『グランメゾン東京』

『グランメゾン東京』(TBS系)の舞台は、厳しくも華やかなフレンチシェフの世界──。

「木村さんは、パリの二ツ星レストラン『エスコフィユ』の腕利きシェフとして名を馳せた、尾花夏樹を演じています。ある失敗をきっかけに表舞台から姿を消していますが、鈴木京香さん演じる早見倫子と出会い、再び星をとるレストランを作るために、東京で奔走するというストーリーです」(テレビ誌ライター)

 1話の制作費が1億円ともいわれ、クランクインの場所も前代未聞だった。

テレビドラマ史上初となる、フランス・パリの有名三ツ星レストラン『ランブロワジー』でクランクインしました。まさに“グランメゾン”の王道を行く最高峰の店です」(スポーツ紙記者)

 フランスでの修業経験がある『vivo daily stand』料理長、花本朗さんが『ランブロワジー』の偉大さを語る。

「30年以上、ミシュランの三ツ星を維持している老舗の正統派フレンチレストランです。シェフのベルナール・パコー氏はフレンチに携わっている人なら、誰でも1度は聞いたことがある名前だと思います」

 初回視聴率は12・4パーセントとまずまずだったが、ドラマの評判は良好で、20%を期待する声も出始めている。

そもそも“グランメゾン”とはいったい……?

グランメゾンは“偉大な家”という意味の和製フランス語で、日本ではミシュランの三ツ星レストランを指す言葉として使われるようになりました。その特徴としては、調度品をはじめとした、あらゆるものが最高級品。ナイフやフォークなどには銀を使用しています。ワインのストックも豊富で、1人のお客様に対するホール係の人数が多いのも特徴です」(フレンチレストラン関係者)

 一般的なフレンチレストランは、ホール係1人が担当する席は6席ほどだが、グランメゾンになると2、3席程度だそう。

お客さまが声をかけてくる前に、オーダーを取る雰囲気を察してサービスを行います。グランメゾンは料理を楽しんでもらうのはもちろん、いいものに囲まれて、非日常的な空間を楽しむことも目的としていますね」(同・フレンチレストラン関係者)

 三ツ星ともなれば、値段も最高級レベル。

「料理だけで1人2万〜3万円からスタートする店が多くそこにワインや飲み物の料金がプラスされていくという形になります。コース料理をひと通り食べるとなると、2〜3時間はかかります」(同・フレンチレストラン関係者)

 高級レストランの代名詞ともいえるグランメゾンが舞台の今作で、木村演じる尾花は“スーシェフ”と呼ばれているが、どんな役職なのか。

通常、トップのシェフが厨房で料理を作ることはありません。提供する前のソースの味見や皿に盛られた料理の最終確認をする役どころです。実際に厨房で料理を作るのは、2番手シェフである“スーシェフ”とその下のスタッフたちです。スーシェフは、すべての料理の責任者で、現場のトップ。前菜からメインまですべての指揮をとり、スタッフに指示をします」(フレンチレストランに勤務するシェフ)

 ホールのスタッフとも密にコミュニケーションをとり、急なメニュー変更など、さまざまなハプニングに臨機応変に対応。頭の回転が速く、精神的にもタフでなければ、スーシェフというポジションは務まらないのだそう。

 オーダーが入り、尾花がフランス語で部下に指示を出すシーンは「緊張感がリアル」と話題に。実際のシェフの世界でも、会話はすべてフランス語だ。

「私のいた店も、オーダーコールや伝票、料理の指示などはすべてフランス語でした。野菜や肉の切り方がたくさんあって、それぞれにフランス語の専門用語が割り当てられていますから、そのほうが効率がいいんです」(花本さん)

 近年はフランスで日本人シェフが大活躍しているが、そこに至るまでには長い道のりがある。

見習いが終わると、通常は前菜やパティシエを担当させてもらえるのですが、それはすべてに共通する“正確さ”や基礎的な工程を学ぶことができるからです。前菜やデザートは特に、具材や調味料の分量が絶対になってきますし、時間に余裕をもって作ることができる分野なんです」(前出・フレンチレストランに勤務するシェフ)

 器用さと努力、そして繊細さも必要だ。

まだ新人のころ、仕事を早く覚えたいという一心だったので、まかないの時間も惜しいと感じて、かき込むように食べていたんです。そしたらシェフから呼ばれて“それじゃダメだ。もっとエレガントに食べなさい”と怒られました。日常的な所作や言葉遣いといった人間性は、作る料理に出ると言われたんです。それ以降は、テーブルにクロスをかけて、スタッフみんなのコーヒーを用意して、というように日常的にも丁寧な所作を心がけましたね」(別のフレンチレストランに勤務するシェフ、以下同)

ミシュラン独自の5つの基準

 ステップアップのために店を渡り歩くこともある。

「ほかのレストランや、より格上の店に挑戦することはよくあります。そうやって実力をつけていくので、オーナーや先輩シェフも特に止めたりはしません。上司に『パピエ』と呼ばれる、履歴書のような推薦状を書いてもらって、それを持ってほかの店に移ることがありますね」

 まさに“厨房は闘いの場”─。ミシュランの星を獲得するのは容易ではない。

「星の基準は、一ツ星が近くに訪れたら食べる価値のある優れた料理。二ツ星は、遠回りしてでも食べる価値のある優れた料理。三ツ星は、食べるために旅行する価値のある卓越した料理です。ミシュランは料理が美味しいだけではダメで、独自の5つの評価基準(素材の質、料理技術の高さ、独創性、価値に見合った価格、常に安定した料理全体の一貫性)を満たさなくては、星を与えてはくれません

 星の数が増えるほど、選考基準のハードルも上がっていく。

雇われシェフなら技術力やマネージメントが伴えば可能だと思いますが、オーナーシェフとして三ツ星をとるとなると、かなり難しいと思います。ワインや内装、備品に至るまで最高の品質が求められるので、資金面のハードルも高いといえます」(花本さん)

 華やかな一方で、厳しい競争が繰り広げられるフレンチシェフの世界。次回から、ドラマを見る目線がひと味違ってくるかも!?