近年、増え続ける梅毒、性器ヘルペス……若者だけでなく、ミドルからシニア世代の女性もご注意あれ! 主な性感染症は女性のほうが感染・発症しやすく、生涯にわたってウイルスが潜伏し再発を繰り返すものも。その原因と対策とは──。
梅毒が再ブレイク中
性感染症とは、以前は「性病」と呼ばれた梅毒や林菌感染症など性交渉によってうつる病気のこと。
「ミドルやシニア世代も油断は禁物です!」と、プライベートケアクリニック東京院長の尾上泰彦先生。
「梅毒は2011年以降、増加し、現在ブレイク中、性器ヘルペスも増加傾向にあります」(尾上先生 以下同)
厚生労働省の調べによると、梅毒患者の報告数は若い女性だけでなく60歳以上でも増えている。
「妊娠の可能性がないからといって、コンドームを使わないなど予防対策を怠ると感染の危険が高まります。また、口や肛門を使ったオーラルセックスにより、性器以外に感染することもあります」
さらに、セックスがごぶさただからと油断してはならない。知らないうちに感染していることもあるのだ。
「潜伏期間が長いものや1度ウイルスに感染すると再発を繰り返すものもあります。また、便座などから感染することもあるので注意が必要です」
性感染症は知らないことだらけ! 先生に詳しく教えてもらいました。
気をつけたい性感染症1『性器ヘルペス』
ヘルペスというと、口のまわりに痛いボツボツができる病気を想像……。
「性器ヘルペスは、口唇ヘルペスの仲間です。女性では性器クラミジアに続いて多いメジャーな病気で、単純ヘルペスウイルスというウイルスに感染することで起こります。口唇ヘルペスは主に1型、性器ヘルペスは主に2型のウイルスです」(尾上泰彦先生、以下同)
2012年のWHO(世界保健機構)の調査では、14歳~49歳の年齢層において11%がヘルペスウイルス2型に感染していると推定され、女性は男性の2倍近く発症しやすいとしている。
「性器ヘルペスの症状は、性器やその周囲に痛みやかゆみを伴う小さな水ぶくれができ、発熱などの症状が出ます。性器の左右対称に水ぶくれが破れてただれができるので、排尿するときに痛み、脚の付け根にも痛みや腫れが起こり、歩くのがつらくなることもあります」
主にセックスでウイルスに感染し、潜伏期間は2日~10日。症状が出ずに、そのまま潜伏するものもあるという。
「単純ヘルペスウイルスの特徴は神経節に潜伏することです。1型は主に三叉神経節、2型は仙骨神経節に潜伏します。そのため、排尿障害や便秘など末梢神経障害や強い頭痛など神経に関わる症状を伴うこともあります」
症状が進んで、尿意を感じなくなるエルスバーグ症候群(神経因性膀胱)になると、排尿ができなくなったりするため、入院してカテーテルの挿入が必要となるケースもある。このような神経症状は男性に出ることは少なく、女性が圧倒的に多いという。
さらに、やっかいなのは神経症状だけでなく、再発を伴うこと。
「単純ヘルペスウイルスを薬で死滅させることは難しく、1度、感染すると生涯にわたり潜伏します。健康なときは、ウイルスは免疫で抑えられて活動ができませんが、疲労やストレスで免疫が低下したときに再発します。月経やセックスもストレスになり、再発の原因になることもあります」
毎月、再発を繰り返し、生活に支障が出ることもあるという。しかも、再発時の症状は女性のほうが強く出る傾向があるというのだ。
「夫に先立たれた女性の患者さんが“ダンナは財産を残してくれなかったけど、ヘルペスだけは残してくれて再発のたびに思い出す”と言っていました」
なぜ、女性のほうが発症しやすいのか?
