「もはや、しつけという観点からはかけ離れ、みずからの感情に任せて行われた理不尽なものとしか言えない」
昨年、東京都目黒区で船戸結愛ちゃんが虐待死した事件の東京地裁判決で、保護責任者遺棄致死罪などに問われた父親の雄大被告(34)に対して、森下実裁判長は懲役13年を言い渡した。
事件は昨年の3月2日に発覚して大きな衝撃を与えたが、雄大被告の成育歴はあまり明らかになっていない。
しつけという名の虐待
全国紙の社会部記者が解説する。
「北海道で育った雄大被告は、バスケに熱中する誰もがうらやむヒーローだったそうです。
大学を卒業後、IT系企業に就職したが、対人関係などのストレスから7年ほどで退社。その後は北海道札幌市や香川県高松市などで水商売に従事したが、いずれもうまくいかなかったようです」
目標が定まらず、自暴自棄になっていたなかで、シングルマザーとして結愛ちゃんを育てていた優里被告(27)と出会い、2016年4月に結婚。
その後、結愛ちゃんの弟が誕生するが、雄大被告は、結愛ちゃんが実の子どもではないことにプレッシャーを感じたとして、
「理想の子ども像を描いた。そのためにしつけに力を注いだ」
と今回の裁判で告白している。
ところが、それが行き着いた先は、しつけという名の虐待だった。高松から職を求めて東京・目黒区に居を移したころには次第にエスカレートしていき、勉強や生活で思いどおりの行動をとらないと、体罰を与えたり、真冬に冷水を浴びせたりと過激な方向へと向かっていく。妻にも暴言や暴力をふるって、虐待を主導していた。
これに対し、結愛ちゃんは、
《いっしょうけんめいにやる やるぞパパとママにみせるってきもちでやるぞ えいえいおー》
と当初こそけなげに自分のノートに綴っていたが……。
《もうおねがい ゆるして ゆるしてください》
と次第に追い込まれていった。さらに食べ物も与えず、結愛ちゃんの体重は16キロから、12・2キロまでになって死亡したのだ。
雄大被告の法廷では優里被告も証人として出廷し、元夫婦同士のバトルもあった。優里被告は元夫に向かって、
「結愛のことも息子(被告たちの実子)のことも私ひとりだけじゃ2人を守れないけど、助けてくれる人がいるので、もう結愛と息子には近づかないでほしいです!」
と錯乱していたのか、結愛ちゃんが生きているかのように言い放ったのである。
「もう少し長くてもいいんじゃないか」
優里被告の判決はひと足先に懲役8年が下っているが、それを不服として控訴している。はたして雄大被告も控訴するのだろうか─。
香川県に住む結愛ちゃんの父方の祖父は、
「えっ、判決が下りたんですか? 懲役13年? こんなに短いとは……。検察側の求刑が18年やということは知っとったけど、判決は15年ぐらいじゃろうと思っていました。ちょっとマケすぎやないですか。もう少し長くてもいいんじゃないかと思う」
と怒りで声を震わせた。被告の理想的な子どもにするためのしつけについては、
「そしたら、それを実の息子も同じようにしとったんかと。報道を見る限り、旅行に連れていって可愛がっとったし、ちゃんと食事もやっとったでしょう。しつけをやっとったのは、結愛だけじゃないですか。それはしつけじゃなくて、虐待ですよ」
と憤った。
この裁判で、雄大被告はほぼ全面的に検察側の言い分を認めたが、唯一、認めなかったのは、結愛ちゃんの命の危険を察した時期。
ここが裁判の争点となった。検察側は、結愛ちゃんが嘔吐した2月27日ごろという主張をとったが、被告と弁護側は死亡前日の3月1日と主張。
嘔吐した時点で、医師に診せることはしなかった。裁判員と裁判長は、検察側の見解を採用した。
「食事制限や常習的な暴力を受けたうえ、やせ細り、嘔吐し、意識も薄れ重篤な状態になってもなお医療措置を受けさせてもらえないまま死亡するに至った結愛ちゃんの身体的苦痛、苦しみ、悲しみ、絶望感は察するにあまりある」
と裁判長は断じたうえで、虐待死事件では最も重い部類の量刑になったと述べた。
犯行に至ったプロセスは明かされず
虐待関連の著書があるルポライターで裁判を傍聴していた杉山春さんは、次のように説明する。
「被告の心理鑑定をした児童虐待の専門家は、被告の成育歴について少しだけふれていました。両親は不仲で、父親との関係がよくなかったとのことです。しかし彼の詳しい育ちが示されたわけではありませんでした。
また、彼が子育てについて独特の感覚を持つに至った理由も明確にはわかりませんでした。元妻の裁判ではDV(家庭内暴力)の側面がクローズアップされましたが、雄大被告の公判では俎上に載ることはありませんでした」
と雄大被告が犯行に至ったプロセスが裁判で明らかにならなかったことについて、腑に落ちなかったという。
今回の事件などがきっかけとなって、児童福祉司の質の向上や関係機関の連携強化などに力が入れられることになったが、判決は妥当なものだったのだろうか。
かつて児童相談所で児童心理司として勤務していた心理学者の山脇由貴子さんは、こう話す。
「被告には、外部で対人関係が悪く、挫折したストレスを抱えてしまう脆さがあったと思います。外でストレスを押し殺しているぶんを、家庭で発散した結果が今回の悲劇だと思います。非常に悪質な事件なので、個人的な心情として13年は短いと感じました。
ただ、虐待事件は証拠不十分で逮捕されず、不起訴になる場合もあります。それを考えれば、過去の判例から見て、13年は、妥当という面もあると思います」
結愛ちゃんの死を無駄にしないためにも、今回の事件を新たな教訓として、児童虐待の解決策に役立てることが何よりも必要だ。
ゆるして きのうぜんぜんできなかったこと
これまでまいにちやってきたことをなおす
これまでどんだけあほみたいにあそんだか
あそぶってあほみたいだから やめるから
もうぜったいぜったいやらないからね
ぜったいやくそくします