木村拓哉(46)の主演ドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)がスタートをきった。初回視聴率は、12.4%。悪くはないが、かつて20%超えが当たり前だった高視聴率男としては「ちょ、待てよ」という感じかもしれない。
今回の木村の役どころはシェフだ。水嶋ヒロが料理のYouTubeチャンネルを開設したことが話題になったが、「料理をしている男性の姿がカッコいい」という流れは、もはや当たり前になりつつある。その流行に先鞭(せんべん)をつけたのはなんといっても『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)の名物コーナー『BISTRO SMAP』だろう。もともと、'95年の番組スタート直後に脱退した森且行の特技を活かすべく生まれた企画だが、長年人気を博し、レシピ本はバカ売れした。
「料理ができるとカッコいい」の構図
その後、速水もこみちが情報番組『ZIP!』(日本テレビ系)内の企画『MOCO'Sキッチン』で大活躍。モデルから俳優に転身したころは、お世辞にも演技がうまいとは言えなかったが、料理モノでブレイクし、キャラ立ちにもつながった。8年間、オリーブオイルを長身からふりかけている姿はすっかり定着したのだ。
お笑い芸人のロバート・馬場裕之のケースも興味深い。お笑い界きっての料理上手で知られ、ウイスキーのCMでは吉高由里子の相手役を射止めてしまった。料理の腕は、男性のカッコよさを割増しにするのだろう。
かつては女性に嫌われるほうのタレントだったタモリも『ジャングルTV 〜タモリの法則』(TBS系)で料理をやるようになったあたりから好感度を得ていった。この番組のスタートは'94年で「スマスマ」とほぼ同時期だ。また、'92年~'94年には、小柳ルミ子と大澄賢也が踊りながら料理する『セイシュンの食卓』(テレビ朝日系)が話題になった。
これは男女共同参画の進展やフェミニズムの台頭といった社会情勢に、テレビが対応した結果でもある。こうして、料理をする男はイケているという時代が到来したわけだ。
かと思えば、メディアに登場する「プロ」の料理人にも変化が。昔は正直、容姿については不問だったが、川越達也シェフのようなルックスがいい男性が人気者になった。その勢いで歌手デビューまで果たしたものの、本物のイケメンが料理をする時代では飽きられるのも早かった。
“BISTRO SMAP”を思い出させる発言
そんななか、稲垣吾郎が今月、銀座にレストランとカフェをオープンさせた。「ビストロ」でのイメージを活用したということだろう。『ノンストップ!』(フジテレビ系)のインタビューでは、そんな副業も含め「今がいちばん幸せです」と健在ぶりをアピール。
一方、かつてのイメージを活用したいのは木村も同じだ。『週刊SPA!』(扶桑社)のインタビューでは、
《今回はバラエティー番組のワンコーナーではないので、料理を作るときも“シェフがどういう思いで今に至っているのか”というメンタル面も大切にしています》
と、昔とった杵柄(きねづか)をさりげなくアピール。実際、20年以上もテレビで料理をし続けたのだから、腕前もそれなりだろう。今回のドラマは日曜劇場なので資金も潤沢であり、最高級のフレンチを再現すべく、本格的な趣向が凝らされている。パリの三ツ星レストランでも撮影を行い、そこで働く日本人シェフから大いに刺激を受けたという。
《彼のそうしたエネルギーを尾花(役名)に取り込んでいけたら》
《調理道具もプロ仕様なので、ナイフなんて本当によく切れる。だから気をつけてやらないと》
と、リアリティーを強調する木村。やはり本物志向で、食材などにも贅を尽くしていた『BISTRO SMAP』はバラエティーの料理を超えたとまで称えられた。『グランメゾン東京』の料理も実に美味しそうで、見るからに食欲をそそる。それが魅力的であればあるほど、料理するイケメンも映えるという仕掛けだ。
初回から3日後に放送された『TBS秋の新ドラマ祭』では街頭取材を受けた中年女性がこんな感想を口にしていた。
「本当のシェフに見えてしまって、素敵でした」
とまあ『BISTRO SMAP』マジックはまだまだ有効なようだが、そんな木村も11月で47歳。ドラマのメインディッシュ素材として、熟成されたと見るか、古びたと見るかは評価が分かれるところだ。
はたして昔のように、日本中の女性をうっとりさせられるだろうか。
●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に「平成の死」「平成『一発屋』見聞録」「文春ムック あのアイドルがなぜヌードに」などがある。