「粘膜はウイルスが活動するのに適した環境で、外陰部や腟内など女性は男性に比べて粘膜部分が広範囲だからです。また、免疫能力を低下させる黄体ホルモンの影響で、排卵後や妊婦は感染しやすい状態になります」
女性は粘膜部分が多いことから感染もしやすい。とにかく感染しないことが重要だ。
便座やタオルから感染することも
単純ヘルペスウイルスは、感染している相手とのセックスが主な原因だが、病変が広範囲なためコンドームでは防ぎきれない。症状が出ていなくても、唾液や体液にウイルスが含まれていることがあるので注意が必要だ。
「男性の口唇ヘルペスのウイルスが、女性に感染することがあります。男性が乳房や性器をなめることで唾液を介して感染します。性器への感染は前述のとおりですが、乳房にも同じように痛みを伴う水ぶくれやただれが起こります」
性器ヘルペスの初感染の7割は1型で、唾液によるものだという。乳房の場合、性器ではないから性感染症ではないと油断していたり、経験の浅い医師にかかるとヘルペスを見逃してしまい感染を広めてしまう可能性もある。
「口唇ヘルペスが発症している男性とは、キスやオーラルセックスをしないことです」
さらに、
「ウイルスが付着した便座や湿ったタオルを介して感染することもあります。また、再発を繰り返すうちに肛門やお尻に水ぶくれができることが多くなり、便座にウイルスがつく可能性があります。
ウイルスがついた便座はアルコール(エタノール)で消毒するのがいいでしょう。清潔と乾燥を心がけることが大切です」
性器ヘルペスの主な治療は投薬。
「ウイルスが増えるのを抑える抗ヘルペスウイルス薬の飲み薬や塗り薬を使います。重症の場合は点滴を行うこともあります」
薬はできるだけ早く使い始めることが重要。症状を軽減し、治癒までの期間を短くすることにつながる。
「少しでも疑いのある症状が出たら、すぐに専門の医療機関にかかることが大切です」
また、再発には今年2月から保険適用のPITという新しい治療法が導入された。
「“お守り療法”と称しています。再発に限り、あらかじめ医師から薬を処方してもらい、前兆を感じたら飲むという方法です。
これまでは、症状が出てから医療機関にかかり、薬を処方してもらわなくてはならなかったものが、早期に薬を飲むことで発症を抑えることが期待できます」
再発を何回も繰り返している人の中には、発症の前に性器や下半身に違和感や不快感、痛みなどの前兆を感じることがあるという。
「前兆を感じたら6時間以内に服用すれば、重症化を防げます。すぐに病院に行くことができないときや旅行先などで薬を持っていれば安心できる“お守り”になります」
性器ヘルペスは、とにかく感染しないことが第一。もしも感染してしまったら、ほかへうつさないこと、専門の医師に適切な治療を受けることが重要だ。
気をつけたい性感染症2 尖圭コンジローマ
ヒトパピローマウイルス(HPV)が皮膚や粘膜の微小な傷から感染し、発症する病気。
「性器や肛門に、先のとがった小さなイボがたくさんできて鶏のトサカ状やカリフラワー状に成長します。外用薬や外科的治療などでイボを取っても、HPVは表皮の最も深い基底細胞に存在し、免疫力が低下すると再発しやすくなります。
治療は外用薬や外科的治療ですがウイルスを根絶する治療はないので、再発との闘いです」(尾上泰彦先生、以下同)
現在、180種類以上の遺伝子型が見つかっており、がんを引き起こす能力が高い「ハイリスク型」と、がんの心配が低い「低リスク型」がある。
尖圭コンジローマの原因となるのはほぼ低リスク型のHPV6型とHPV11型だが、ハイリスク型は子宮頸がんや陰茎がんの原因になることが多いため検査が必要だ。
「潜伏期間が3週間から8か月と長く、誰から感染したのか見極めが難しい性感染症です。また、痛みやかゆみがほとんどないので発見が遅れることもしばしばあります」
気をつけたい性感染症3 梅毒
2011年から増え続けている梅毒は、トレポネーマという菌に感染し、血液を介して全身に広がりさまざまな症状を引き起こす全身性の感染症。性行為やその類似行為で感染する。
「違う症状が出たり消えたりと梅毒は症状を変えてあらわれるため、“偽装の達人”と言われ、慣れない医師は診断が難しい性感染症です」
特に若い医師は、昔の病気というイメージがあり知識や診療経験が乏しいという。
「最初は硬いしこりのようなものが性器にでき、それが崩れて潰瘍になります。しかし、痛みがなく3週間~6週間で消えてしまいます。
これで治ったと思ったら大間違いで、脚の付け根のリンパ線が腫れますが、これも痛みがありません。最終的には全身に発疹ができて、鼻が欠けたり落ちたりします」
心臓、血管、脳などの複数の臓器に病変が生じ、場合によっては死亡に至ることもあるが、現在では、抗菌薬が有効なので早期に治療を行えば、命にかかわることはほとんどないという。
気をつけたい性感染症4 トリコモナス
「トリコモナス原虫によるポピュラーな感染症で、女性の場合は主な感染部位は腟です。腟トリコモナスとは大きさが平均18マイクロメートルで洋梨のような形をした原虫で、3本~5本の鞭毛と波動膜を動かして活発に運動します」
典型的なのは、黄緑色の泡状のおりものが大量に出て、痛みやかゆみを伴う。
男性が感染した場合、トリコモナス原虫は前立腺や精嚢などにおとなしく潜んでいて症状があらわれにくいために、知らずにうつしてしまうことがある。
一方、性行為以外にも感染経路があるという。
「トリコモナス原虫は乾燥には極めて弱い反面、水中では活発で、かなり長い時間、感染力があります。そのため、かつては浴槽を介して家族内感染を引き起こすと考えられてきました。
浴槽のほかにも、下着・タオル・便器などに触れる機会があれば感染することが知られています。このことから、トリコモナスは幼児や性交の経験がない女性にも感染する可能性があると考えられます」
