2017年6月、東名高速であおり運転の被害を受け、両親を失った長女が法廷で悲痛な現場の様子を語った。これほどまでに悲しい事件が起こっても減ることのないあおり運転。万が一、被害にあったとき、ドライブレコーダーは重要な証拠になるという。女性にも高齢者にも扱いやすい人気機種を一挙紹介。
「父が車外に出されないように父の手をつかんだり、“やめてください”と訴えました。祖父母に迷惑をかけないため、泣きたいときは夜にひとりで泣きます」
'17年6月、神奈川県大井町の東名高速道路上で強引に車を停止させられたワゴン車が後続のトラックに追突された事件。危険運転致死傷罪で起訴された石橋和歩被告(27)の公判で被害者家族の長女が涙ながらに訴えた言葉である。
この常軌を逸した行為について石橋被告は、
「パーキングエリアで駐車位置を注意され、車から降ろして文句を言おうと思った」
という、理解しがたい理由を語っていた。
あおり運転の被害は、まるで天災のように突然、襲いかかってくる。今年8月、茨城・常磐自動車道で乗用車の進路をふさぐように車を止め、運転手の男性を殴った事件も記憶に新しい。
「東名高速の事件以来、警察庁は各都道府県警にあおり運転、危険運転の摘発強化を指示した。警察庁によれば昨年、全国のあおり運転の違反摘発は前年の1・8倍、約1万3000件になった」(全国紙社会部記者)
あおり運転そのものに罰則はない。自民党交通安全対策特別委員会の平沢勝栄委員長は法整備を進めているという。
「警察庁が法案作りをしています。われわれもそれを全面バックアップして、来年の通常国会には提出します」
それでも連日のようにあおり運転の被害が警察に寄せられている。有効な予防策はないのだろうか。
「交通の流れを妨げないことが、あおり運転の被害を防ぐ意味でも重要です。あおり運転の動機の多くは“ノロノロ走られてイライラした”や“急に割り込んできた”というものです。
車線変更などは早めに合図を出すことが大切です。もし遭遇したら窓を閉め切り、ドアをロックして110番通報。余裕があればスマホで録画しながら映像を残すことです」
と自動車ライター。
そして“万が一”のときに有効なのがドライブレコーダーである。警察に被害届を出すときにも、ドラレコの映像の有無で捜査に大きな違いがある。常磐自動車道の事件でも、殴ったりするドラレコの映像が逮捕に向けての証拠になったという。
「ドラレコの映像は客観的ですから捜査においても重要ですし、裁判でも訴える力が格段に高いです。ほかの供述がなくても事実認定できると言っても過言ではありません。逆に映像がないと検挙までいかないこともありえます。編集などを疑われないよう、ドラレコのカードは警察官に抜き取ってもらうことも大切です」
と元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は指摘する。
いざ、ドライブレコーダーを取り付けようにも、カーショップに行けばその種類の多さに迷ってしまう。そこで、女性でも高齢者でも扱いやすい優れた機種を「A PITオートバックス東雲店」の千野直克さんに紹介してもらった。
プロから聞いたおすすめ“ドラレコ”
「大きく分けて前方だけ、前方と後方、360度を録画する3つのタイプがあります。どれも以前より画質は飛躍的に鮮明になりました。
おすすめは前後左右が録画できる360度タイプ。幅寄せなどを録画できるところも利点です。
価格はほかの2タイプに比べて高めですが、前後録画タイプは配線が多く工賃がやや高めになります。カメラが1台の設置ですむ360度タイプは工賃も低めでトータルの価格差はそれほどありません」
それでは、まず前方を撮影するタイプ。
「ケンウッドの商品『DRV-W630』(本体2万6999円)はスマホでも映像が確認できます。本体のSDカードで録画しながら同時にスマホにも保存できるので、万が一、SDカードのデータが破損しても安心です。衝撃を感知すると、その前後20秒が自動録画されます」
ユーザーから“メードインジャパンなので安心”と評価されているのがセルスターの商品だ。
「録画トラブルを未然に防ぐため月に1度、SDカードを初期化することが推奨されています。セルスターの商品はSDカードのメンテナンスフリー機能が備わっていて、初期化する必要がありません。
おすすめはGPS機能つきの『CSD-670FH』(本体2万2999円)。衝突時に映像と位置確認ができるのでより有効です」
前方と後方を録画するタイプでは、逆走注意や車線逸脱注意警報などの運転支援機能がついたセルスターの『CSD-790FHG』(本体2万9800円)や、80〜120キロで走行中に他車が後方8〜10メートルに近づいたまま一定時間走行したときに警報、録画などをする、あおり運転対策機能がついたコムテックの『ZDR-026』(本体3万6800円)がある。
「360度を録画するタイプはカーメイトの『DC5000』(本体5万9799円)がおすすめです。こちらもスマホのアプリを利用して映像が確認できます。オプションで駐車監視機能も設定できますから、ドアパンチなど車体に傷をつけられたときにも有効です」
便利なドラレコだが、つければ終わりではいけない。
「日常的なメンテも大切です。運転する前にドラレコが正常に作動しているかどうかモニターと録画ランプの点灯などで確認してください。SDカードは画像を上書きしていくので劣化します。ときどきパソコンで撮影できているかを確認してください。高耐久SDカードを使うこともおすすめします」と千野さん。
あおり運転撲滅が最善なのだが、備えだけはしっかりしておきたい。
近年報道された主なあおり運転
2017年6月
神奈川県足柄上郡大井町の東名高速下り線において、追い越し車線に停車していたワゴン車に大型トラックが突っ込み、ワゴン車に乗っていた夫婦が死亡。長女を含む合わせて4人が負傷した。加害者車両は被害者車両の前に出て進路をふさぎ、減速させるなどの行為を繰り返した。
2018年1月
神奈川県横浜市保土ケ谷区の横浜横須賀道路下り線で男性がゴミ収集車をあおり、運転していた男性は首などを負傷した。
2018年7月
大阪府堺市南区において、車がバイクを当て逃げし、バイクの男性を死亡させた。バイクに車を当てたあと「はい、終わり」と発言していたことがドライブレコーダーに記録されていた。
2019年1月
大阪府堺市北区南花田町付近で、寺院を営む僧侶が後続の車に急ブレーキを繰り返し、後続車の運転手の胸ぐらをつかんだ。
2019年8月
茨城県の常磐自動車道守谷サービスエリア付近で男女が前方を走っていた自動車に対し、無理やり停車させ運転手の顔面を殴るなどの暴行を加えた。その様子を女性はガラケーで撮影していた。
2019年9月
愛知県内の東名高速道路で、ワゴン車に乗った男が前方を走る乗用車にあおり運転をしたあげく、エアガンを発射した。