40万部を超えるベストセラー『妻のトリセツ』の著者、人工知能研究者で脳科学コメンテーターの黒川伊保子さんが、待望の『夫のトリセツ』を出版。妻の「なんで、うちの夫はこうなの!?」を徹底解説、夫婦円満のための夫取り扱いを伝授―。

40万部を超えるベストセラー『妻のトリセツ』の著者が夫婦円満のための夫取り扱いを伝授 イラスト/サトウヨーコ

 結婚生活35年を経て、今や戦友であり、執事とさえいえるまで、夫を立派に育て上げた黒川さん。そんな黒川さんの夫も最初は、「豚小間肉200g買ってきて」と買い物をお願いすればパック詰めの豚小間肉が200gぴったりに表記されていないから「どれを買えばいいかわからない」と泣きが入り、ア然としたとか。

 その後は、おつかいのたびにメモを渡して教育。200gの許容範囲である190g~240gの豚小間肉を買えるように成長したそう。

「豚小間肉200g買ってきて」という簡単な買い物さえできない夫 イラスト/サトウヨーコ

 そもそもなぜ、夫はこんな簡単な買い物さえできないのか?

「男性の脳は外で敵と闘って問題解決し、狩りで成果をあげるようにできていて、家の中で働くようにはできていないからです」(黒川さん、以下同)

原因は男女での“脳の違い”

 女性の脳は、いろいろなことを同時並行でこなせるマルチタスク。半径3m以内に神経を配り、子どもを育てるようにできている。例えば、仕事の手を休めることなく、夕飯の献立を考えたり、朝、子どもが傘を持って学校に出かけたか心配したりできる。

 それに対して、男性の脳は、ひとつのことに集中して完璧にやり遂げようとする、シングルタスクだという。

 車の運転や本棚の組み立てはうまくても、複数の家事を同時にこなすことはできないため、妻たちの「なんでそんなこともできないの!?」という怒りを買うことになる。

 しかも、目の前の妻が家事や育児にテンテコ舞いしていても、察して手を貸すこともない。こうした夫の態度にも「気がきかない!」と、妻の神経は逆なでされる。

「これは愛情がなくなったわけでも、意地悪をしているわけでもないんです。ただ、女性の動きと男性の動きでは違うため、脳が認識できないだけなのです」

 女性と男性では、所作(動作)が異なるため、例えば、鎖骨の使い方も違う。胸骨と肩甲骨をつなぎ、腕を支える鎖骨は、横にスライドする動きと、縦に回転する動きがある。

 物をとるとき、女性は鎖骨をスライドさせ、自然と流れるようなワンアクションに、男性は鎖骨を回転させて物をつかみ、その回転を戻すツーアクションになる。

 ワンアクションの妻はツーアクションの夫を認識しやすいが、逆に夫は妻の所作が認知できないという。

根気良く口に出すことが大事 

 夫の無神経さが男性脳のなせるわざだということを理解できたからといって、あきらめるしかないのか?

「私は“キャンペーン”と“パニック”作戦を繰り返すことで、夫の家事分担を少しずつ増やしていきました」

 “キャンペーン”とは、自分が今日やるべきことを夫に知らしめること。

“キャンペーン”と“パニック”作戦を繰り返し、夫の家事分担を増やしてきた イラスト/サトウヨーコ

「今日は洗濯して干して、お昼ご飯を作って、床もワックスがけして、それが乾く間にベランダを掃除して、買い物して、夕飯のギョーザも作らなきゃ! よし! 頑張ろ!!」

 押しつけるのではなく、あくまで自分で確認、点呼しているという体で言うのがポイント。そうすることで、認識できていなかった妻の家事が、どれだけ多いのか気づくようになる。

 さらに、バタバタしながら「あれして、これして、もう家を出ないといけないのに、あーっ、洗濯物干す暇ないーッ!!」と、“パニック”を起こす。妻の混乱した状況を目の当たりにした夫も人の子、鬼ではないはずだから、「じゃあ、洗濯物は干しておいてあげるよ」となればしめたもの。

