃子さんのことを「しつこく付きまとうストーカー」だと思っていたのでしょう。慰謝料の振込は決して喜ばしいことではありません。なぜなら、彼にとって桃子さんの存在は「お金を払ってでも縁を切りたい相手」だということを意味するのだから。

 結局のところ、彼からの手紙によって桃子さんは「好きなときにヤラせてくれる都合のいい女」でしかないことが明らかになり、手紙によるアプローチで桃子さんは傷口を塩でえぐられ、ひと夏の苦い思い出は悪夢と化したのです。

ネットでの出会いは「傷つきたくない」が最優先

 “次”がないアラフォー女子にとって彼氏を失うのは死活問題です。好き嫌いで交際を始めたり、終わらせたりするのはどんな恋愛でも同じです。結婚前提の「婚活」でも例外ではないので、彼が“嫌い”という感情を持つことを責めることはできません。

 問題は別れ方です。彼がきちんと別れを切り出さず、逃げ回り、音信不通になったら、彼女は彼の気持ちを聞き出したいと、あらゆる手段を使おうとするのも無理はありません。特にマッチングアプリの場合はスマホの画面が出会いのきっかけなので、リアルの出会いと比べて相手に対する思いやりに欠ける印象です。

 例えば、直接会ったら何を言われるか分からないので怖い。修羅場になったら嫌だ。それなら無視し続ければいいという感じで相手の気持ちを考えず、わが身を守ることしか頭になく、とにかく「傷つきたくない」が最優先。彼はフェードアウトがお互いにとって最良の策だと思い込んでおり、相手を傷つけているという自覚は皆無なのだから、高い代償を払わされるのは当然といえば当然です。

 婚活や恋愛において、特に男性はネット上の出会いでも、白黒をつけてあげるのは相手の女性のためだということは肝に銘じたほうがいいでしょう。

 一方、女性が注意すべき点は何でしょうか。

 婚前交渉とは結婚する前の男女が性交渉に及ぶことです。自由恋愛が認められて久しい令和の時代ですが、お見合い結婚が主流だった昭和の時代は婚前交渉などもってのほかとされていました。そのため、性交渉をしたいのなら結婚するしかなく、“結婚するつもりがない身体目的のヤリモク男”を弾くことができたのです。このように考えると“、結婚するまでは軽々しく肉体関係を結ばないほうがいい”という先人たちの知恵にも一理あります。

 実際のところ、「身体で彼を満足させていれば交際を継続できるし、結婚してくれる」と本気で思っている女性がこの考えを捨て去るのは簡単ではありません。そのため、1回目のマッチングアプリで知り合った彼に“ヤリ逃げ”されたのに、また懲りずにアプリで別の男性と知り合い、早々に身体を許し、そしてフェードアウトされる女性も実在します。

 このように考えると、多少、時代錯誤かもしれませんが、遊び目的の男性から遠ざかるには最初の段階で「結婚するまでお預けだから」と言い切ってしまったほうがいいでしょう。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/