9月27日に行われたドラマ『まだ結婚できない男』会見
 13年ぶりの続編で注目を集めているドラマ『まだ結婚できない男』(フジテレビ系)や土曜夜10時に放送中の『俺の話は長い』(日本テレビ系)など、いま“独身ドラマ”の主人公は男性が多い傾向にある。少し前までは“独身ドラマ”といえば女性が主人公の作品が多かったが、いったい何が起こっているのか? その理由を取材してみると―。

 あの男が帰ってきた─。まさかの続編放送で、話題のドラマ『まだ結婚できない男』(フジテレビ系)。

「13年前に放送された人気ドラマ『結婚できない男』の続編です。阿部寛さんは、イケメンでハイスペックなのに、偏屈で皮肉屋なために結婚できない建築家、桑野信介を演じています」(スポーツ紙記者)

 53歳になったいまも変わらず、不器用に独身を貫く桑野の日常を、コミカルに描いている。

「1話の冒頭で、“50歳を越えて未婚の男性が23・4パーセント、女性が14・1パーセントを超えた”と『厚生労働白書』のデータが紹介されました。13年前は“結婚できない男”が増えてきたと面白おかしくドラマにしていたものが、近年では国を挙げての深刻な問題になってきていることがわかります」(同・スポーツ紙記者)

 桑野のような“結婚できない男”が主人公のドラマは、今年に入って増加傾向にあるようだ。

「日テレ系の『俺の話は長い』は生田斗真さんが、6年前から無職になった独身男性を演じています。“口ゲンカなら誰にも負けない”という特技があり、不利な状況でも屁理屈を繰り出して反撃。自分の本性をごまかしたまま生きてきたという役どころです。今年4月から放送されたテレビ朝日系の『東京独身男子』など、独身男性が主人公のドラマがトレンドになっていますね」(テレビ誌ライター)

 しかし、少し前までは、独身の女性が右往左往しながら婚活に奔走する設定が多かったはず。

「TBS系の『私 結婚できないんじゃなくて、しないんです』は、容姿端麗で仕事も順調な女性が、毒舌恋愛スペシャリストと衝突しながらも幸せをつかみ取ろうとするストーリーで、主演を中谷美紀さんが務めました」(同・テレビ誌ライター)

「幸せな結婚」のほうがファンタジー

 ほかにも、高校時代からの親友である独身3人組が、過去の出来事を“タラレバ”で語り、夜な夜な飲み会を繰り広げる『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)や、「結婚しないとクビ」と上司から宣告され、婚活に奔走する『サバイバル・ウェディング』(日本テレビ系)などが記憶に新しい。

『サバイバル・ウェディング』で主演を務めた波瑠

「人気コミックが原作の『東京タラレバ娘』は、主演を演じた吉高由里子さんの“リアルすぎる独身女性”が反響を呼びました。放送終了後には《未来の私すぎてヤバい》《思い当たることばかり》と、ドラマの感想がSNSで飛び交うこともありましたね」(同・テレビ誌ライター)

 このように独身ドラマの主人公のトレンドが、女性から男性へと変わったことに理由はあるのだろうか。コラムニストの木村隆志さんは、世間の結婚観の変化が関係していると話す。

「生涯未婚率のデータが示すように、いま世間では男性でも、結婚しないというのが一般化してきています。たくさん恋愛する人、幸せな結婚を早い年齢からしている人というほうがファンタジーに見えるのでしょう。そういう主人公では、視聴者の共感を得にくくなっているといえます」

 かつてのトレンディードラマのように、美男美女が恋に落ちる話は、現在では絵空事に感じられてしまうようだ。

「『東京独身男子』は、一見ハイスペックで誰もが羨むような生活をしているようで、三者三様なにかしらの欠陥を抱えている主人公たちでした。『まだ結婚できない男』もイケメンで仕事ができるのに、偏屈で皮肉屋という欠陥があります。こういった欠陥を抱えた人たちがどのように結婚していくのか、最後には幸せになれるのかというストーリーのほうが、いまの視聴者にはリアルに感じられるのでしょう」(木村さん)

 また、独身男性が主人公にもかかわらず、女性視聴者の共感を得やすいという点もトレンドの理由にあるという。

「“こういう男いる!”と、女性同士で盛り上がる設定が多いんです。独身女性が主人公のドラマは、しっかりと“結婚”というものに向き合って婚活したり、出会いを求めて奔走したりするストーリーが多い。その一方で、独身男性のドラマは、結婚できない理由を本質的に考えようとしていません。

 むしろ“男の自分たちには関係ない”と重要視せず、上から目線のスタンスの主人公が多いんですね。ハイスペックだけど、偏屈すぎて結婚できない男性が右往左往する姿は、女性から見ていてスカッとするような爽快感があるのではないでしょうか」(木村さん)

あらゆるタイプの人間を登場させる思惑

 “独身”が一般化しつつある現代社会。ドラマを制作する立場からすると、キャッチーな“時事ネタ”を盛り込むことで、目を引く効果があるという。

「連続ドラマで重要なのは、いかに第1話を見てもらうかということ。その点、時事ネタを入れたほうが注目されやすいということはありますね。前クールで放送されていたTBS系の『ノーサイド・ゲーム』は、ラグビーワールドカップを意識してのことだと思います」(ドラマプロデューサー)

 “独身男性の増加”という時事ネタを扱うドラマは、視聴者の関心を引きやすいのだ。

 さらに、テレビが中立性や多様性を担保する必要があることも、ドラマのトレンドの変化に関係している。

いまや王道のラブストーリーを描いているだけでOKという時代ではなくなりました。あらゆるパターンの恋愛模様や人間関係を描こうとする傾向が強くなっているのは確かです。『まだ結婚できない男』には、桑野の妹夫妻のような、結婚して子どももいる登場人物も出てきます。

 TBS系の『逃げるは恥だが役に立つ』では成田凌さんが同性愛者の役を演じ、同じくTBS系の『凪のお暇』には、武田真治さん演じるスナックのママも登場します。あらゆるタイプの人物を登場させることで、よりリアリティーが出るのだと思います」(木村さん)

 偏った設定では、ネットで炎上してしまう可能性もある。あらゆる人物を描くことは、それを防ぐ効果もあるのだそう。

 ドラマは社会を映す鏡─。さまざまな人間関係や恋愛模様を描いているため、その一例として、“独身男性ドラマ”が急増したのだろう。

 ハイスペックな一方で、偏屈で皮肉屋な独身男たち。そんな憎めない彼らの日常生活から目が離せないのは、もしかして私たちにも共感する部分があるのかも……?