双子ママのお受験戦記
「双子を妊娠しているとわかったとき、クリニックはどうしようと、最初はパニック状態でした」と語るのは、開業医として邁進し続ける歯科医師のお母様。仕事をしながらのお受験、双子の合否の行方は。
ご家族のスペック
・お父様:都内出身、桐蔭高校から慶應義塾大学卒業、上場企業勤務
・お母様:地方出身、私立歯学部卒業、開業歯科医
・お子様:男女双子、都内有名お受験幼稚園
――お受験をしようと思われたきっかけは何ですか?
「出産10日前まで私は診察を続け、代診の先生に助けられながら無事に双子を出産、産後2ヶ月からは週に数時間だけの勤務をはじめ、半年で完全復帰。
双子は義理の両親やベビーシッター、保育園などをフル活用し、育児よりも仕事を優先した結果、子どもと触れ合うのは夜のお風呂や就寝時のみ。
たまに、義母がお風呂もご飯も済ませておいてくれたりすると、寝顔しか見られないなんてこともありました。……と、そんな生活を続け、双子が2歳になって言葉が出はじめた頃、衝撃的な出来事があり。
寝言で、“ばあばー”と発したんです!
さらにクリニックで、部下たちにその話をすると、“先生は産み落としただけだと思っていました!”と言われまして。
もちろん冗談でしょうが、微妙に傷つき、主人に相談したんです。主人は“別に他人の評価なんてどうでもいいんじゃない? 君が好きで仕事しているんでしょ?”と言ってくれたのですが、この機会に何か目標を持って子どもと向き合ってみようと思い、はじめたのが受験でした」
――どちらの学校を受験されようと思いましたか?
「双子は男女でしたので、必然的に“共学で主人の出身校でもある、慶應幼稚舎を目指そう!”と考え、近所の保育園をやめて幼稚園に通い、受験対応の託児所でもある『シンガーズ』(※『伸芽’Sクラブ』のこと)に入会しました。
これが素晴らしいシステムでして。
私は朝、双子を幼稚園に送るだけ。あとは、お迎えからはじまり、保育後、幼児教室『伸芽会』の教室に通わせてくださって、さらにその授業が終わったらピアノや英語、絵画などのレッスンもしてくださり、最終的には20時まで預かってくれるんです。
これなら診療が終わってからでもお迎えに行けるので、朝の自宅から幼稚園までの送り、『シンガーズ』から家までの帰宅時に、子どもともいろいろと話すことができて、本当に合理的で便利でした。
保育中や授業中の様子なども細かくフィードバックしてくれますし、子どもたちも慶應に入りたいという自我が芽生え、家族全員で“えいえいおー! ごー! けいおー!”が合言葉となっていました」
――『伸芽会』以外でも何か受験準備はされましたか?
「ある日、患者さんと子どもの受験話になったとき、“幼稚舎はお金かコネが関係するから、お腹のなかにいるときから合否が決まっているようなもの”といった、恐ろしいホラー映画のような話を聞いたんです。
私は幼稚園ママや塾ママとのコミュニケーションがほとんどなかったので、いわゆる“お受験情報”にはまったく精通していなかったので驚きまして。
慌ててクリニックの昼休み、外に優雅なランチにも行かずにパソコンにへばりつき、いろいろな掲示板やお受験情報サイトを覗き見し、“ひょえーっ!”と声を上げながら、おにぎりをつまむ日々が続きました。そんな私をそっとしておいてくれる、歯科衛生士や受付のスタッフには感謝しかありません。
加えて、ネットでさまざまなお受験バイブルも購入し、読み漁りました。こうした研究をするのがもともと好きなので、約1ヶ月でだいたいの情報を整理することができました。ちょうどこのときが年少の秋だったのですが、幼稚園の年長さんの受験結果が出た頃でもあったので、保護者のあいだで受験話も活発になっていたんですね。
そこで、いつもなら幼稚園の前で子どもをおろしたら、そのまま早めにクリニックに出勤するのですが、近くの駐車場に車を停め、歩いて双子を送り、幼稚園ママさんとも徐々にコミュニケーションを開始し、朝カフェするまで仲良く(実際はどうかわかりませんが)なることができました。
そして、この幼稚園に通うほぼ全員が慶應幼稚舎を目指しているという驚愕の事実を知ったんです……。さらに、みなさん両親のどちらかが出身であるか、兄弟がすでに在学中とかなんですよ。お受験掲示板に書いてあった慶應幼稚舎にまつわるドラマみたいな話が目の前にあったんです!」
――お受験の実態に初めて触れたと。
「ええ、掲示板でたまに名前が出る、慶應専門の特別な人しか通えない個人の教室や、体操教室、お絵かき教室などが実際に存在したんですよ!!
