「百惠さんはとても真摯で、純粋で、一途です」
そう話すのは、三浦百惠さん(60)のキルト作品集『時間(とき)の花束 Bouquet du temps(ブーケ デュ タン)』の発行元である出版社の広報担当者。7月26日に発売されたこの本は、百惠さんの約40年ぶりの書籍であり、久しぶりの肉声と近影が掲載されていることもあって話題になっている。
「初版10万部でしたが、今は3刷り20万5000部となりました。みなさまへの感謝の気持ちも込めて、10月3日より東京・池袋サンシャインシティの展示会で本書に収録された約20作品を展示する出版記念特別展を行います。その後は、大阪、広島など地方の会場でも特別展示を行っていく予定です」(広報担当者、以下同)
本人撮影の写真も掲載、
宝物を探すような気分に
百惠さんは、'80年に三浦友和と結婚し、芸能人として絶頂期の真っただ中で電撃引退。その1か月後に自叙伝『蒼い時』(集英社刊)を出版すると、表舞台からいっさい姿を消していた。そんな彼女が本を通じて発信する40年ぶりのメッセージは、発売前から注目を集めていた。
同書を開くと、そこにはファン心をくすぐる仕掛けがいっぱい。写真として掲載された針道具は百惠さんが実際に使用しているもの。
ほかにも《本人撮影》という注釈が入った写真は、
「例えば、庭のような場所に育つ薔薇(ばら)の写真。これはご自宅の庭なのか、どこかの公園なのか……。想像して楽しんでいただければと思います」
ファンは、宝物を探すような気分を味わえる。
キルト作品の美しさが伝わるように、オールカラーページで上質な用紙を採用したという同書。
「もっと高い価格に設定してもいいのではという意見もありましたが、できるだけ多くの人たちに手に取ってもらうために、この値段に落ち着きました」
たくさんの人に届けたい思い──。それは、大スター・山口百恵とはかけ離れた、堅実に愛情豊かに生きてきた百惠さんの歴史だった。
「ご縁をいただいてから30年近く、百惠さんの創作活動を拝見してきました。キルトとの“出会い”は子どもの入園・入学での針仕事がきっかけとなることが多いのですが、それは百惠さんにとっても同じでした」
百惠さんだって
普通のひとりの女性
同書は、プロの作家もうなるような見事なキルト作品だけが掲載されているわけではない。百惠さんが2人の子どものために作ったおそろいのサンタのベストや、夫が仕事場で羽織る半纏(はんてん)なども紹介されている。
「本の題名を『時間の花束』としたのは、現在、過去、未来という“時の流れ”が1冊を読み終えたときにひとつにつながるように構成されているからです。つまり、百惠さんが向き合った家族の歴史が収録されています。夫のため、子どものため、友人のために、キルトを紡いできた彼女の人生は決して特別なものではない。あの百惠さんだって、普通のひとりの女性だということです」
今では素晴らしい技術を身につけたキルト作家のひとりである百惠さんも初めは素人だった。
「有名人ですから誰かに手伝ってもらっているのではないかと勘ぐる人もいると思いますが、百惠さんはすべての作品をイチから自分で作っています。彼女は嘘(うそ)偽りなく、地道にひと針ひと針を紡ぎながら腕を磨いたことで、こんな素晴らしい作品を生み出せるようになったのです」
30年という時間をかけて堅実に続けてきたキルトの修練が、かけがえのないものになっていく──。
「百惠さんが家族や友人たちへ思いを馳(は)せながら紡いだキルトは、美しい花のような作品となり、それが集まるとこんな素晴らしい“花束のような作品集”になる。彼女が実直にキルトの道を極めていくという豊かな時間の流れも、その“花束”にまとめられているということを伝えたかったのです。それは、百惠さんだからできたわけじゃなく、どなたでもこんな花束を作ることができる。この本のタイトルには、そんな思いが込められています」
「この本を出してくれてありがとう」
読者から感動の声が続々
発行元の出版社には、同書の感想を綴(つづ)った手紙がたくさん届いているという。
「96歳のおばあさまからこんなお手紙をいただきました。“百惠さんは昔、テレビでご活躍された方ですが、こんなに頑張っていらっしゃったんですね。お手紙を書かずにはいられないという気持ちになりました”と。私たちの込めた思いが、読者のみなさまに伝わったんだと感動しました。89歳の女性からは、“自分もキルトをやっているが、百惠さんの作品も創作姿勢も感動するものだった”という内容でした」
多くの手紙は、さまざまな感謝の気持ちがしたためられていたという。
「“この本を出してくれてありがとう”“百惠さんの幸せを分けてくれてうれしい”という出版社に向けた感謝、そして“出版を決断してくれてありがとう”という百惠さんに向けた感謝の言葉をたくさんいただきました」
読者には、意外と男性も多かったようで、
「奥さまに“照れくさいから買ってきて”と頼むダンナさまや、10冊くらい買って友人に配ったという熱烈な男性ファンもいらっしゃいます。百惠さんあての手紙は、すべて本人に渡しているので、きっと感謝しているのではないでしょうか」
気になる続編についても聞いてみると、
「そもそも、百惠さんは作品集を作るためにキルト作品を紡いできたわけではありません。彼女が還暦になるというタイミングもあって、いい感じで機が熟したとしか言いようがありません。一線から潔く身を引いた百惠さんが、改めて本を出すのはとても考えられないことであり、この奇跡のような一冊が生まれるのに30年かかっているわけですから(笑)」
長い年月をかけて生み出された結晶のようなキルトを見ていると、百惠さんの家族に対する静かで熱い思いが伝わってくる──。実物が見られる展示会は、見逃せない。