童謡『めだかの学校』でもおなじみのメダカは、日本人の郷愁を誘う親しみやすい生き物。
ところが農薬散布などが原因で野生のメダカは激減。1999年に絶滅危惧種に指定されるほど数を減らしている。
その一方でペットとして飼われるメダカは、過熱する“メダカブーム”の影響で値段はうなぎのぼり。昨年6月には愛媛県松山市のメダカ販売店で、ブラックダイヤと呼ばれるメダカ48匹(72万円相当)が盗まれる事件が発生。メダカをめぐるショッキングな出来事が、世間を騒がせた。
名称を変えただけで値段が高騰
「メダカは大きくなっても3・5センチ程度。コイや金魚のように大きくならないため、マンションなどでも飼育がしやすいんです。また3か月ほどで大人になり卵を産むため、子どもの情操教育にもとてもいい。
そして、ワビサビの効いた和の美しい模様が、癒しを求める中高年層にとても人気があります」
と話すのは、メダカのブリーダーでもあり、販売も手がける株式会社あやめ会の青木崇浩社長。水質浄化バクテリアの特許を取得、水槽内に自然浄化作用を作り出し、水替えとにおいのない技術を紹介している。また、2004年にメダカ総合情報サイト『めだかやドットコム』を開設。メダカ愛好家の間では知る人ぞ知るカリスマ的な存在だ。
それだからこそ、昨今の“メダカブーム”には警鐘を鳴らす。
「うちでは『朱赤』と呼び500円で売っているオレンジ色のメダカが、別のところでは名称を変えただけで1000円、5000円の高値で売られるなど値付けもバラバラ。
またネットオークションでは、メダカの写真の色なども調整され、しばしばトラブルが起きています。
さらに“この親から生まれました”といった一文をつけ、メダカの卵をネット販売。ところが生まれてきたメダカの色が親とまったく異なり、泣き寝入りをするケースもよく耳にします」(青木さん・以下同)
そもそも、メダカの値段は一体どうやって決めているのか。
「基本は固定率。例えば、『白メダカ』同士の間に生まれた子どもは、99%『白メダカ』なので、100円程度。『ダルマメダカ』同士の場合は、固定率30%くらいなので2000円から3000円。と一応基準はあるんです」
存在しないメダカまで売られている
ではなぜ、こういった事態が起きてしまうのか。
「メダカブームにかこつけて、投資目的でメダカを売買する業者も昨今増えています。私のところで育てた『三色メダカ』が、転売されて5万、10万の値段で売られているのを見ると、ホント悲しい気持ちになります。
また近ごろ、テレビなどで『赤いメダカ』が高級メダカとして話題を集めていますが、メダカの色素は、白・黒・黄色の3色なので、現実問題『赤いメダカ』は存在しません。
新品種をつくり出すことは、メダカを育てる醍醐味でもありますが、売る側もただ売れればいいではすまされない。もっと自覚を持ってほしいですね」
メダカの販売は、資格もいらず簡単に始められる。この手軽さが、こうした問題を生んでいるのかもしれない。
また、飼育できなくなったメダカの放流についても、苦言を呈する。
「日本にもともといたメダカは東北から北陸にかけて日本海側に生息する『キタノメダカ』と、本州の大部分と九州などに広く生息する『ミナミメダカ』の2種類。これら野生のメダカが地域の特性を生かして生息してきました。
もし、そこにほかのメダカが混ざると原種がいなくなるのはもちろんのこと、地域の特性に反するため模様が補色の役割を果たさず、鳥などに食べられてしまうケースも増えてしまう。いくら絶滅危惧種とはいえ自然にかえすのは、人間のエゴです」
手軽に飼えて小さいとはいえ、メダカも犬や猫と同じ生き物。飼うからには、命を取り扱うという責任が生まれることも忘れてはならない。
《PROFILE》
青木崇浩さん ◎メダカの販売、繁殖を行う株式会社あやめ会の社長。『メダカの飼い方と増やし方がわかる本』(日東書院本社)など著書多数