容疑者宅前には大量の傘があふれ、見るからに異様な光景に

「知人の20代女性は早朝の出勤時、自宅前に駐輪していた電動自転車のサドルを盗まれていることに気づいたそうです。“先っぽがない!”って。なんでこんなことをするのか、とショックを受けていましたよ。買ったばかりの新車のサドルを付け替えるはめになってかわいそうでした」

 と約3か月前の被害について話すのは、男の自宅近くの男性住民。

きっかけは防犯カメラ

 東京都大田区の路上に止めていた自転車からサドルを盗んだとして、警視庁蒲田署は10月1日、同区内に住む飲食店アルバイト従業員・羽鳥秋夫容疑者(61)を窃盗の疑いで逮捕した。

 8月29日午後6時50分ごろ、帰宅ラッシュ時の京浜急行電鉄・雑色駅前付近で時価1000円相当のサドルを盗んだ疑い。最も通行人の目につきやすい時間帯だから大胆不敵といえる。

「羽鳥容疑者は取り調べに対し、“昨年夏ごろサドルを盗まれて買い直した。自宅で晩酌中にその悔しさがこみ上げてきて、他人にも同じ思いをさせてやろうと腹いせに盗んだ”などと容疑を認めている。昨年秋ごろから犯行に着手したもようで、自宅から159個のサドルを押収。被害届との関連などを調べている」

 と全国紙社会部記者。

 複数の地元関係者によると、ここ2~3か月、雑色駅周辺の路上や駐輪場ではサドル盗難が頻発。

 地元の自転車店は「在庫のサドルが全部売り切れてしまったこともあった」(店長)と話す。

 すべて羽鳥容疑者の犯行と決めつけることはできないが、「駅周辺の防犯カメラで、自転車の前カゴに複数のサドルを入れて走り去る容疑者が映っていたのが逮捕のきっかけのようだ」(前出の記者)

 というから警戒心はないに等しい。

 さらに、被害が拡大したことについて別の男性住民は、

「飲食店前で男が複数の自転車からスポスポとサドルを引っこ抜いていく場面を友人が目撃していた。あまりに堂々としていて“違法駐輪とかに関係する業者さんかな”と不審に思わなかったらしい」

 と、盲点になった可能性があるとの見方を示した。

 雑色駅前では看板などで「違法駐輪禁止」を呼びかける取り組みが進んでいるところだった。

 容疑者宅は、同駅から徒歩約15分の築30年以上の2階建てアパート。住人などによると、間取りは1Kで家賃は月約6万円。入居者はほぼひとり暮らしという。

「羽鳥容疑者は今年4~5月ごろ引っ越してきたばかり。いまどき珍しく個別に挨拶に来られて、老舗和菓子店のおまんじゅうか何かをいただいた。丁寧に『御挨拶 羽鳥秋夫』と、熨斗紙までかけて印象はよかったんですが……」

 と住人のひとり。

羽鳥容疑者が引っ越し挨拶で、アパート住民に配った菓子にかけられていたのし紙。律儀な一面も

 アパートの大家も「家賃の滞納や遅延もなく、きちんとした人だと思っていた」と事件に驚いていた。

「収集癖のある人かな」

 地元関係者などによると、羽鳥容疑者は少なくともここ4~5年は大田区や神奈川・川崎市の飲食店でアルバイトを転々。「仕事のできないバイト料理人」(同関係者)と悪評が立っていたという。1度は都内の城東地区に転居し、今春、「通勤に時間がかかるので」と舞い戻ってきたようだ。

 地元商店街の居酒屋店主は、

「羽鳥容疑者はほかの居酒屋やスナックにも顔を出しているようだが、上から目線で偉そうなことを言う態度の悪い客だった」と振り返る。

 酒をちびちびあおりながら女性スタッフに対し、

「オレはファミレスで月35万円稼いでいるから金はあるんだ」

「オレは本当はモテるんだ。真剣になったら、あんただって落とせるよ」

 などと豪語したという。

「酒は飲んでも3杯程度。どちらかというと、女の子と会話するのを楽しみに来ている感じだった。以前はシャツとスラックス姿だったのに、最近はジャージーなど服装がだらしなくなっていた」

 と同店主。

 ちなみに、この店主と女性従業員、店の客6人がサドル盗難に遭っている。

被害者が指し示すのは、盗難防止のためサドルをフレームにくくりつけた結束バンド。「もう、2度とやられないように」と

 生活ぶりも変わっており、

「アパート前の路上で自転車を止める場所にこだわっていて、ほかの自転車が“彼のエリア”に駐輪されていると、それを横に移動させていた。自転車の前カゴには米アニメ映画の人気キャラクター『ミニオン』のぬいぐるみをつけるなど、ちょっと変わっていた」(近くの飲食店男性)

 この店の客が帰ろうとしたとき、乗ってきた自転車のサドルピラー(棒の部分)が何者かによって高く引き上げられていたことも。盗まれそうになったものの、ピラーが錆びついていたため難を逃れた可能性があるという。

 さらに、容疑者宅からは159個のサドルが出てきただけでなく、玄関前の両脇には大量の傘が。紳士傘やビニール傘、花柄や赤色、ピンク色の婦人用まで窓の格子にびっしりかけるなどしており、その数は123本。

 転居後4~5か月ですべて購入したとは考えにくく、どのように調達したのか、近所の住民が「収集癖のある人なのかな」と思うほど尋常でない光景だった。

 狭い部屋に大量のサドルを隠し暮らしにくかったはず。謎のコレクターぶりを発揮するのはかまわないが、今後は合法的に頼みたい。