セックスがごぶさたでも感染に注意が必要。
性感染症の気になる疑問 Q&A
Q. 性器にかゆみや発疹ができた場合、性病科、婦人科、皮膚科、内科など、どこにかかればいいですか?
A. 通常は性病科、婦人科、皮膚科がよいでしょう。性病科は行きにくい雰囲気があるかもしれませんので、婦人科や皮膚科でもかまいません。ただ、性感染症に詳しい医師がオススメです。
性感染症について知識が深く、梅毒など診断が難しい病気も熱心に取り組んでいる医師が安心です。婦人科の場合、腟や子宮ばかり診てしまう傾向がありますが、クリトリスや外陰部に隠れた小さな病変も診てもらうといいでしょう。
性感染症の場合、乳房や口の中に感染するケースもあり、性器だけでなく感染する可能性がある部位まで診察する医師がいいと思います。
Q. 性感染症は、どのような診察や検査を行いますか?
A. まずは症状や性交渉の時期や有無など問診を行います。続いて、のど、顔面、胸腹部、脚、目の視診を行います。オーラルセックスにより、のどや顔面に症状が出ている場合があるからです。
また、顔面に体液がかかり目から鼻を通り、のどに症状が出ていることもあります。必要があれば、外陰部から腟までの内診や肛門を診ることもあります。
また、尿検査、遺伝子検査(クラミジア、淋菌)、おりもの顕微鏡検査(カンジダ、トリコモナス、細菌)、生殖器自己検体採取、咽頭検査(クラミジア、淋菌)、血液検査(HIV、梅毒、B型肝炎)などの検査を行います。
いずれもプライバシーは守られていますので、安心してください。
Q. パートナーや家族にうつさないようにするにはどうしたらいいですか?
A. 性感染症は体液に接触したり、粘膜同士の接触がなければ感染しませんから、日常生活ではうつりにくいと考えてかまいません。ただし、湿ったバスタオルは共有しないほうがいいでしょう。
お尻に症状が出ている場合は、便座に病原菌がつくことがあります。使用後は便座をエタノールで消毒しましょう。
Q. 性感染症は完治しますか?
A. 多くの性感染症は治りますが、なかには完治が難しいものもあります。性器ヘルペスや尖圭コンジローマなどウイルス性のものは、原因となるウイルスをすべて死滅させることは困難です。
体内に潜伏して、ストレスなどで再発を繰り返します。菌や原虫が原因のものは完治することが多いですが、治癒確認検査が必要です。性感染症と判明したら、必ずパートナーも検査しましょう。
