「私の意に沿わない放送をされることはしょっちゅうなんですよ」
そう熱弁するのは、元棋士の桐谷(きりたに)広人(ひろと)さんだ。関ジャニ∞の村上信五とマツコ・デラックスがMCを務める人気バラエティー番組『月曜から夜ふかし』(以下、『夜ふかし』)への出演で人気を博していたが、10月14日に放送された2時間スペシャルは、およそ1年ぶりの登場だった。
「実は、番組スタッフと絶交状態だったので、出演オファーをずっと断っていました」
約900社3億円以上の株を保有し、“株主優待だけで生活する人物”として『夜ふかし』に初出演したのは12年ごろだが、その少し前からテレビ出演をしていた。きっかけを作ったのは、投資家の深田萌絵さん。
「彼女が毎日放送の『カンニング竹山の銭ナール』に出演していて、そこに出てくれないかと言われたんです。まぁ、しぶしぶ出演したのですが、竹山さんは私をすごく褒めてくれました。“私の事務所に入らないか? 桐谷さんは有名になれるから”とも言ってくれて。そのときは芸能人になるつもりがなかったので断ったんですけど、芸能事務所に入るのは狭き門なんだと後で知りましたね」
桐谷さんのスター性を見抜いた竹山から、たびたびテレビ出演の依頼が来ていたが、
「中居正広さんがMCを務めるフジテレビ系の『うもれびと』という番組に出てくれと言われていたんですが、断っていたんです。すると、ある日、テレビ局から連絡があって、“忙しい中居さんと竹山さんがわざわざスケジュールを作っている。あの中居さんが待っているんだから来て!”と怒られました。まぁ、そこまで言われたら出ようかと」
“ウチにも出てほしい”と頼み込まれ──
次にオファーが来たのは、『笑っていいとも!』。これも3か月ほどは出演を断っていたという。
「番組を見てみると、出演者がみんな笑ったり、踊ったりしてるんですよ。そのころ、株で大損して暗い人間になっていた私には絶対無理だなと思っていました」
だが、懇願されると断りきれない桐谷さん。結局、『いいとも』の出演も決めてしまう。
「事前に履歴書を書かされたんですけど、そこに“株式投資を始めたこと”とか“大失恋のこと”とかを記入したんです。それで生放送のスタジオに行くと、ナレーションがいきなり“失恋をきっかけに株式投資を始めた”とか言い出して……。思いがけない展開でしたね。そこに、千原ジュニアという人がいてね、“失恋相手はどんな人でしたか”って聞いてくるんですよ。それはとんでもなく私が騙された恋愛話なんですけど、“年上で水商売の人です”と答えたら会場にドッと笑いが起きて。
そしたら、その千原ジュニアが女性の話ばっかり聞いてくるんですよ。本当はVTRも作っていて、“株主優待でたくさん贈られてきたら困るモノは……お米”とかクイズを用意していて、爆笑問題さんとかに質問する予定でした。でも、この千原ジュニアのせいで女性の話ばっかりになっちゃったんですよ」
この放送が評判となって、『夜ふかし』への縁がつながっていく──。
「『いいとも』を見ていた『夜ふかし』のスタッフから“うちにも出てほしい”と連絡が来ました。それで頼みこまれて、まぁ1回ぐらい、いいかなぁという気持ちになったんです」
だが、最初から『夜ふかし』とはモメていたという。
「ギャラがいくらなのかを確認しないまま、何度もスタッフと打ち合わせを重ねました。そしたら、撮影前日に日テレの経理から電話があり、“明日のギャラは1万円だ”と言うんです。“終日撮影で1万円なんて冗談じゃない!”と言うと、“では2万円にします”と言われて」
金額的に納得していなかった桐谷さんは“明日来ても帰ってもらいますから!”と伝えたという。すると翌日に、
「チャイムが鳴って玄関に行くと、菓子折りと現金10万円を持ったスタッフがいて“これでお願いします~”と、深々と頭を下げるんです。1万円が10万円になったら、ヤル気が出ましたね(笑)」
彼の独特なキャラクターと、60代とは思えない猛スピードで自転車をこぐ姿が話題に。
