遺体発見現場の元・酒類販売店舗兼自宅

「両親はお見合い結婚。父親は代用教員やタクシー運転手を経て酒店を始め、酒好きがたたって約10年前に病死した。アレは、父親の葬式にも顔を出さなかったんだ」

 と、容疑者の非常識ぶりを打ち明けるのは親戚の男性。

 愛知県瀬戸市の元酒類販売店舗兼住宅で11月12日、業務用冷蔵庫から身元不明の遺体が見つかった。

年金の不正受給が目的ではない

 同宅にひとりで住む無職・小嶋孝一容疑者(58)が市内のスーパーマーケットでカップ麺1個(約85円相当)を万引きした窃盗容疑で同日逮捕され、県警瀬戸署が家宅捜索したところ、腐敗が進んでほぼ白骨化した遺体を発見。

 地元の記者は「そもそもカップ麺1個の万引きで家宅捜索にまで踏み切るのは異例のことだ」と指摘する。

「しかも犯行日は約2年10か月前。常習犯の疑いがあり店側もマークしていた人物で、捜査員は着手時から“絶対に捕まえる”と意気込んでいた。その捜査の過程で遺棄情報が入ったのか、あるいは家宅捜索の副産物か」(同記者)

 孝一容疑者は調べに対し、「遺体は母親だ。自分が冷蔵庫に入れた」などと供述しているという。

 県警によると、冷蔵庫は幅1メートル20センチ、高さ80センチ、奥行き60センチとやや小ぶりなタイプ。司法解剖の結果、死後2年以上、経過していると考えられるというが、死因はおろか年齢・性別さえ判別できない状態のため、身元の特定を急いでいる。

「遺体に着衣はなく、頭を下にするかがんだポーズでタオルがかけられていた。母親は6年前に病死しており、容疑者の3歳上の姉が市役所に死亡届を出している。つまり、生きていることにして年金などを不正受給する目的で隠していたわけではなさそうだ」

 と、前出の記者。

 登記簿などによると、一家4人がこの家で暮らし始めたのは1971年のこと。孝一容疑者は10歳だった。まだ量販店やコンビニが台頭する前の酒店は「ご近所さんに重宝され、それなりに儲かっているように見えた」(利用客)

 しかし、時代の流れにのまれて酒類販売だけでは商売が立ちゆかなくなり、クリーニングのチェーン店を兼ねたり、店先でたこ焼きなどを売った時期も。別の利用客は「言いにくいけれど、父親は酒臭い息をして軽トラで配達することがあり、それも客離れを加速させたと思う」と話す。

繰り返す万引き

 一方、子どもたちは成績優秀だった。孝一容疑者は地元の小・中学校を経て県内で5本の指に入るような進学校に合格し、東大・京大に進むのも夢ではなかった。

「でも、お姉さんはもっと優秀だったんです。比較対象として評価されない孝一くんはおもしろくなかったのか、家庭内暴力をふるうようになり、引きこもってしまった。自宅から言い争う声や物を投げる音が聞こえてくるようになった」と近所の50代女性。

 そんな孝一容疑者をかばったのは母親だった。唐突に「北海道の牧場で働く」と言い出しても、困った顔をしつつ受け止めた。知人によると、きつく叱ったり、突き放すことはなかったという。

「そのうち孝一くんは周辺宅の玄関前などにゴミを捨てるようになった。真夜中から早朝にかけ、スーパーのビニール袋に入れたゴミが複数の家に置かれているんです。複数のゴミ袋を持って歩いているところを目撃した人もいます」(同・女性)

遺体発見現場の元・酒類販売店舗兼自宅は朽ち、周囲はビールケースが散乱したまま

 ゴミは食べ残しのリンゴの芯やティッシュくず、使い古した歯ブラシ、缶詰の空き缶など。酒の銘柄が印字された段ボール箱で捨てることもあった。新築の家にはなぜか、ほぼ毎日ゴミが捨てられた。

 脇が甘いのは、犯行の一部始終を住民らに目撃されていることだ。捨てる瞬間をキャッチし、身元を確認するため尾行した住民や、「警察に通報したことがある」と話す住民もいる。

 若いころから万引きを繰り返していたとみられる。

「容疑者宅前を通ると、室内から“あんた、また盗んだでしょ!”“なんで万引きなんかするの!”などとお姉さんが罵倒する声がよく聞こえてきた。孝一容疑者は言われっぱなしではなく、あーだこーだと言い返していた。声が大きいんだよね」(近所の男性)

 スーパーで万引きする瞬間を見た住民が、

「今日、あそこの家の人が万引きしていたよ」

 と、自分の家族に報告するケースもあった。

 さらに、近所の女性住民らを怖がらせる別の行為も。

「夏でも冬でもひざ丈の黒いロングコートを羽織っていて、早朝4~5時ごろ自宅前を掃き掃除しているんです。女性が通ると、コートの前をバッとはだけて、中はスッポンポン。パンツをはいていないんです」(近所の若い主婦)

※イメージ画は関係者への取材に基づく(イラスト/スヤマミヅホ)

 近隣住民らの話によると、被害者は女子中・高生から50代の女性まで。若い男性に見せたこともあり、コートを広げた姿などから一部で「バットマン」と呼ばれ警戒されていた。

 はだける前から、コートの下にすね毛むき出しの素足が見えているという。

 こうした露出行為についても「通報した」と話す住民がいた。

いくら母親が好きでも……

 約10年前に父親が亡くなると、姉も近所でひとり暮らしを始め、母子2人の生活になった。母親は最後まで息子を見放さなかったようだ。そんな母親の遺体をなぜ埋葬しなかったのか─。

 前出の親戚は、

「おそらく、母親と離れたくなかったんじゃないか」

 と前置きして話す。

「アレ(孝一容疑者)はマザコン。いつも母親にべったりだった。母親は地元政界の家柄で育った世間知らずのお嬢さまで、息子を過保護にしすぎた。いっさい怒らず、可愛がるばかりだったから」

 近所の女性は、そんな母親の晩年の変わらぬ姿を見ている。

 ひと回り小さくなり足を悪くして杖をつくようになっても、息子と外出した。孝一容疑者はその耳元に何やらさかんに話しかけ、母親はフンフンと聞いてあげるポーズをとり続けていたという。

 親戚の男性は言う。

「いくら母親が好きでも、冷蔵庫でミイラにしてもなんともならんでしょうが。葬式はしていないし、火葬場代をケチったのかもしれないが、常識では考えられない」

 約6年間も冷蔵庫の中に入れられては、母親は成仏できなかったろう。没後までベッタリされてはたまったものではない。