たとえ症状がなくても、検査は必要です。自分だけ治しても再びセックスをすれば感染し、お互いが感染し続ける“ピンポン感染”となり、いつまでたっても治りません。
Q. 性感染症にかかったら治るまで控えたほうがいいことはありますか?
A. 症状が出ているときは、パートナーとのキスやセックス(オーラルセックスを含む)は控えましょう。クラミジア、淋菌感染症は治療後、2週間以降の治癒確認検査で確認したあと、健康なセックスをオススメしております。
性器ヘルペスや尖圭コンジローマは再発を繰り返すことが特徴ですから、専門医の指導が必要となります。銭湯、入浴は控える必要はありません。
Q. 性感染症は妊娠出産に影響はありますか?
A. クラミジア、淋菌感染症は卵管狭窄、不妊症、子宮外妊娠、骨盤内感染症、肝周囲炎につながることがあります。出産時に外陰部に性器ヘルペスや尖圭コンジローマがあれば子宮分娩は困難となり帝王切開をしなければなりません。
親から子に感染し、ヘルペス性脳炎や小児喉頭乳頭腫症の原因となることがあります。梅毒も先天梅毒児、死産につながる可能性があります。
Q. 陰毛の剃毛や外陰部のニオイについて教えてください。
A. 剃毛は、かゆみが特徴の毛ジラミ症の原因となるケジラミの寄生を防ぐことができます。ただし、ケジラミが陰毛以外にも寄生してる場合には、すべての体毛を剃ることは難しいため、あまりオススメはしていません。
腟内が細菌やトリコモナスに感染すると強いにおいや、おりものの異常が症状としてあります。その場合は、病院での診察をオススメします。
性器やその周囲を清潔に保つことがにおいをやわらげますが、診察の前は洗いすぎないように。性感染症の診断には、においやおりものが大切な要素だからです。
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デリケートゾーンを医学的に言うと外陰部。
「外陰部は性行為の主役を果たす部位で、他者と濃密に接触するため菌やウイルスなどの感染が起こりやすいところです。さらに、粘膜が多く高温多湿で、皮膚が薄く柔軟であるため、菌やウイルスが繁殖しやすい環境にあります」(尾上泰彦先生、以下同)
また、陰毛もケジラミなどの性感染症の病原体の棲み処となる。尿道、腟口があり、分泌物を排泄する腺など多様な器官が集中していることも感染症との関連性が高い。
「健康なときも感染症の症状が出ているときも、デリケートゾーンを清潔に保ちましょう。刺激の少ないボディソープや石けんをよく泡立てて、やさしく丁寧に洗うのがオススメです。
消毒薬が入っていたり、殺菌効果が高いものはデリケートゾーンに使うのはやめておきましょう」
また、排尿した後のトイレットペーパーの使い方も重要。
「吸水性のよいペーパーを使い、ふくのではなく、軽くあてる程度で十分です。横ふき、縦ふきはやめましょう」
さらにウォシュレットの使用にも注意が必要。
「ソフトな水圧で使いましょう。水圧が強いと粘膜に微小な傷が発症し、菌やウイルスが感染しやすくなります。また腟と肛門に存在する大腸菌などの細菌が尿道に侵入し膀胱炎になる可能性もあります」
家のウォシュレットは、ノズルの掃除をまめに行い、衛生管理を徹底しておくことも大切。
「なるべく外出先でウォシュレットは使わないほうがいいでしょう。タンクの内壁に細菌膜が存在してる可能性が高いという報告もあります」
また、外陰部を観察することも性感染症の早期発見につながる。
「女性は男性と違って自分の外陰部を観察できません。オススメは四面鏡を使って、縦方向にして外陰部、肛門部に発疹があったりイボができていたりなど異常がないかどうか確認しましょう。四面鏡は1000円~3000円で購入できます」
異常が見つかったら、早めに医療機関を受診しよう。
実録!性感染症を体験した女性たち
《トリコモナスに感染したのは温泉かも?》
ダンナとは10年以上ごぶさただし、ほかの男性とも性交渉はないし、まさか性感染症になるとは夢にも思っていませんでした。
昨年末、友人と日帰り温泉に行った数日後、いきなりデリケートゾーンのかゆみで朝、目覚め、その後2、3日かゆくてかゆくて……。黄色っぽいおりものが止まりませんでした。
ついに、かきすぎて血が出てしまい、これはもうだめだと婦人科へ行って検査したところ、トリコモナスに感染していました。体温くらいのぬる湯にはトリコモナスがいる可能性が否定できないと。
そういえば、ぬる湯に2時間くらい浸かっていました。薬を飲んですぐに治りましたが、年末だったので、このまま新年を迎えることになったらどうしよう、とヒヤヒヤでした。(50代、パート主婦)
《婦人科検診で尖圭コンジローマを発見》
自治体の婦人科検診の対象年齢だったので久しぶりに受診したら、腟にイボのようなものがあり、それが尖圭コンジローマというものでした。
かゆみや痛みなど何の症状もなかったので驚きました。薬ですぐに治るかと思っていたら、腟内にある尖圭コンジローマは子宮頸がんの前段階の可能性があるということで、検査に回されました。
幸い、子宮頸がんではなかったのですが、手術でイボをとることになりました。40代後半ですでに生理がなくなったので、ダンナとはコンドームをつけなかったのがよくなかったのかも……。
それよりも、ダンナがどこからかウイルスを持ってきて、自分がこんな目に遭ったのかと思うと腹立たしくてしかたありません!(40代、専業主婦)
《性器ヘルペスで尿が出なくなり緊急入院!》
1週間前に彼とセックスをしてデリケートゾーンにかゆみと痛みが出たので、何かうつされたかも、と嫌な予感がしました。その後、熱が38度になり、脚の付け根も痛くなってきたので婦人科を受診しました。
すると、やはり性感染症の性器ヘルペスということで、抗ウイルス剤を処方され服用しました。これで治るかと思ったら、翌日おしっこが出なくなり、これはおかしいと性感染症の専門クリニックへ行きました。
ところが、全身状態が悪いと大きな総合病院へ緊急入院となりました。ベッドに寝たきりでカテーテルで尿を出すという、さんざんな目に……。性器ヘルペスは再発すると聞き、これからの生活が不安です。(30代、会社員)
(取材・文/山崎ますみ)
●おのえ・やすひこ。医師。プライベートケアクリニック東京院長。日本性感染症学会功労会員。梅毒、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、淋病・クラミジア咽頭感染等性感染症全般の専門家。著書『アトラスでみる外陰部疾患プライベートパーツの診かた』(学研メデイカル秀潤社)ほか