『夜ふかし』はこんなことを言い出してきたという。
「“今後は他番組への出演はすべて禁止”と言われました。さらには、雑誌の取材を受けても“私と自転車が一緒に映った写真はダメ”とか。私の書籍が回収騒ぎになるほど、厳しかったんです」
“ドジなシーン”以外は全カット
すっかり人気者となった桐谷さんに、日本将棋連盟から“桐谷さんのうちわを作りたい”という依頼も来たが、
「せっかく言ってくれたけど、私と自転車が映っている写真が使えないとなると売れないから止めようと。そうしたら連盟の役員が“顔写真だけでもいいから作らせてほしい”と言ってきたんです。その心意気に感動して、『夜ふかし』とは絶交しようと。これが1回目ですね」
すると、喫茶店で『夜ふかし』との話し合いが行われ、日本将棋連盟のイベントを『夜ふかし』で放送するということで手打ちに。だが、それでも規制は緩まなかった。
「“講演会なら自転車に乗ってもいいですよね?”と聞くと、すぐに“ダメだ!”と返事が来ました。これでまた絶交しちゃいました」
再び、喫茶店で話し合いが行われた。
「なぜ、そこまで規制されなければならないのかと聞くと、“メディアに消費されてしまう。桐谷さんには息の長い芸能人になってほしい”なんて言うんですよ。私は当時すでに63歳(笑)。別にずっと芸能界にいるつもりはないと伝えると、“まぁまぁ”と諭されましたけど」
絶交2回で規制はなくなったが、出演を重ねるたびに、スタッフへの不満が募っていった。
「私がドジをしたシーンばかり放送するんですよ。壁をよじ登るスポーツ『ボルダリング』をやらされたことがあったんですけど、私はスイスイできちゃったんです。そしたらどんどん難易度の高いコースをやらされて……。でも、全部クリアしましたよ。ジムの人も“すごい、最年長記録ですよ!”って褒めてくれたんですけど、放送を見たら全カット。スタッフに詰め寄ったら“桐谷さんのドジなところを撮りたかった。だからボツです”と悪びれもせずに言われました」
例の自転車で颯爽と走るシーンにも不満がポロリ。
「スタッフらはロケバスに乗っていて、私は必死で自転車こいでるんです。それで、“ハイ、立ちこぎして!”とか指示を出してくる。彼らはバスの中でサンドイッチを食べてくつろいだりして、みんな遊んでるだけなんですよ!」
2部屋分の家賃を払わされるハメに
ロケ日数を突然、増やされてキレたことも。
「ニューヨークでロケをしようと提案されて、私も忙しいので“拘束4日間ならOK”と言ったのに、いざスケジュールが来たら8日間になっていた。私が怒って“もうヤメだ、スタッフが遊びたいだけでしょ!”と伝えると、“ハイ、そのとおりです”と開き直って……。
それで話し合いになって、“ロケ日数は7日間”“好きな食べものをおごる”という条件を出されました。なので、リーマンショック以降、お金がなくて何年も行けなかった『かに道楽』でカニをごちそうになりました。ニューヨークも行ってみたら、楽しかったんですけどね」
いちばんの大ゲンカとなったのが、昨年10月の放送内容だった。
「3年前に引っ越しして、いまだ未開封の段ボールが150箱もある状態なのに、スタッフが“引っ越し企画”をどうしてもやりたいと言って聞かないんです。結局、無理やり引っ越ししたもんだから、新居にネット環境が整備できず、何もなくなった前のアパートの部屋で仕事をしていた。その間は、2つ分の家賃を払っていたんですよ」
決定的だったのが、スタッフが用意した台本に書かれていた“ひと言”だった。
「私は学生時代、いつも寝るときに猫を抱いていたほどの“猫好き”なんでけど、ひとり暮らしだから飼えるわけがないんです。でも、スタッフは“猫を飼え”としつこくて。そこで、ペットショップへ撮影に行って、彼らの台本どおりに“いちばん安い猫はどれですか?”と発言したら、ネットで大炎上。愛猫家からたくさん批判を受けました。私は猫を飼うとしても、ペットショップで買うつもりはまったくなかったのに」
さらには、スタッフが買ってきた3000円の猫のぬぐるみを渡されて、
