「なるべくならば、このようなサービスを使ってほしくない。だって、このようなサービスを使うということは、少なくとも心が傷つくようなことがあるからじゃないですか。でも、何かつらいこととか悲しいことがあってどうしようもないときとか、孤独で押しつぶされそうなときは、癒されに来てほしい。とても複雑な気持ちなんです」
ある“彼氏”のこの言葉がとても印象的でした。
レンタル彼氏、女性専用性感マッサージ、出張ホスト……こうした女性をターゲットにした性的サービスに従事する男性たちは、“彼氏”と呼ばれています。
私が約1年半前に「レンタル彼氏」とネット検索したときは、3件ほどしか出てこなかった記憶がありますが、今や何ページかにわたるコンテンツに膨れあがっています。2019年は、まさにその過渡期にあるといえるでしょう。
人知れず、こっそり利用する女性がそれだけ増えたということです。
サイトを開いて“彼氏”たちの顔を見れば、ウソか本当か、誰もがジャニーズ系や俳優、タレント顔負けの美男子ばかりで、20代のキラキライケメンから40歳くらいまでのしっくりイケメンまで勢ぞろいしています。
そういったサービスを利用するのは一体どんな女性たちなのか。そのサービス内容や金額的なこと、リスク面はどうなっているのだろうか──。
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女性の本音とは
私は普段、10代から70代までの幅広い年代の女性たちからご相談をお受けする生活カウンセラーをしています。
この仕事を始めた17年前は、うつ症状やパニック障害などメンタル的なカウンセリングが多かったのですが、近年はそれだけにはとどまらず、ダイエットや美容などカラダのことから、ご病気をされて社会復帰するまでの生活プランニング、親からの暴力や性暴力などでのトラウマケア、不妊治療中の夫婦関係の修復の相談など多岐に及びます。
言ってみれば、「誰に相談してよいかわからないことの相談」を受けるのです。
そんな多種多様なご相談の中でも、ここ数年とりわけ増加傾向に感じるのが、「女性の“性”」に関しての内容です。
「性交痛があってセックスが楽しくない」
「オーガズムを経験したことがないのは自分のカラダがおかしいのか」
「30歳なのにまだ経験したことがない」
などといった相談が多く寄せられるようになりました。
もちろん、こういったお悩みは今も昔もあったのでしょうけれど、近年では、女性たちが口に出して発言できるようになってきたのです。
この現象はある種、“女が男に遠慮して生きる時代が終わったサイン”なのではないかと感じています。
正しい調査データは見つかりませんが、少なくとも私が普段、関わる30代後半から50代の日本人女性の7割はセックスレスという状況です。
特に結婚をして長い関係の夫婦や、子育て中の夫婦のほとんどがそうです。かく言う私も他人事ではありません(苦笑)。
もちろんそうではなく、いつまでもお盛んなご夫婦も知人におりますが、やはりそういったカップルは珍しく、内輪から「神」と呼ばれているほどです。
私の場合は結婚して14年たちますが、結婚して間もなく、すぐにセックスレスになってしまったので、“結婚がゴール”だったのかもしれません。
若いころは悩んだりもして、お互いに話し合ったりもしましたが、かといってセックスレス以外のほかに関しては何も問題はありませんでした。そのため、差し迫って環境を変えるほうが面倒に感じてしまい、離婚までは踏み込めなかったのです。
夫は私に不満があるかもしれませんが、私自身は、優しくおとなしい夫に不満はありません。掃除もしてくれるし、「きれい好きな親友」と同棲していると思えばなんら悩むこともなくなります。
2つの“欲求”
ただ、やはりセックスにおいては話が別なのも本音です。こればかりは自分ひとりでどうにかなる問題ではありませんから。
「夫とは無理だけど、相手が代われば性欲がないわけではない」
私と同じような状況下の女性がよく口にする言葉です。
しかし、例えば、手身近な知人の男性と性行為をすれば、法律的に“不貞行為”となります。さらには、「悪いことをしている」という罪悪感を抱えるようになり、結果ストレスにもなります。
欲求がある限り、人間はそれを解消できないとストレスがたまるものです。
人間の三大欲求は一般的に、「食欲」「睡眠欲」「性欲」と言われます。性欲は“生命の根源”と言っていいほど大切な欲求のひとつです。性欲とひと言でいっても、それには大きく二種類あります。
まずひとつは、「肉体的快楽欲求」です。「セックスをしたい。肉体を開放したい」と願うタイプで、体温やぬくもりを“肌の触感”でキャッチし、愛情を満たすタイプです。
もうひとつは、「精神的快楽欲求」です。「セックスはしなくてもいいから添い寝をしてほしい。ドキドキするような壁ドンとか、優しいセリフを言いながら頭をなでてくれたり、トキメかせてほしい」というメンタリティーを満たしたいタイプです。
こうした世の中の迷える女性たちへ“ひと肌脱いで”献身的に尽くしてくれるのが、冒頭でも紹介した女性向け性的サービスなのです。それでは、各コンテンツをざっくりみてみましょう。
“彼氏”というサービス
◎レンタル彼氏……本物の彼氏になりきって、食事やテーマパーク、ショッピングなどへデート。
◎女性専用性感マッサージ……ホテルや自宅などへ出張、アロマオイルなどを使用したボディートリートメント並びに、ハンド、大人のおもちゃを使用した性感マッサージ。
◎出張ホスト……「レンタル彼氏」と「女性専用性感マッサージ」の中間的サービス。食事やショッピングなどのデートの他、自宅やホテルなどへの出張デート、性感マッサージも可。
各コンテンツは、いずれも無店舗の出張型で、利用できる性別、費用の相場や“彼氏”のプロフィールにいたるまで、各ホームページで丁寧に説明されています。ウェブ上でほぼ予約を完結できてしまう“彼氏”は、まさにインターネットの普及によって生まれたサービスなのです。
ともあれ、怪しげな笑顔のセールスマンから、「ココロのスキマ、お埋めします」という名刺を差し出されそうなことではありますが、はたして心底、隙間が埋まることはないとか、解決にならないことなんて、利用する女性たちがいちばんよくわかっていることです。
でもそれは、買い物してストレス発散するとか、美味しいもの食べて満たされるとか、お酒を飲んでその瞬間、忘れられるといったことと同列で、むしろ人肌で癒されるのならば、酒や買い物より何倍も満たされるのではないかとすら感じます。
私自身も含め、パートナーのいる方で悩みがある、傷つくことがある、という人であれば、できることならお互いのコミュニケーションの中で解決していくのが望ましいですし、シングルの方ならぜひ、積極的に恋に邁進(まいしん)するのが望ましいのは言うまでもありません。
ただ、実際この世の中、そんなに器用な人たちばかりではありません。
サービス産業とは、「何か困ったことがビジネスになる」ものですから、このような女性向けサービスが増加傾向にあるということは、それほど男女のコミュニケーションや日常のストレスに困っている、悩んでいる女性が多いという表れともいえます。
『男を買ってみた。〜癒やしのメソッド〜』には、私自身が女性専用性感マッサージ、レンタル彼氏、出張ホスト、ホストクラブを利用した体験を書きました。
新たなコミュニケーションのカタチ、新たな女性社会の幕開けのひとつの例になるかもしれません。
●鈴木セイ子(すずき・せいこ)●明星大学人文学部心理・教育学科卒。在学中より依存症患者の会や不登校問題の会などへボランティアとして参加し、カウンセリング実践をスタート。その後、起業し主に女性のための生活カウンセラーとして17年従事している。また、女性の独立支援や、女性をテーマにした映像プロデューサーなど活動の幅を広げている。