誰もが知っている「フランケンシュタイン」の物語を大胆な解釈と美しい音楽により韓国でミュージカル化。2017年の日本初演でも、リピーターが続出するなど熱烈な支持を得たミュージカル『フランケンシュタイン』が、2020年1月に待望の再演。
初演に続き、主人公の科学者ビクター・フランケンシュタインの親友、アンリ・デュプレ/怪物の二役を演じる加藤和樹さんにとっても、特別な作品だ。
“やっぱり君に恋をした”
「再演が決まってからずっとワクワクしてました。個人的にも大好きな作品ですし、またこの作品の世界観に戻ることができるという喜びはすごくあります」
人類の“生命創造”への探求と“愛と友情”をテーマにした壮大で衝撃的な今作。その魅力はビクターとアンリの絆。儚くて切なくて、でも美しい、ある意味恋愛に近い友情にあると、加藤さんは語る。
「僕の好きな『君の夢の中で』という曲に、森雪之丞さんが訳詞された“やっぱり君に恋をした”っていうフレーズがあるんですけど。最初にその歌詞を見たとき“恋?”って、ちょっと疑問に思ったんです。
でもその感情に近いものを、芝居していると自分が抱いていたんですよ。憧れだったり尊敬だったり、それは恋愛じゃないんだけど、ビクターに対する愛だし、愛の形ってひとつじゃないなって思いましたし。
家族の絆よりも強い絆で2人はつながっていたんだなって。だから怪物になってからの復讐劇がより切ない。怪物になっても根底にはアンリとして消えていない部分があるはずなので」
臓器に記憶って残るのかな
人間の記憶についても深く考えたそうで。
「はたして記憶ってどこにあるんだろうって思いました。臓器移植された人には、ドナーの人の記憶が残っていたり、好きなものや性格が変わったりすることがあると聞いたことがありますけど。
この怪物の身体は別の人のものでも頭はアンリなので脳はそのままなわけで、人体の不思議じゃないですけど、やっぱり臓器に記憶って残るのかなって。
だからアンリと怪物を演じていて、怪物自身も本当は思い出しているけど、思い出したくなくて忘れたふりをしているのではないか……とか。いろんな考え方ができるようになってきちゃって。この再演をやる際に、アンリと怪物の役作りをもう1回、掘り起こしたいなと思っています」
初演でアンリと怪物を演じたときに大切にしたことは?
「共通していえるのはビクターへの執着心ですね。あとは、二幕で怪物に変貌して出てきたときの表情や声色の印象の違いはすごく意識しました。
あの優しかった青年が落ちるところまで落ちて地獄を見て、人ならざるものになったというインパクトを与えるってことは大事にしました」
加藤さんはじめ、メインキャスト全員が一人二役を演じるのも今作の大きな見どころ。
主演の中川晃教さんと柿澤勇人さんも、一幕ではビクター役、二幕では人間同士を格闘させるギャンブル闘技場を営む悪党ジャック役と、まったく違うキャラクターを演じる。
「僕も初めて見たときは驚きました。さっきまでビクターだった人が、いきなりジャックとして出てきて。言い方は悪いですけど、ジャックはほんとにヤバいやつじゃないですか(笑)。
それぞれがまったく違う二役で、一瞬ほんとは違う人なんじゃないかと思うくらいです。でもそのぶん振り切ることができるので、大変ですが面白いところではありますよね」
思い入れのあるシーンを尋ねると。
「正直なところ、全部思い入れがありますね。初めて韓国で見たときに、本当に素晴らしすぎてどのシーンも印象に残ったんですね。
それを自分が演じてなおさらその思いも強くなりましたし、ビクターと関連するシーンはすべて印象深いです。戦場での出会いも、酒場でのシーンも、あげたらきりがないですよ。この作品に対しての愛が強すぎて(笑)」
お客さんがいて初めてできあがる
今年も多くの舞台に出演している加藤さん。今作の前に11月は主演ミュージカル『ファントム』が控えている。演出は友人でもある城田優さん。
「純粋に楽しみです。(城田)優の作品に対する思い、役者だからこそ僕らに求めることやこだわりも話をしていて感じるので、もちろん簡単なことじゃないなって思いますけどね。
でも、『テニスの王子様』をやっていた当時、二十歳そこそこだった若造たちが、時間を経て、変わらずにその関係性の中で、こうやって仕事ができる喜びはとても感じています」
今、舞台は加藤さんにとってどんな場所なのか。
「僕の初舞台はミュージカル『テニスの王子様』で、その後、自身のライブもするようになり、今こうやって舞台をたくさんやらせてもらうようになって思うのは、やっぱりライブなんですよね。
その日にいらっしゃるお客さんによって、劇場の空気も芝居も変わったりしますし。音楽のライブも自分たちだけで表現するだけでは成り立たない部分がすごく多いんですね。
お客さんがいて初めてその場でできあがるっていうものなので、同じ意味で舞台はもうライブだと思っています」
最後に読者へメッセージをお願いします。
「今回は再演ですけど1回、全部リセットして、ひとつひとつのシーンをより自分たちの中でかみ砕いて、なぞるのではなく新たに構築するっていうことをしていきたいです。
これは僕個人の考えですけど、ビクターとアンリの関係性をより切なくより愛おしく、演じられたらなと思います。ミュージカル『フランケンシュタイン』の世界観にどっぷりつかりに来ていただきたいです」
(取材・文/井ノ口裕子)
19世紀ヨーロッパ。科学者ビクター・フランケンシュタイン(中川晃教/柿澤勇人Wキャスト)が戦場でアンリ・デュプレ(加藤和樹/小西遼生Wキャスト)の命を救ったことで、2人は固い友情で結ばれる。生命創造に挑むビクターに感銘を受けたアンリは研究を手伝うが、殺人事件に巻き込まれたビクターを救うため、無実の罪で命を落としてしまう。
ビクターはアンリの亡骸に自らの研究の成果を注ぎ込み、生き返らせようとするが誕生したのはアンリの記憶を失った怪物だった。そして怪物は自らのおぞましい姿を恨み、ビクターに復讐を誓う……。
東京公演:2020年1月8日~30日@日生劇場/愛知公演:2020年2月14日~16日@愛知県芸術劇場 大ホール/大阪公演:2020年2月20日~24日@梅田芸術劇場 メインホール
【公式サイト】www.tohostage.com/frankenstein/
●PROFILE●
かとう・かずき 1984年10月7日、愛知県出身。2005年、ミュージカル『テニスの王子様』で脚光を浴び、2006年4月CDデビュー。ストレートプレーから大作ミュージカルまで、幅広い作品で主演を務める。今年は、舞台『暗くなるまで待って』『BACKBEAT』、ミュージカル『怪人と探偵』に出演。11月9日からミュージカル『ファントム』に城田優とともにW主演する。2020年6月から全国25公演ツアー開催も決定。