世界保健機関(WHO)が発表している不妊症原因の統計では、女性側のみが41%、男女ともが24%、男性側のみが24%、原因不明が11%で、男女ともに原因があるケースを含めれば、不妊の約50%が男性に問題がある。
男性不妊症の診断は非常にシンプル
「男性不妊が認識され始めたのは1990年代以降。実は歴史的に見ると、海外のキリスト教社会でもかつて不妊症は女性が原因と思われていました。日本では過去に子どもを産めない女性を『石女』と書いて『うまずめ』と読むひどい差別用語がありましたが、もともとはキリスト教文化圏に語源があるんです」
そう語るのは泌尿器科医で男性不妊症を専門とする小堀善友先生。小堀先生によると、男性不妊症の診断自体は極めてシンプルだという。
「女性不妊症はホルモンや生理周期、卵管の通過状況など検査項目が多いのに対し、男性不妊症は精液検査で精子の数や運動能力を調べれば、ある程度わかります」
精液検査で男性不妊症と診断される人の80%以上が無精子症や精子の数や運動能力が不十分な造精機能障害、残る10%強が勃起機能不全症(ED)や射精障害に大別される。もっとも診断は比較的簡単ながらも、いざ治療となると難題が立ちはだかる。
「実は造精機能障害の半数以上は特発性といって原因がわかりません。あえて言えばいちばんの原因は加齢。いま現在、科学的根拠があるとされている対処法は、十分な睡眠や運動、適正体重の維持、禁煙、バランスのよい食生活、さらにはストレスの少ない生活を送るという平凡すぎることぐらいしかありません」
一方、造精機能障害でも、男性不妊の一因としてあげられる『精索静脈瘤』が原因なら、手術で改善が可能だ。
また、無精子症は、精巣で精子が作られているのに通り道が詰まっている『閉塞性無精子症』と、そもそも精子がうまく作れない『非閉塞性無精子症』に分けられるが、現在では麻酔をして精巣内の精細管を採取し、精子を分離する顕微鏡下精巣精子採取術という方法も登場している。
「この方法で精子が採取できる人は非閉塞性無精子症で3分の1程度。閉塞性無精子症の中にも最終的に非閉塞性無精子症だったとわかることもあり、100%精子が採取できるとはいえません」
射精障害が大きな問題のひとつ
一方で小堀先生が由々しき問題と口にするのが射精障害だ。
「射精障害で少なくないのが自慰行為で射精可能でもセックスで射精不可能なケース。その半数以上が勃起せずに床に押しつけて射精するなど不適切な自慰行為が原因です。特に若い人に多く、精子の質は悪くないのに男性不妊症なのです。
過去に約2000人の男性にアンケートを行ったことがありますが、布団や床などにこすって射精する人が10%弱いました。こうした人には自慰行為のときにペニスを何かに押しつけたり、強く握ったりしない『射精リハビリ』が必要になります」
だが、そもそもが小堀先生が述べたように、男性であっても加齢が精子の質を悪くするため、子どもが欲しいならば、早めの対処が必要だという。
「男女とも35歳を過ぎたら生殖機能上、妊娠に至りにくくなるため、子どもを望むなら早めの対処が必要になります。
男性不妊症については産婦人科で“男のプライド問題”と称することもありますが、もし不安を感じたら変なプライドにとらわれて逃げることなく、早めに精液検査を受けてもらいたいですね」
《PROFILE》
小堀善友先生 ◎獨協医科大学埼玉医療センターリプロダクションセンター准教授。泌尿器科医、医学博士。男性不妊症、勃起・射精障害、性感染症を専門とする。