10月12日に上陸し、多くの被害を生んだ台風19号。
「政府は台風19号の被害に対し、台風としては初めての“特定非常災害”を適用。災害救助法の適用となった自治体は14都県390市町村に及び、東日本大震災を超えて過去最大の適用となりました」(一般紙記者)
台風19号で最も人的な被害が大きかったのが福島県。死者は32人にものぼった。
「みんな食べ物で困っているのに、被災地ではない場所で自分たちがフードフェスを出店することに引っかかっていました」
そう話すのは、福島県二本松市に本店を置く『麺処 若武者』の店主・山本一平さん。同店は10月3日〜11月4日に東京都新宿区で開催された『大つけ麺博』に出店していたのだ。
「“こんなときにフードフェスをやっている場合なのかな?”という思いがあり、地元が被災するなか、罪悪感も感じていました」
とはいえ、急に出店を取りやめることもできない。
打ち上げのお店で遭遇
もやもやしながらイベントの初日を終え、その夜、スタッフと打ち上げとして焼き肉店に食事に行くと、そこには、「○○の宝石箱や〜」というフレーズでおなじみの“食レポの神様”彦摩呂の姿が。彼は、山本さんやスタッフの格好を見ると、
「お! フードフェスに出てるのかい?」
と、気さくに話しかけてきたという。
「彦摩呂さんは前に『ふくしまラーメンショー』のときにゲストでいらっしゃっていて。そのときにうちのラーメンを食べてもらったことがあるので、そのことを伝えました」(山本さん)
すると彦摩呂は当時の味を覚えていて、
「あのときのラーメンうまかったよ! 福島の食材、俺めっちゃ好きやねん! TOKIOほどじゃないけど、俺も福島県の仕事もらって“うまいい、うまい~”って言ってんだよね! 俺も福島の食材応援してるんだよ! 今回の台風の被害もひどかったなぁ。いわきでフードフェスの仕事があったんやけど中止になってしもうたんや」
と熱く語りかけてきたそうだ。
粋な心遣いに感動
地元の福島が被災しているなか、フードフェスに出店することについての葛藤を山本さんが彦摩呂に話すと、
「そんなこと言ったらあかんよ。きみにしかできないことがある。きみらが食べ物で笑顔にしてくれたら、その人たちが喜ぶんだから、それを被災者の人たちのために自粛というのはおかしい話だよ。地元の食材をPRしているのは素晴らしいことだから、胸を張ってどんどんやったらいいよ」
優しく言葉をかけられたという。それに対し山本さんは、
「熱くなりました。地元の人が炊き出しや泥かきなどをやっているなか、被災していないところでラーメンを提供することへのひっかかりがありましたが、モヤモヤが断ち切られて、迷いはなくなり、やれることをやろうと思いました。一本の芸で筋を通しながら生き残り、続けている人の重みを感じましたね」
彦摩呂は、去り際にも粋な姿を見せた。
「“大変だけどお互い頑張ろうな〜。少ないけど、ジュースでも飲んで”って『彦摩呂』と書かれたポチ袋をいただきました。帰って中身を見たら、ジュースなら100本くらい買えるくらいの金額が入っていて。お互いほとんど知らない、袖振り合ったくらいなのに、そこまで心遣いしてくれるなんて……。このお金はジュース代というよりは、地元で被災した人がいるので、義援金として役場に渡そうと思っています」(山本さん)
優しさの宝石箱や〜!