「ずっと抱いたまま、何日も撮影をさせられました……。マンションのベランダで猫のぬいぐるみを抱いて空を見るシーンも撮ったんですけど、これもすごい叩かれて。私もスタッフも知らなかったんですけど、マンションのベランダに猫を出すのって“ご法度”なんですってね」
この一件で、桐谷さんは『夜ふかし』の打ち上げにも食事会にも参加せず、完全な絶縁状態となっていた。だが、頭を下げられると、なんだかんだ許してしまうようで……。
「結局、23年前からファンになってる演歌歌手の山口かおるさんと共演ができるなら、まぁ出演してもいいかなと」
23年ぶりに再会した彼女に、いきなり“結婚しよう”と言ってしまったという。
「どうも彼女の色気に惑わされちゃったのかな~。でも、23年前にひと目ぼれした女性と再会したもんだから運命というかね……。かおるさんの歌に『最後の恋人』というのがありますが、私も70歳ですから最後の恋かなと思っていまして」
桐谷さんにとって、彼女は特別な存在のようだ。
「彼女には現金でぶどうを買って送ったんですよ。ポスターを7枚もいただいていたので、お礼をしたかったんです。私は今まで株主優待で得た金券を使った贈り物しかしたことがなかった。現金を使わない私に、初めて現金を使わせたのが彼女なんです。うちの親戚が経営するブドウ園に足を運んで、いちばん高いぶどうを選びましたよ」
『夜ふかし』の“善意”
『夜ふかし』では、“松たか子好き”として知られていたが、
「昔ね、かわいい動物を見ると仕事の作業効率が上がるって聞いたんで、それなら私は人間の美女を見るのがいいんじゃないかと。それで、『ヤマザキ 春のパンまつり』の松たか子さんの写真がキレイだから集めていました。それで、私が好きということで彼女との対談の話もあったんですが、実は断ったんです。彼女はもう奥さんだし、背が高いしね。対談しても親しくなる可能性はない。先が見えないので」
現実的に考えて、独身の山口さんへの思いを募らせたのだろう──。彼女との共演を果たした今回の放送については、
「かなり満足のいく出来映えでした。番組側も頑張ってくれたなと思っているんです」
昨今、やらせが発覚して打ち切りになる番組が続出しているが、『夜ふかし』はほぼガチだという桐谷さん。
「道でコケたり、海鮮丼のワサビが辛くて涙が出たり……。私のドジって、すべてやらせじゃない。ほかにも、携帯で話している女性が写った大きなポスターの前に、私が自転車で停まって、たまたま同じポーズをとったことがありました。これも本当に偶然なんです。あと、自転車で走行中に携帯が鳴ったと思って電話に出たら、近くにいた赤ちゃん連れの母親の携帯が鳴っていて彼女と私の動きがシンクロした。これも偶然。だって1週間ずっと撮りっぱなしで、偶然の一瞬としてとらえたものを20分間にまとめているんですから。ガチなんですよ」
今回の放送には『夜ふかし』スタッフの温情も感じたという。山口さんとのボーリングのシーンで、
「私は基本、ノーミスなんですが、それができなかったのが悔しくて。すると放送で私のスコアを映さなかった。初めて『夜ふかし』スタッフのやさしさを感じましたね。ネットで《桐谷さん》を検索すると、《ボーリングうまい》って出てくるんですよ。だからスコアを晒されたら本当に恥ずかしいことで……。スタッフが勘弁してくれたんですよね」
さらには感謝の言葉もこぼれ出た──。
「今は1週間のロケでギャラが30万円。一時は60万円になったこともありました。でも、お金だけじゃない部分も大きい。何回も絶交して、『夜ふかし』に説得されて復縁のパターンでしたけど、今があるのは彼らのおかげとも言えますよね。私の講演料も最初は10万円でしたがすぐに20万、30万円になりましたから。講演会にたくさんの人が集まってくれるのも『夜ふかし』を見てくれた人がほとんどかもしれませんしね」
桐谷さんと『夜ふかし』にケンカが絶えないのも、仲のよい証拠。MCの2人も、たまには桐谷さんのグチに付き合ってあげて!