反撃する力がないとみられた女性に対し、理不尽な暴力の矛先が向けられる事件が相次ぐ。
「男にわざとぶつかられたことがあります。おとなしそうに見えて反撃されないと思われていたのかもしれません」
30代の主婦、林恵理子さんは以前、移動中に男に体当たりされる被害に遭ったことを明かした。
全治約3週間の胸部打撲
昨年、女性に体当たりをする男の動画や情報がSNS上で拡散されたが、警視庁丸の内署は9月26日、神奈川県藤沢市の会社員、記内良之容疑者(49)を傷害の疑いで逮捕した。男は歩きスマホ女性に体当たりを繰り返していたという。
「今年6月25日、東京メトロ千代田線二重橋前駅構内で、前から歩いてきた被害者(女性会社員、当時34)に対し、右ひじを突き出した状態で体当たりをするなど暴行を加え、約3週間の胸部打撲の傷害を負わせた」(捜査関係者)
付近では同様の事件が報告されており、6月上旬には30代の女性が体当たりを受けて骨折。9月にも50代の女性が頭を負傷していた。
記内容疑者は「3日に1回くらいやっていた」と供述していることから、他の被害者との関連性が疑われる。
犯行に走るきっかけは、約2年前。容疑者に歩きスマホの人がぶつかり、階段を落ちる被害に遭ったからだという。その復讐のために、見ず知らずの女性を狙い、体当たりを繰り返していたという卑劣さ。
「そんなことをするやつじゃなかった……」
古くからの知人は、記内容疑者が神奈川県内のヨットチームに所属し、国内外のレースに出場して好成績を収めていた過去を明かす。
困惑する母親
「熱血漢でまじめな海の男という感じのヨットマンでした。競技も頑張っていました。ヨットの世界では変なことをしたり、モラルがないようなやつはすぐにはじかれますから、過去にそんな話は聞いたことなかった」
以前、記内容疑者が住んでいた家の近隣住民は、
「最初は奥さんと犬がいたけど、離婚してひとりで住んでいました。ときどき庭にハンモックを出してひとりで寝そべっている姿を見かけたことがありましたけどねぇ」
ヨットマンとして満たされていた日々は本人のブログに残されている。ヨットレースを頑張り、後輩や友人とも交流し、愛犬と散歩に行くなど充実していた容疑者はどこで人生の舵取りを間違えたのか。
離婚が心の闇として根深く残り、憎き歩きスマホ女性への攻撃に変わったのだろうか。
愛知学院大学の岡本真一郎教授(社会心理学)は、加害者の心理を推測する。
「失恋など過去、女性との間で起きた面白くない経験がきっかけになっている可能性も。体当たり事件は悪く言えば復讐と言えます」
かつて容疑者がヨットの拠点としていた葉山マリーナや相模湾の近くの閑静な住宅街に記内容疑者の実家はある。
「私たちも、なんでそんなことになったのかわからないんです……本人ももういい年齢ですから、自分のことは自分で……」
と言葉を絞り出す年老いた母親は困惑するばかりだった。
被害の大きさを考える前に、敵意だけを相手に向けた身勝手な加害者。殺伐とした事件に、人間の闇を見る思いだ。