毎日のように誰かが“炎上”しては、メディアも世間も騒ぎ立てる今日このごろ。炎上するのは著名人だけでなく、SNSなどを発端として“素人”もやり玉に挙げられることが大いにあり得る。ふとしたことがきっかけで、瞬く間に叩かれてしまった女性たちについて、コラムニストの辛酸なめ子さんに論じてもらった。
「ビッチを具現化したような女」
江戸時代、火事が発生すると野次馬が集まり、その火事見物の人を目当てにそば屋の出店まで出たそうです。なんておぞましい……と思うかもしれませんが、現代でもネットという場所に移っただけで、人々のダークな習性は変わっておりません。安全な場所から炎上を見物し、かわいそうがって優越感に浸ったり、嘲笑ったり、縁もゆかりもない他人に嫌悪感を抱いたり……。
その炎上の火種になるのは有名人に限りません。SNSが普及した今は誰でも炎上するリスクがあります。ネット史を振り返り、ちょっとした気のゆるみや悪のささやきで人生が詰んでしまった女性たちについて思い返し、改めて教訓としたいです。
もはや14年も前ですが、2005年の当時はネットリテラシー的な感覚も薄かったようです。ネイサンズのホットドッグを移動販売していたアルバイトの女子大生が、オタについて「きんもーっ☆」「恐い! きもい!」と侮蔑的なコメントを綴ったことで怒りを買い、あっという間に個人特定され炎上。それとは直接関係ないかもしれませんがネイサンズは2008年に日本撤退……。オタの恨みは怖いことも世に知らしめました。
店員が客をディスったり個人情報をバラす炎上事例はときどき発生しています。インターネットが世界につながっていることを忘れて、周りの友人10人くらいに報告する感覚で投稿してしまっているのでしょう。
2011年、アディダスの女性新入社員が契約スポーツ選手の連れの女性を「ビッチを具現化したような女」と、かなりえげつない表現をして問題になりました。アディダスジャパンは選手とチームに謝罪。また、りそな銀行行員の母が娘に、来店した芸能人の個人情報を漏らし、娘がツイートしたという、親子そろって口が軽かった事例もありました。
「関ジャニ∞大倉忠義さん りそな銀行中目黒支店ご来店」「住所はざっくりとはさっき電話で教えてもらったし」といったツイートが銀行業界を揺るがしました。母親は西島秀俊の免許証の顔写真もコピーしていたそうです。本来、銀行で働いてはいけなかった人が、娘の愚行のおかげで明るみに出た、というとらえ方もできます。
有名人絡みの炎上では記憶に新しいのが、2018年のNEWSメンバーが未成年の女性に飲酒をさせた問題。コールで名前を呼ばれたり、かなり親しいことが音声から伝わりました。ジャニーズファンの諜報機関並みの情報収集力で、女子大生の名前やプロフィール、顔写真が特定されました。
その女子大生は嫉妬の念にもひるまず、インスタのストーリーで「自業自得? は? 元は私のせいじゃないよね」などと挑発。本当は玉森のファンで、彼に近づくためにNEWSとつながりを持ったという噂もささやかれ、ますます嫉妬の炎が炎上しました。
AKB系やジャニーズなど、熱狂的なファンを持つアイドルについて下手なことを書いたり挑発やにおわせをすると、烈火の勢いで炎上してしまいます。サッカーなどファンが熱いスポーツも危険です。炎上したくない人は、これらの話題には下手にSNSで触れないことがおすすめです。
STAP細胞にまつげ美容液が勝利
一般の人と有名人との境目で炎上してしまう人々もいます。例えば2014年に「STAP現象」を発表して、理系女子の星として一躍話題になった小保方晴子さん。その後、割烹着の新品説を含め、論文の捏造などさまざまな疑惑が指摘され、恩師が自殺したり、栄誉から一転奈落の底に……。
小説『あの日』や、『小保方晴子日記』は涙と戦慄なくしては読めません。『小保方晴子日記』を拝読すると、とにかく自分は悲劇のヒロインで、周りの人はすべて悪者というスタンスでしたが……。かまってほしい心の叫びが行間から聞こえます。
でも、小保方さんはどん底でも女子力をキープ。本の中でまつげ美容液の効果に驚く記述があり、STAP細胞にまつげ美容液が勝った瞬間を見ました。久しぶりに表舞台に出てきたときはグッチのワンピースを着用したり、タフさには尊敬の念を抱いてしまいます。
タフといえば「痛快!ビッグダディ」に出演しビッグダディとのスリリングなケンカシーンが印象的だった元妻、美奈子さんもたびたび炎上しています。本格的すぎる背中のタトゥーを公開したり、バスの運転手と再婚しドキュメンタリーを放映したり、話題が途切れません。8人もお子さんがいるので炎上もブログの集客につながると思えば割り切れそうです。「炎上ブログは金になる」は、新山千春さんの名言です。
有名人の家族系では、最近勃発した木下優樹菜さんの姉のタピオカ屋騒動も、今後の動向が注目されます。どんな人なのか検索したら、妹に劣らず貫禄漂うヤンキー系で、この人とはもめたくないな、と思わせられました。一般人が炎上した場合、人はつい顔写真などデータを探したくなってしまいます。顔を見て、ああ、こういう人はこんなこと言いそうだな、調子に乗りそうなタイプだな、とか自分の中でジャッジし納得したい心理が働くのでしょう。
有名洋楽歌手のブルーノ・マーズが来日公演中、その姿をバックに自撮りしてキレられたモデル女子たちの事件は、世の人々の嫉妬と怒りを買いました。最前列の招待席でアーティストに背を向けて撮影。ブルーノ・マーズを自分たちの映え写真の要素として利用し、インスタにアップした行為には、承認欲求や自己愛が渦巻いています。
ブルーノ・マーズが怒ってタオルを投げたとも伝えられ、ファンはいたたまれない気持ちに。華やかなリア充ぶりを自慢していると、何かのきっかけですぐ炎上してしまいます。ふだんから、人をうらやましがらせたい、という動機でSNSを更新していると危険です。
日本人は繊細で鋭い感覚を持っているので、人の言動からにじみ出る過度の承認欲求や自己顕示欲などに敏感です。SNSを使うときは、細心の注意を払って誰も挑発しないように心がけるのがおすすめです。もしくはふだんから人徳を積めば炎上しにくくなります(個人的には、火難よけのお守りも効果あるような気が)。
世の中にフラストレーションがたまっているため、すぐ炎上する窮屈な時代になってしまいましたが、他人の炎上事件をただ見物して楽しむのではなく、自分の戒めとできれば平和が訪れるかもしれません。
何より、炎上の刺激を求めないようなピースフルな心になるのがベストだと思います。
(文/辛酸なめ子)
辛酸なめ子 ◎漫画家、コラムニスト。1974年、東京都生まれ、埼玉県育ち。主な著書に『女子校育ち』『サバイバル女道』などがある