女優の沢尻エリカ(33)が逮捕された。11月16日、都内の自宅で違法薬物の合成麻薬MDMAを所持していたことについて、
「私のものに間違いない」
と容疑を認めたのち、「彼氏から預かった」と一部新聞が報じた。
エリカ様となるまでの“道のり”
覚せい剤と似た効果が得られるMDMAについては、'09年に起きた押尾学の事件を思い出す人もいるだろう。知人のホステスとこれを服用して性交を行い、女性は死亡。押尾は保護責任者遺棄の罪で懲役刑に服した。
そのとばっちりを受けたのが、当時、妻だった矢田亜希子だ。事件から5日後に離婚したものの、押尾との結婚で清純派のイメージが崩れ、かつてのような役柄ではなく悪女や犯罪者を演じることが多くなったように思う。
沢尻の場合、過去の振る舞いなどから清純派のイメージはなく、そこまで変わることはないだろうが、こちらは事件の当事者であるため、復帰への道は容易ではない。ただ、彼女はこれまでにいくつもの逆境を乗り越えてきた。まずは、'07年の「別に」騒動だ。
主演映画『クローズド・ノート』での舞台あいさつで不機嫌モードを貫き、質問にもまともに答えず、司会者をにらみつけたりしたことから、バッシングを浴びた。'05年の映画『パッチギ!』、ドラマ『1リットルの涙』(フジテレビ系)以来、よくも悪くも“エリカ様”などと言われ、順調だった女優人生に初めて訪れた挫折である。
'09年にはハイパーメディアクリエイターの高城剛と結婚したものの、所属事務所から契約を解除されてしまう。それでも翌年、個人事務所を設立。エステのCMに出演して、再注目された。
ただし、この事務所設立の際、メディアに対して沢尻の情報を正確に伝えることや、私生活を報じないことなど、6か条の誓約を強要したことでまた批判されることに。のちに彼女は「私のしたことではない。夫の考えです」と釈明し、その直後、離婚の意思を示した('13年に離婚成立)。
とまあ、試行錯誤が続いたが、'12年の主演映画『ヘルタースケルター』では演技派としての高い評価を獲得。その後は目立つトラブルはなく、来年にはNHK大河ドラマ『麒麟がくる』への出演が決定していた。発表会見では、
「たくさん失敗もしたし、挫折もして学んで、ここまで成長してやってくることができました。(略)沢尻エリカの集大成をここで……、これが本当に自分の集大成だと思っています」
と、意気込みを語っていたものだ。
にもかかわらず、なぜこのタイミングでと考えてしまうが、逮捕翌日の『シューイチ』(日本テレビ系)では、精神科医の名越康文氏がこんな指摘をしていた。
「世間的には、大復活を遂げようとしている矢先なんですが、基底が弱い、性格の基盤が非常に弱い人は、不安でいっぱいになるんです。成功を非常に恐れる。自分はからっぽなのに、こんなに成功していっていいのか、大きな転倒をするんじゃないか、っていうような、予期不安に打ちひしがれるんです」
順調なときほど生じやすいというその不安が、かつての「別に」騒動や今回の事件につながっているというわけだ。とはいえ「基底が弱いからこそ、何にでも没入できて、その役になりきれる」とも。役にハマれることとヤク(薬)にハマってしまうこととはある意味、表裏一体なのだろう。
女優・沢尻エリカの本質とは……
ちなみに、沢尻はひとつの役に取り組むとプライベートでもその人格が抜けなくなるほどの「憑依(ひょうい)型」として知られる。つまり、女優としての適性は十分なのだから、問題は人間としてのバランスのとり方だ。
沢尻は'12年に『週刊文春』で大麻疑惑を報じられた。周囲には「やめられない。これが私のライフスタイル」と話していたという。
そこで気になるのは、'10年に米国・CNNの取材で発した同じような言葉だ。「別に」騒動のあと、謝罪したことについて彼女は「あれは間違いでした」と語った。
「前の事務所が謝罪しなくてはいけないと言ったけれど、ずっと断っていたんです。 絶対したくなかった。これが私のやり方なんだから、と。 結局、私が折れて。でも間違ってた」
この取材ではほかにも「才能ある人たちの行動を制限することは、日本の芸能界の最大の問題点」「そうした状況は変えていかなくちゃいけない」などと持論を主張していた。その後「別に」騒動については「ユーチューブで見返したら、自分でも引いちゃって、本当に反省しております」('14年)と、また軌道修正したが、世の中、特に芸能界に対する不満はまだまだ彼女のなかにくすぶっていて「私のやり方」を通したくてうずうずしていたのかもしれない。
これまでいくつも逆境を乗り越えてきたとはいえ、今回の騒動からの復帰は容易ではない。問われているのは女優としての資質ではなく、人間・沢尻エリカの生き方なのだから。
●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に「平成の死」「平成『一発屋』見聞録」「文春ムック あのアイドルがなぜヌードに」などがある。