ただし、1度ではできません。何度も繰り返し口に出すことが大事。そして、(夫が)手を差しのべてくれたときには、褒めそやしてください。そうすれば、そのうち、洗濯物干しは夫がやるようになりますよ」

 そこまでじゃなくても、“ちょいと頼み”にスムーズに応えてくれるようになる。たくさんのタスクをしている妻から、「ゴミを捨てておいて」と言われれば比較的、素直に動けるものらしい。

 しかし、その作戦で何でもかんでも夫に家事を押しつければいい、というものでもない。男性は家事をすることで、女性の6倍のストレスを感じるという。“家事ができない=男らしさ”でもあるため、家事ができるように夫の脳の機能がシフトすると、男らしさが減少することにもなる。

「ジャングルで身を守ってくれなくても、会社で出世しなくても、本棚が組み立てられなくても、男の魅力がなくなってキスをしたくなくなっても、家事を分担してくれればいいと思うなら、そうすればいいのです。それは女性の選択であり、覚悟です」

 家事もしてほしいが、男らしさも失わないでほしいという欲張りな妻はどうしたらいいのか?

「どうしてもこれだけはしんどい、または、これなら夫の持ち味が生かせる、という家事を3つだけお願いしてみてください」

 例えば、翌日の弁当用のご飯を仕込む、皿洗い、シャンプーなどの在庫管理といった具合だ。

「または、育児で大変な時期や夫の定年退職時に家事分担を増やすなど、ライフステージによって、変えるという手もあります」

 男性ホルモンの一種「テストステロン」が出ている働き盛りの夫は、男性脳を強く使っているので、なかなか脳をシフトさせるのが難しい。また、妻も子育て中は女性ホルモンが出て女性脳を強く使っているため、この時期が夫婦間のギャップが、いちばん大きくなり、衝突しやすいのだとか。

夫ではなく“気のいい男友達”と思え

 だから、50代になってお互い生殖ホルモンが減少すれば、ギャップも小さくなり、自然とうまくいくという。

黒川伊保子さん

 そのときに、「定年退職後のルールを少しずつ決めたいの。これ、お願いね」と、1個ずつ提案していけばいいという。間違っても、「アナタ、仕事辞めたんだから、家事やってよね!!」とか、いきなり100のルールを押しつけたりしてはいけないそう。

 それでも、どうしても夫に愛想が尽きて、離婚したいと思ったら?

「経験上、言わせていただくと、夫じゃなくて、同居している“気のいい男友達”だと思ってみては? 家賃を出してくれて、風邪をひいたらドリンクを買ってきてくれる。“なんていい人!”って思えますから(笑)」

 夫の教育術をマスターしたら、さらに大事なことがあるという。

「夫が気がきかないのは、夫の母親の怠慢。“負の遺産”を未来の嫁に持ち越さないために、息子も教育してください!」

 夫が妻の話に共感したり、いたわったりできないのは、母親が教育しなかったため。母親は息子との会話で「それは大変だったね」と、共感できる会話力や、レディーファーストの振る舞いを教えるべきだという。

 本来、女性の脳は、ある男性の子どもを産み育てたら、本能的によりよい遺伝子を持つ次の男性を求めるようになるという。そのため、脳が目の前の男性が嫌になるよう、仕向けてくるという。

 このような本能を乗り越えて、築いてきた夫婦関係。男女の脳の違いを理解することで、パートナーシップはもっとうまくいくはず。

 夫を生かすも殺すも、妻のあなた次第です!


『夫のトリセツ』(黒川伊保子著/820円+税/講談社)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします

黒川伊保子さん(くろかわいほこ)

1959年生まれ。人工知能研究者。脳科学コメンテーター。感性アナリスト。随筆家。30年以上にわたり、AI(人工知能)開発に携わり、脳と言葉の研究を極める。著書に『女の機嫌の直し方』など多数

取材・文/小山内美貴子