ラジオやテレビでの歯に衣着せぬ発言に、多くの人が溜飲を下げたり、賛同したり、逆に流行りの“炎上”の的になることもある大竹さん。
担当編集者は大竹さんのその「正論」に注目し、「正論を言いにくい時代にあって、恐れずに自らの意見を発言できる」勇気に共感したという。そんな大竹さんの今の思いを1冊にしたいと、口説くこと5年。
おいしいどら焼きで説得を
「口説かれて4年目まではノーだった。俺のどこをいいと思ってくださったのかはわからないけれど、盆暮れに欠かさずおいしいどら焼きを持ってこられたら、人は説得されますねぇ。
(最初はやる気がなくても)5年目にやってみようと口説き落とされることがあることを知りました」
昨今は著者の発言をライターがまとめる書も多い中、本書は正真正銘、大竹さん自身が綴ったもの。パソコンは使えないので、1000円ほどの万年筆で記した。1冊まとめて執筆するのは難儀ゆえ、月刊誌での連載をまとめる形を取ったというが、
「連載の途中から、締め切りに1週間ほど遅れても大丈夫とわかって、毎回ギリギリまで書けなかったのか、書かなかったのか……。締め切りがないと書けませんよねぇ」
1年にわたる連載を加筆・修正して仕上がった本書は、5章に分けられた15のテーマ(論)がまとめられている。
「ひとつのテーマにつき、原稿は4000文字。書いていて、核心に近づくことができる話もあれば、最初の意図とは別のところにたどり着くこともあって。ほとんどの話が、あっちいったり、こっちいったりしています」
1テーマ、4000文字の原稿は、本のページに換算すると9~11ページ。大竹さんが言う「あっちいったり、こっちいったり」の話は、予定調和に流れないからこそ、面白く、大竹さんの話をその場で聞いているような気分を味わえる。
思えば、人は面と向かって話をするとき、その大筋をとらえながら、枝をあちこちに広げていくものだ。
本書は、目次にある見出しを見て、今日はこのテーマ、明日はこのテーマという読み方もできる。実際、私自身も最初から最後まで読み終えた後は、その日の気分で、1テーマずつ読んでいる。
すまん、若者よ
さて、この5月、古希を迎えた大竹さんだが、
「70(歳)になって気づいたことはひとつもない。ただ老いていくだけだね、腰が痛くて、起きるのも、靴はくのも大変。年をとったらこんなに大変だって、誰も教えてくれなかったし」と毒づく。本書の最後に、
「すまん、若者よ。君たちに伝える言葉をこの年寄りは持っていなかった」と読者に詫びを入れているが、思わず付箋を貼りたくなるような読者へのエールも並ぶ。
《負けを知らずにどうする。長いスランプも後には得がたい経験となる》(『炎上』)
《年寄りが泣くのはなにも涙もろくなったからではない。若い時には想像することのできなかった、新しい感情を手に入れたからだ》(『国家に翻弄された民たちの物語』)
《近道を選ぶな。近道はただ単に近いだけだ》《頑固になるな。頑固はそこで考えをやめてしまった私のような人のことだ》《最低一回は振られろ》《変態になれ。奇人になれ。群れから抜け出せ》(すべて『春にそなえよ』)
《逆境を克服した者だけが何かを手に入れる》(『花水木』)
……こうして並べてみると、少々説教くさく感じてしまうかもしれないが、どれも話の流れの中のワンセンテンス。たぶん、大竹さんは説教が苦手だ。それは本書を読めば、誰もが感じるだろう。
褒められるとうれしいから忘れない
「本ですから、一応いろいろ言うけどね。言うけど、そのことを聞いちゃいけない、真に受けてくれるな、みたいなトコもある。俺はもちろん、年寄りはろくなことを言ってないんですよ」
東京生まれの東京育ちの人は、こんなふうに照れるのだ。そんな大竹さんに「15の話の中で、好きなものは?」と聞くと、
「う~ん、どれだろう」としばし迷った後に、
「井上陽水さんの歌から始まる『傘がない』はジャーナリズムの話を書きました。いつも何も言ってくれない編集さんがちょっと褒めてくれて、褒められるとうれしいから忘れないね」
と言い、
「その次に書いた『国家に翻弄された民たちの物語』の中の映画の話、『オン・ザ・ミルキー・ロード』もよく覚えています。政治が不安定だったり、戦争だったりしても、人が心を揺さぶられるのは文化の中にあることなんだと、この映画を見て思ってね。俺のような文化から遠い男が言うのもなんだけど」
と続けた。
タイトルの『俺たちはどう生きるか』の答えは、明確には記されていない。けれど、大竹さんの言葉は、その余韻で何かを感じさせてくれる。それだけで十分だ。ひとつだけはっきりとしたことは、「いい大人になっても迷いは尽きない」らしいということ。それはそれで、大竹さんからのゆるっとしたエールにも感じる。
ライターは見た!著者の素顔
大竹さんの直筆原稿も収録されている本書。
「字も汚いし、漢字も書けないし。若いころに1度フライデーをされたときの言い訳が“女の子に漢字を教わっていた”(笑)。ホテルで何の漢字教わってたんだ! って言われたけどね」。
12年続くラジオ番組収録後のインタビューだったが、当日のゲストは作家の山崎ナオコーラさん。
「書くってどんなこと?」という質問に「パンツを下ろすことです」と答えた山崎さんの言葉を聞いて、直筆原稿掲載についても納得。読者はもちろん、子どもや夫、身近な人とともに読みたい1冊。
(取材・文/池野佐知子)
●おおたけ・まこと 1949年、東京都生まれ。1979年、斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』を結成。不条理コントで東京のお笑いニューウエーブを牽引している。2010年、映画『シティボーイズのFilm noir』では脚本・監督を担当。現在、文化放送『大竹まこと ゴールデンラジオ!』、テレビ朝日『ビートたけしのTVタックル』ほかに出演。