ママさんたちの会話を聞いていて、コーヒーを吹き出しそうになるのを必死に堪えて飲み込み、平常心を装って多くを語りませんでしたが、本当に驚きました。
みなさん、幼稚園が終わってから一緒に公園で遊び、時間調整をし、一緒にそのようなお教室に通われているそうです。しかも普通に。シンガーズに丸投げの私には知る由もない、降園後のルーティンワークがあったんです。
ただ、いまさら何をやっても結果がどうこうなるわけでもないので、いつも勉強をみてくださっている『伸芽会』の先生にご相談しながら、できる準備はしっかり進めていきました」
――最終的に幼稚舎以外はどのような学校に出願されましたか?
「『伸芽会』の先生からのアドバイスもあり、複数の学校に出願しました。
幼稚舎のほか、青学と都市大付属、あとは、国立を受験することにしました。結果、兄だけが幼稚舎に合格、妹は不合格、青学は逆で兄が不合格、妹が合格、そして都市大は双子で合格できました。
双子の性格からして、兄の方がコツコツと頑張るタイプなので、将来なりたいと言っている医者になるために、医学部のない青学に進んだとしても、他大学の医学部や歯学部の受験はできるのではないかなと思ったり……。
この結果を双子にどう伝えればええっちゅーねん! と、家族では大騒ぎになりました。双子で進学できる都市大にすべきか、もしくは国立を目指してもうひと頑張りするか……。とりあえずすべての学校に入学手続きを済ませ、国立に挑みました。
朝早くから頑張って並んだんですが、筑波、竹早(※東京学芸大学附属竹早小学校)、お茶の水、すべて抽選で落選したんです」
――難しい選択を迫られましたね。
「そうなんです。もう12月に入っていたので、幼稚舎に合格していると噂のあった幼稚園のお母様に思いきって、朝カフェにお誘いし、相談しました。
すると“幼稚舎を蹴るなんてもったいないから、兄は幼稚舎、妹は青学に進学させるべきよ! 妹は中学でもう一回、慶應中等部や藤沢(※慶應義塾湘南藤沢中等部)を受けても良いんだし、だいたい幼稚舎を蹴る人なんて、世界中に一人もいないわよ!”と言われました。
なんだか気持ちがスーっとして、ずっと一緒だった双子が、別の道を歩む良い機会にもなるととらえ、結局兄は幼稚舎、妹は青学に進学させました。
ちなみに、これはあとになって聞いた話なのですが、なんと双子には双子の受験の仕方があるそうなんです。なんでも、幼稚舎も青学も国立も、実験的な意味合いで同性の双子、男女の双子は毎年一組ずつ合格させているそうで。
そのため、その枠に入りたいならば、ほかにどんな双子がいるのかと、大手のお教室で積極的に情報を集めたり、月齢別の対策をするなど、もっともっと準備をしなくてはならなかったみたいなんです。
入学したら、たしかに幼稚舎にも青学にも双子がいて、それも同性と男女の双子が一組ずつだったんです。あー、やり直したい! でも、双子がそれぞれの学校で楽しく過ごしているようですので、結果的には良かったと思っていますが」
――入学後の生活はいかがですか?
「小学校に入学後も、低学年のあいだは引き続き『シンガーズ』の学童にお世話になり、宿題をやらせてもらったり、塾機能も利用しておりました。私はけっして回し者ではございませんが、『リソー教育グループ』(※学習塾などを事業展開する企業体)のシステム、本当に素晴らしいですよ!
入会金は一度払えば、兄弟やグループ内の教室は無料となるので、現在は同グループが運営する学習塾『TOMAS(トーマス)』や英語教室に通っています。長い夏休みや冬休みは泊まりのキャンプや合宿もあります。
私立って休みに入るの早いじゃないですか。いろいろと仕事を調整したりしないといけないのですが、合宿に出せると、気にせず仕事にも集中できますので、楽させてもらえています」
取材を終えてーー
経済的に余裕のある開業医のご家庭だからこそ、できる技だったとは思います。お受験を趣味の一環として、ゲーム感覚でやられていたんだなと感じました。
お受験の形はいろいろです。このくらい力を抜いて、お受験を楽しまれる形もあるのだなと、お話を伺っていて感じました。決して、この方がされていたことは間違いではございません。
ただ私は、任せっぱなしではなく、ご家庭で、家族の手のなかでコツコツ準備される方が良い結果を引き寄せられるものだと信じております。
<著者プロフィール>
いとうゆりこ◎お受験コンシェルジュ&戦略プランナー。自身の経験から美容や健康・芸能・東京に関するマネー情報まで幅広い記事を各媒体で執筆中。いとうゆりこ受験情報公式サイトは、https://itoyuriko.studio.design